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第14話 食事

「……ぁ。ルシアです。ルシア=ノヴァリス。貴方が助けてくださったのですか?」

「あぁー。まあそんな感じかな」


 実際にはヴェルナードの助けあってこそだが、存在を明かせない以上は曖昧に濁すしかない。


「……? そうですか」


 少女は疑問に思ったようだったが、深くは追求しないでくれた。その気遣いは非常にありがたい。


「あらためて、助けていただきありが――」

 

 少女がベッドから出ようとしてバランスを崩した。思うように身体が動かなかったのだろう。


「――おっと」


 僕は咄嗟に支える。

 華奢な身体だ。こんな少女がどうして冷厳山嶺なんて魔境にいるのか。気になるところだ。


「……す、すみません。ありがとうございます」

「安静にしてた方がいいよ。傷、結構深かったから」

 

 あの傷だと大量に血を失っているはずだ。

 上級回復薬を使ったが、決して完治したわけではない。失った血はそのままだし、深い傷はおそらく治しきれていない。

 見れば両足もまだ石化したままだ。

 敢えてそうしたとはいえ、少し胸が痛む。


「……そうですね。すみません」


 少女改め、ルシアは素直にベッドへと戻った。

 

「気にしないで。治るまではここに居ていいから」

「何から何までありが……」


 その時、ぐぅぅぅ〜と控えめに可愛らしい音が鳴った。見ればルシアは顔を真っ赤に染め、俯いている。


 ……こんなベタな展開、ホントにあるんだなぁ。


 僕はそんなことを思い、小さく笑ってしまった。しかしそれはバッチリ聞かれていたわけで……。


「ち、ちがうんです! これは……その……! なにも……食べて……なくて……」


 言葉尻が小さくなっていく。

 どうやら初めてのお客様は可愛らしい人物のようだ。


「何か食べるものを持ってくるね。待ってて」

「はぃ……」


 消え入りそうな声で頷いた姿がおかしくて、僕はまた笑ってしまった。




 手早く料理をすること数十分。僕は作った料理をお盆に乗せて寝室へと戻った。


「おまたせ〜」


 作ったのはお粥だ。病人と言ったらお粥。定番だろ?

 だけどお粥といっても偽物だ。

 米は米っぽい食べ物を使っただけだから。ヴェルナードに聞いても米なんて食べ物は知らなかった。

 そもそも米ってなんだろう。毎日食べていた気がするがよくわからない。多分小さなつぶつぶだ。


「ぁ。ありがとうございます」

「どうやって食べる? 小っちゃい机とかいる?」

「あ、いえ。膝の上で頂きます」

「わかった。熱いから気を付けてね」

「はい」

「食べ終わったらそこに置いておいて。僕は少し出掛けてくるから。安静にしててね」

「わかりました。本当にありがとうございます」

「いえいえ」


 僕は踵を返して寝室を後にした。


「さてと」


 僕は机に向かってペンを取った。

 このペンも魔導具だ。名付けてボールペン。出どころのよくわからない僕のアイデアをヴェルナードが具現化してくれたものだ。

 今から取り掛かるのはこれと同じ。つまりは……。


「……車椅子を作ろう」


 石化は直すのにはかなりの時間が掛かる。七年ぐらい前に左腕をまるまる石化させられたときは苦労した。

 結局治るまでにかかった時間は一ヶ月。それも自然治癒ではなく、たまたま死んだから治ったのだ。だからあれは治ったとは言わない。

 たしか死因は食あたり。高熱で寝込んで死んだ。

 起きたら死体が隣にあって驚いた。


 ともあれ、完治するまでルシアは帰れない。

 あの足ではとてもじゃないがこの山を踏破することは不可能だ。だから過ごしやすいようにと考えた結果、車椅子を思いついた。


「たしか……こんな感じで……ブレーキはこんな感じ? ……だったかな?」


 僕の記憶……というよりもアイデアは不完全だ。いつでも思い出せるような便利なものじゃないし、細部まで完全に把握しているわけでもない。

 モヤのようにあやふやなイメージを掴み、形にする必要がある。

 

