第12話 神の雫
「思ったんだけどさぁ? 石化も魔術でなんとかならないの?」
長かったお説教も小休止となったところで僕はヴェルナードに聞いてみた。
ヴェルナードは黒龍だ。魔力属性は見た目通りの闇。
だけど風の魔術や回復魔術も使えないわけではない。
現に騎士の応急手当てもしている。
だから魔術でちょちょいっと治せないのかと思った次第だ。
しかしヴェルナードは首を横に振った。
「残念ながら出来ないよ。ただの傷ならまだしも、レフンネルの魔眼はね」
「何か違うの?」
「魔術と呪いは別物なんだ。レフンネルの魔眼はかなり強い呪い。光属性の、それもかなりの使い手じゃないと完全には治せないよ」
「真龍種でも治せないのかぁ」
「アルセ……白龍なら治せるだろうね。だけどボクじゃ無理だよ。そもそも属性が正反対だからね」
「ほえー」
よくわからないが、魔術にも色々とあるらしい。使えない僕にはよくわからないけれどね!
「……でも、それならやっぱり死ぬしかなくない?」
治せないなら死んで復活した方が手っ取り早い。
……まあそれを親友にやらせるなという話ではあるんだけど。逆の立場なら絶対にやりたくないしね。
だけどまた、方法がないのも事実。
「いや、あるでしょ……。持ってきてないの? アノ回復薬」
「……あ」
あった。確かになんかすごい回復薬ならば治りそうな気がする。
だけど同時に問題もあった。
「……」
ヴェルナードの視線が痛い。完全に呆れている。
「ボク、アレはすごいからいつも持っておくようにって言ってたよね?」
「……でも急だったからさ」
今回はたまたまだ。たまたま忘れていただけ。しかしそんなことはヴェルナードにとって関係ない。
「言い訳無用」
「スミマセン」
素直に謝ると、ヴェルナードは深い深いため息を吐いた。
「……わかった。わかったよ。やればいいんでしょ。やれば。だけど今度から回復薬は必ず携帯しておくように。約束してくれるならやるよ」
「わかりました。約束します……」
「本当にわかってるのかなぁ。前にも同じセリフを聞いた気がするよ」
いや、本当に申し訳ない。
「ヴェルナード?」
「なに?」
「痛くしないでね?」
「なんでそういうこと言うのかなぁ? まあいいや。じゃあ3、2、1でいくからね」
「わかった。どんとこい」
「……。いくよ。3――」
次の瞬間、僕の視界は暗転した。
まだカウントダウンは始まったばかりだと言うのに。やられた。
だけど要望通り、痛みは全くなかった。文句は言わないでおこう。
「このさぁ!? 服ってどうにかならないのかなぁ!!!」
「仕方ないよ。魂から蘇生してるからね」
復活してすぐ、僕は自分の死体から服を剥ぎ取っていた。ヴェルナードが上手い殺し方をしてくれたおかげで血は掛かっていない。
だけど石化は別だ。ズボンがカッチコチだ。
「こんのクソ鳥めぇぇぇ」
腰下まで石化が進んでいたため、無理矢理剥ぎ取ったらズボンはブーメランみたいになってしまった。最悪だ。
これではただの変態である。
本音を言えば着たくない。だけど下半身裸になるよりはマシだから着るしかない。
本当にガチャ目鳥はクソだ。害でしかない。
「プ……クククッ」
「このっ! 笑ったなぁ!?」
「だって……ねぇ? まあボクに殺させたバツと思うことだね」
「ぐぬぬ」
そう言われてしまえば何も言えない。
「まあ冗談はこの辺で。……さてレン。これからどうする?」
「そこなんだよね……」
僕は死ぬほどダサい格好のまま、騎士に視線を向けた。
このまま放置はできない。
きっと僕たちが離れた瞬間に殺される。今はヴェルナードという最強の存在が近くにいるから襲われていないだけだ。
だけど僕たちが離れた瞬間、野生生物たちはエサに群がるだろう。
しかし、なんとか王国に連れて行くこともできない。連れて行くならヴェルナードに運んでもらう都合がある以上、存在が露見するリスクがある。
だからなしだ。
となると僕たちの拠点に連れ帰るしかないわけだけど……。
僕はそーっとヴェルナードを盗み見た。
「ボクは構わないよ。レンがヘマしないかどうかは心配だけどね」
「……キヲツケマス」
そうとしか言えない。まあだけど、助けるという選択をしたのは僕だ。
その僕が、僕たちの平穏を崩すわけにはいかない。
いつも以上に気を張っていよう。
「まあでもすぐ出て行って貰えばいいんだし」
「……ん? レン。もしかしてアノ回復薬を使うつもり?」
「え? そうだけど?」
さっさと回復させて出て行ってもらう。それが最善のはずだ。
僕が送り届けてもいい。正直なところ、騎士が自力で動けるようになってくれれば、森を抜けることは割と容易だ。
僕にはこの十年間の経験がある。
「それはダメだね。……良い機会だから、この際ちゃんと説明しておくよ」
「……?」
「キミが普段雑に扱ってる回復薬は神の雫と呼ばれるモノなんだ」
「神の雫? なんか大仰だね」
「大仰だよ。なにせ死んでいなければどんな呪い、病、怪我でも治す万能薬だからね」
「わお」
実際のところ、僕はあの回復薬を使ったことがない。野生生物の対処法を確立させてからは大怪我をすることはなかったし、大体大怪我したらその場で死んでいる。
だからどれほどの効力があるのかをいまいち理解していなかった。
「あれ? もしかして前に一生暮らしていけるって言ってたのは盛ってなかった?」
「盛ってないよ……」
