第11話 救出劇
ヴェルナードの背に乗り、凄まじい速度で飛翔する。雲の上から見下ろすは荘厳なる大自然。
だけどもう見慣れた光景だ。この十年で空を飛ぶ機会は何度もあった。
だから僕は淡々と準備を行う。
事態は一刻を争う状況だ。今この瞬間にも人が一人死にかけているかもしれない。
だからほとんど準備は出来ていない。使えるのは常に携帯している魔導具数種類のみ。
限られた物資で、騎士を救わなければならない。
それもヴェルナードの存在を秘匿し、なおかつ僕の【不老不死】がバレないように。
結構な無理難題だ。でも、だからこそ今持っている魔導具で出来ることを考えておく。
「レン。あそこ」
そうこうしている内に、ヴェルナードが声を上げた。
指差す先へと望遠鏡を向け、覗き込む。するとすでに騎士見習いは窮地に陥っていた。
……マズい!
騎士の前に立ちはだかっているのは目覚めた初日に見た六本腕の熊。
ヴェルナードは容易く切り裂いたが、ヤツの毛は信じられないほどに硬い。僕がどう頑張っても傷一つ付けられないぐらいだ。
騎士見習いなんかでは逆立ちしてもう勝てないだろう。
だけどそれは僕も同じ。凡人である僕が助けに入ったところで勝てる相手ではない。
しかしやりようはある。なにせ勝つ必要はないのだから。
「ヴェルナード。僕が時間を稼ぐ。合図をしたら助けて!」
「わかった。タイミングは任せるよ」
伊達に十年も一緒に暮らしていない。意思疎通はこれだけでバッチリだ。
「じゃあ行ってくる!」
「うん! くれぐれもあの騎士が見てるところで死なないようにね!」
「わかってる!」
ヴェルナードの言葉に頷き、僕は宙へと身を躍らせた。
直後襲ってくる浮遊感。
超高高度からの自由落下。
……いや! めっちゃ怖い!
このまま地面に叩きつけられても僕はすぐに蘇る。
きっと痛みも感じないだろう。だけど怖いものは怖い。
空は人間の領域じゃないんだ。こんなものを楽しめる人は絶対に頭のどこか(主に恐怖を感じる部分)が壊れてる。
……こんなことならパラシュートでも作っておくんだった!!!
とは思っても、時すでに遅し。
地面は刻一刻と近付いてくる。
だから僕は懐から棒状の魔導具を取り出した。
そして側面に付いている突起を押し込む。すると内部のロックが外れ、僕の身長ほどの長い棒に変形した。
この魔導具は地面に突き刺さったときにしか正しく機能しない。木の枝なんかに当たったら最悪だ。
絶対に折れて僕は死ぬ。だから何がなんでも地面に突き刺さなければならない。
……あとは場所を……あった!
僕は姿勢を制御して開けた場所へと向かう。
凄まじい速度で近づいてくる地面。加えて風圧で前がよく見えない。だけど泣き言を言っても始まらないのも事実。――あとは気合いだ。
僕は気合いで目を開き続けた。
そしてよく見えない視界でタイミングを見計らう。
……3、2、1、ここ!
ほとんど勘だった。
僕は地面に向けて棒を突き出す。すると直後、フッと浮遊感が消えた。
そして地面に叩きつけられる。しかし衝撃は微々たるモノ。
……よし! 成功!
この魔導具の効果は落下エネルギーの無効化。
高いところから地面に棒を突き刺して、衝撃を和らげる移動法を参考に、超絶強化した代物だ。
前に高所からの落下で死んだ時にヴェルナードに作ってもらった。
ともあれ。こんなに超高高度で使ったのは初めてだったが、うまく行って良かった。
……次はゴーグルでも付けよう……っと! 急がないと!
こうしている間にも、あの騎士は死にかけている。
考え事をしている場合ではない。
僕は棒を仕舞いながら、身体を起こし、騎士の元へ向けて駆け出した。
ソイツが目の前に飛び込んできた時、僕は盛大に顔を顰めた。
……うげぇ! なんでガチャ目鳥がいるんだよ!