 思い出すキッカケも様々だ。

 大抵は「こんなものがあったら便利だろうなぁ」と思った時にふと思い出す。

 

 よって、大部分が手探りとなる。今回で言えば車輪が付いた椅子ぐらいなふんわりとしたイメージしかない。


 だけどそれでもいい。

 足の不自由な人のためになるもの、という用途が分かれば十分。あとは細部を詰めていけばいい。

 トライアンドエラーというやつだ。


 重要なのは初めから完璧を目指さないこと。

 なぜならば理想を求めすぎると永遠に終わらないからだ。

 

 一発目に出来上がる物の完成度は低くていい。精々30%あれば上出来だ。あとは調整や改良をしていけばいずれ良いものができる。

 

 それに改良していく過程も僕はなかなかに好きなのだ。どうやったらいいものになるかを考えるのが楽しい。


「ここは……どうなってるんだろ?」


 なんて頭を悩ませること約三十分。

 車椅子の図面……というには雑すぎるものが出来上がった。あとはヴェルナードと相談して擦り合わせていこう。


 僕は雑図面を描いたスケッチブックを抱えて、ヴェルナードの洞窟(棲家)へと向かった。




 一方その頃、ルシアはお粥と睨めっこをしていた。


「……これは……なんでしょう?」


 白くて温かいナニカ。初めて見る食べ物だった。


「食べ物……なんですよね?」


 スプーンで突いてみるとべちゃべちゃしていて不安になる。だけどせっかく作ってもらったものを残すなんて選択肢はない。

 なによりもルシアはお腹が空いていた。


「よしっ!」


 小さく気合を入れ、よくわからない白い物を口に運ぶ。そして驚きに目を見開いた。


「おいしいっ!」


 そのままパクパクと食べ進めていると、すぐに無くなってしまった。少しだけ名残惜しくなる。


 ……あとで作り方を教えてもらいましょう。


 ルシアはそう心に決めた。


 ……それにしても。


 視線を窓の外へと向ける。

 その先には雪化粧をした巨大な山嶺が聳え立っていた。

 冷厳山嶺。その深部にあるはずの山嶺がここまで近くに見える。


 ……このような場所に人が居たなんて。


 冷厳山嶺は未開地だ。

 野生生物が強すぎて開拓ができない土地。それに加えて真龍種、()()が管理する守護地でもある。

 

 蒼龍はアルセリオン龍王国の白龍と約定を結んでいるため、人類種に仇なすことはない。

 しかし黒白大戦の終結後は人類種との不干渉を貫いている。そんな事情もあり、冷厳山嶺の深部に人が立ち入ることはない。


 ……住んでいるん……ですよね?


 もしかして遭難した人物なのではないかと考えた。

 しかしすぐに否定する。


 ……遭難にしては表情に悲壮感がありませんでしたね。


 なにより、こんなに立派な家がある。

 加えて治療から料理までしてくれた。だとしたら住んでいる可能性が高い。


 ……もしかして、物凄く強い……とか?


 冷厳山嶺で生き抜ける人物。それは歴戦の猛者以上の傑物だけだろう。

 神王国の最高戦力、四方神将よりも強いかもしれない。


 ……いえ、それはあり得ませんね。


 ルシアとて、武術、剣術を学んでいる身だ。

 相手が強いか弱いかぐらいの判断はできる。


 ……私の推測では彼は一般人……のはずです。


 身のこなしから武術の心得はなく、さりとて魔力量もものすごく低い。低すぎるぐらいだ。

 あれでは初歩の魔術ですら使えないだろう。

 なので魔術師という線も薄い。


 ……わかりませんね。


 ルシアから見たレンは謎の人物だった。


 ……だけど優しい人なのは確実ですね。


 見ず知らずの自分にここまでしてくれた。そのことにルシアの胸は暖かくなる。


 ……あとで、色々と聞かせてもらいましょう。


 そんなことを考えていたら瞼が重くなってきた。


 ……安静にしていてと言われたことですし……いいですよね?


 そうしてルシアは眠気に身を任せた。

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