「なんかゴメン……。でもなんで使っちゃダメなの?」
「治しすぎちゃうんだよ」
「治しすぎる……?」
それがなぜダメなのかがいまいちピンとこない。
「いいかいレン。この子が目覚めて石化が治っていたらどう思う?」
「……んー。あぁー。なるほど」
ヴェルナードの言葉でなんとなく理解した。
真龍種であるヴェルナードにすら治せない呪い。それがガチャ目鳥の呪いだ。
それを治せるということはとんでもない効力を持った何かを僕が持っていることになる。その情報を渡すのが良くないということだろう。
「一応補足しておくけど、レン自身が魔術を使えないことは丸わかりだからね。回復魔術の線はすぐに排除できる」
「……なんか悲しくなってきた。でもそんなにわかりやすいの?」
「魔術の心得が少しでもある人なら丸わかり。魔力が少なすぎる」
「悲しい!」
なにせ一発で「こいつ才能ないな」とわかってしまうのだ。なんか恥ずかしい。
「だから神の雫とは思わないまでも、近い何かを持っていると結論付けるのが普通だ。もし、それが外部に伝わると……」
「回復薬を求めて争いが起こるかもしれない、と」
「そういうこと」
「え、ならどうしよう……」
さっさと回復させてさっさと出て行ってもらうつもりだったのに早くも計画が瓦解した。
これではリスクが大きい。
すると一生懸命頭を働かせている僕を見てヴェルナードがため息を吐いた。
「……効能を落とした回復薬で治療するのが最善かな。そして石化が回復したら出て行ってもらう。それまでボクは洞窟に隠れてるよ」
洞窟とはヴェルナードの棲家のことだ。
今も洞窟と呼んでいるが、中はこの十年で様変わりしている。
より快適に、より機能的に。僕のアイデアで魔改造済みだ。
結果、ここからは少し距離があるものの、道が整備されている。野生生物対策も行っており、今では安全に行き来できるようになった。
「それしかないか。なんかごめん。苦労かけちゃうね」
「大丈夫。魔導具でも作ってるから」
「なにかあったら魔導具で連絡して。駆け付けるよ」
「何かあるのはレンの方じゃない?」
「そんな気はするね……」
一人と一龍で一緒に苦笑を漏らす。
「じゃあ運んじゃおうか。レン。その子の鎧を外してもらえる?」
「鎧?」
「うん。だいぶ酷い状態だから、ボクが掴むのはやめた方がいい。死んじゃう。だからレンが背中で支えて。鎧は掴んでいくから」
「了解。……じゃあ失礼……って本当に酷いな」
僕は騎士の状態を見て、眉を顰めた。
「コレは痛そうだ」
身体中は傷だらけ。
両足は足首まで完全に石化しているし、足なんか膝から変な方向に曲がってしまっている。
前に木から落ちた時に僕もこんな風になっていたっけ。まあ完全に折れている。
「早く治療してあげないとだね」
僕は呟きつつ、頭部に手を伸ばした。
留め金を探し出し、カチャリとロックを外す。そして慎重に引っこ抜いた。
「……え?」
そこから現れた顔は非常に整っていた。
だけど驚いたのはそこではない。完全に予想外だ。
まさか女の子が出てくるとは。
仰々しい全身鎧だったから、てっきり男の人が出てくるかと思っていた。
しかしよく考えれば鎧自体がそれほど大きくない。小柄なのだ。可能性としては全然あり得た。単に気付かなかっただけだ。
……それに、かなり美人だよね?
どちらかというと可愛らしい印象を受ける。
整った顔立ちに金色に輝くふわふわとした髪。全身鎧なんて着ていなかったら妖精なんじゃないかと勘違いしていたかもしれない。
「……やめていいかなぁ?」
鎧とはいえ、着衣であることには変わりない。
だからか、服ではないけれどかなり抵抗感がある。
「じゃあこのまま支える?」
「一回試してみてもいい?」
ヴェルナードが視線で「どうぞ」と促す。「絶対無理でしょ?」と顔に書いてあった。
悔しいのでがんばる。
「いっせーのー! よっ! ぉぉぉおおお?」
重い。重すぎる。なんでこんなに重いんだ。
いくらなんでも重すぎだろう。
チラッとヴェルナードを見ると「ほらね?」と顔に書いてあった。悔しい。
「ほら。早く脱がして」
「脱がすとか言わないでよ!」
だけどぐだぐた言ったところで重量が減るわけではない。
……顔色もあんまり良くないし。
このまま時間をかけるのはかわいそうだ。
「よし! やるぞ! そしてごめんなさい! 脱がします!」
誠心誠意心を込めて頭を下げる。
それから僕は手探りで鎧を脱がしていった。パーツだけなのにかなり重い。
こんなに重いものを女の子が纏っているなんて。
……いや、ホントよく着れるなこんなの!?
僕なら一歩も動けなくなってしまうだろう。
だから多分魔術だ。そうに違いない。ズルい。
「…………これで……よし!」
それから十分と少しぐらいの時間で鎧を脱がし終えた。不用意に触らないように気を付けていたから、結構大変だった。
「じゃあ行こうか。背中に乗って」
「……わかった。ごめんなさい。すこし触ります」
そう呟いてから、少女を抱き抱える。
身体は驚くほど華奢で、軽かった。よくここまで生き残れたなと思うほどに。
……こうしてみると普通の女の子なんだよな。
そうなると疑問が湧いてくる。
この少女はなぜこんな危険な場所に来たのか。
僕にはそれがとても気になった。
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