目に飛び込んできたのは最悪の光景。
騎士を挟み込むように熊とガチャ目鳥がいた。
この鳥は嫌いだ。今まで何度殺されたことか。
ヴェルナード曰く、あのガチャ目は魔眼らしい。
端的に言うと、見られたら石化する。なぜか見る時だけガチャ目じゃなくなるのがより気持ち悪い。
本当に、心底気持ち悪いのだ。たぶん僕はあのガチャ目鳥と相性が悪い。生理的に無理とはこのことだ。
百歩譲って良い点をあげるならば死ぬ時に痛くないことぐらいか。だけど指先からじわじわ石化していくから普通に怖い。
とにかく、あのガチャ目鳥は嫌いだ。
幸運なのは熊と鳥が敵だったことか。
ガチャ目鳥は双方を睥睨するかのように対空していた。熊はもうカッチコチだ。
だけどこれは熊の方がガチャ目鳥にとって脅威だっただけのこと。
次に視線が向けられるのは騎士だ。
そして僕の予想は正しかった。
ガチャ目がグルンッと蠢き、騎士を視た。石化が始まる。
……マズい!
このままでは騎士が死ぬ。だから僕は落ちていた石を拾い、ガチャ目鳥に向かって投擲した。
少しでも意識を逸らせればと思って。
しかし現実は非情。
僕のへなちょこふぉーむから放たれた石はどこかへと飛んでいくだけだった。慣れないことはするものじゃない。
……あぁ! もう!
だから僕は諦めた。
諦めて、騎士とガチャ目鳥の間に身体を割り込ませる。自滅行為だが、仕方ない。視線を切るにはこれしか方法がなかった。
「――間に合った……よね!?」
がむしゃらに走ったため、騎士の石化がどれほど進んだかはわからない。だけど間に合ったはずだ。そう信じたい。
……くそ!
ガチャ目鳥が唐突な乱入者である僕を視た。すると即座に石化が始まる。
今度は僕がピンチだ。
「まったく……! 陰湿なんだよこのガチャ目野郎!」
石化が始まる箇所は決まって足からだ。ガチャ目鳥はまず獲物の機動力を奪うために足を注視する。
……こんなことなら閃光球でも持ってくればよかった!
ガチャ目鳥が相手とわかっていたら絶対に持ってきていた。
だけどないものねだりをしても意味はない。今は手元にある魔道具で時間を稼ぐ。気合いだ。
「そこの騎士さん! 動ける!?」
逃げられるなら逃げて欲しかった。少しぐらい足が砕けても治す手段はある。
そして遠くに逃げてくれるなら、僕は死ねる。
「……」
だけど反応はない。
その間も石化は止まらず、着々と身体が石になっていく。この感覚はいつまで経っても慣れない。
本当に気持ち悪い。僕の心に焦りが募る。
「騎士さん!?」
しかし、やはりというべきか呼び掛けても反応はない。
……もしや?
そう思い、僕は声を張り上げた。
「このバカ騎士! 聞こえてるなら返事ぐらいしたらどうだ!? このドアホ!」
「……」
やはり反応はない。
ならば好都合。僕たちの――勝ちだ。
僕は懐から笛を取り出し、思いっきり息を吹きかけた。壊れていないことは空で確認済み。
そして笛から出てきたのは掠れた音――。
次の瞬間、空から落ちてきた漆黒の剣がガチャ目鳥の脳天を貫いた。
血を吹き出しながら力なく崩れ落ちるガチャ目鳥。そこに降り立ったのは漆黒の影。最強の真龍種、ヴェルナードさんだ。
「早かったね」
「うん。タイミングよく気を失ってくれた。……死んでないよね?」
間に合わなかった。なんてことになっていたら最悪だ。後味が悪すぎる。
しかしそんな僕の考えは杞憂だったようで、騎士を確認したヴェルナードは一つ頷いた。
「生きてるよ」
「良かった。なら目を覚ます前に……ってこれからのことを考えてなかった。どうしようヴェルナード」
「まったく。キミって人類種は……」
盛大なため息を吐かれた。解せぬ。
ともあれ、まずは石化を解かなければ。しかし、なんかすごい回復薬はお家の中だ。となると手段は一つ。
「ヴェルナードさん? あの……非情に申し訳ないんですが、……スパッとやってもらえないでしょうか?」
「……」
次は盛大に顔を顰められた。
しかしそれも当然だ。殺してって言っているのだから。
「あのねレン。前にも言ったけど……」
僕は知っている。ここから始まるのはすごく長いお説教だ。なにせこれが初めてではない。本当に申し訳ない。
だけど今は聞いてる時間がない。騎士が目を覚ましたらこれまでのがんばりがすべてぱぁだ。
と思ったらヴェルナードが指を一振り。
「アノ……なんの魔術を使ったんです?」
「応急処置と昏睡、そして結界の魔術だよ」
「……oh」
終わった。これは長くなりそうだ。
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