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第10話 野生生物

「はぁ……はぁ……巻きました……よね?」


 ルシアは荒くなった呼吸を整えながら、木に背を預けた。

 何もせずに逃げても長猿(エンビ)は知能が高い。よって、すぐに追いつかれる。

 だから魔術を駆使し、追跡を撹乱させつつ、逃げ続けた。

 鳴き声のしない方へ、気配のない方へと。

 結果的に疲労は倍増したが、なんとか逃げ切れた。

 耳を澄ませても、もう特徴的な鳴き声は聞こえてこない。


「はぁー」


 ルシアは安堵してズルズルと地面に座り込んだ。


 ……よかった……。


 心の中でしみじみと呟く。

 いつ死んでもおかしくない逃走劇だった。

 だけど休んでいる暇はない。こうしている今も周囲には野生生物が潜んでいる。


 ……帰りましょう。こんなの命がいくらあっても足りません。


 今のは運がよかっただけ。

 何か一つのミスで自分は死んでいたとルシアは正しく認識していた。


「よしっ!」


 ルシアは小声で気合を入れ直して立ち上がる。そして気付いた。


 ……ここはどこでしょう?


 サァッ――っと血の気が引いていく。

 逃げるのに必死で方角なんて気にしている余裕はなかった。なにせ少しでも足を止めたら死ぬ状況だ。

 仕方がない。仕方がないが、危機的状況なのは変わらない。


 ……遭難……ですね。


 ルシアは空を見上げて途方に暮れた。内心とは裏腹に空は雲一つない快晴。恨めしくなる。


 ……お祖母様が視た預言は、流石にこの状況ではありませんよね?


 ルシアから見た祖母は心優しく、孫には甘い人物だ。甘やかされているという認識を本人が持つぐらいには甘い。

 幼い頃はよく甘いお菓子を貰ったし、両親に叱られた時は慰めてもらった。祖母はいつもルシアの味方だ。

 

 だから冷厳山嶺へ行けと言われた時、ルシアは自分の耳を疑った。

 まさか()()祖母がそんなことを言うなんて思わなかったのだ。

 

 新米騎士が冷厳山嶺に立ち入る。

 それは見方を変えれば死んでこいと言われているようなものだ。

 当然「できません」と拒否した。それは両親も同じ。

 

 ルシアと同じ教育を受けてきた父は預言を盲信してはいない。だから娘を守るため、預言が表に出る前に対処しようとした。

 そんな父を見て、祖母は嬉しそうに微笑んだ。そしてルシアに向き直り、こう言った。


 ――ルシア。貴女にとっては過酷な道となるでしょう。ですが、これは神王国にとって必要なことです。


 過酷なんてものじゃない。

 しかし同時に祖母の真剣さが伝わってきた。行かなければならない理由がある。

 それをルシアは感じ取り、頷いたのだ。祖母が大好きだったから。


 ……頷かなければよかった……。


 今更ながらにそう思う。

 自分の考えが甘かったことを、身をもって痛感した。まさか冷厳山嶺がここまで過酷な環境だとは。

 見聞きするのと実際に訪れるのではワケが違う。


 ……でも、お祖母様には何か考えがあるはず。


 ルシアはそう思い込むしかなかった。

 そうなると問題は進むか、留まるか。


「……進みましょう」


 留まっていたら何も始まらない。そう判断し、ルシアは立ち上がった。




 再び歩き始めてから僅か5分後。ルシアは見たこともない生物に遭遇した。

 腕が六本もある巨大生物だ。身長はルシアの三倍。

 

 ルシアは神国騎士団に入る前、王都の貴族学院を首席で卒業している。当然、冷厳山嶺に分布している生物はすべて把握済みだ。

 よって、少なくともこの野生生物は神王国では確認されていない。


 新種だ。


 巨大な体躯に丸太のように太い腕。圧倒的な体格差に加え、手数の多さもある。

 ルシアは瞬時に勝てないと悟り、逃走を開始する。しかし次の瞬間、視界が凄まじい速度で動いた。


「ぐぁ――!」


 一瞬の浮遊感。直後、身体に衝撃が走った。


「くぅ……」


 全身に走る痛みを我慢し、なんとか立ち上がる。だがその時には既に、腕を振り上げた状態の熊が目の前にいた。


 ……マズ――。


 ルシアは避け切れないと判断。即座に剣を引き抜き、魔力を流し込んだ。


 ……受け流さないとっ!


 まともに食らえば押し潰されて即死。そんな状況下でルシアは冷静に熊の攻撃を見極めた。

 熊の爪が刃を滑り、後方へと流れていく。そして一歩踏み込み、ガラ空きになった熊の首を一閃。

 

 しかし背から現れた二つの腕に阻まれた。そして再び衝撃。


「がはッ――!」


 死角から現れた爪に胴体を貫かれた。

 地面を数回跳ね、木に激突して止まる。


「かッ――」


 激痛がした。まるで熱せられた鋼を腹に押し付けられているような感覚だ。

 腹部の周りが暖かくなっていく。

 大怪我しているのは間違いない。ないのだが、確認している暇もない。

 ルシアはすぐに体勢を立て直し、剣を構える。しかし身体に力が入らず、地面に膝をついてしまった。


 びちゃり――と水音が響く。

 恐る恐る地面を見ると、そこには赤い水たまりがあった。


 ……これ……私の……。


 夥しい量の出血に意識が遠くなる。しかしルシアはすぐに回復魔術を使用した。

 手に暖かな光が灯り、傷を癒していく。しかしそれは大きな隙となった。

 ルシアの身体を大きな影が覆う。


 ……動いて! お願い!


 ルシアは地面に剣を突き刺し、立ち上ろうとした。だけど足は震えるばかりでいうことを聞かない。


 ……あれ?


 しかしそこで攻撃が来ないことに気付いた。視線を向ければ、熊は腕を振り上げた体勢で止まっている。


「……なに……が……?」


 するとその時、熊に変化が起きた。体表が灰色に、まるで石のように変化していく。

 初めは熊の能力かと疑った。だけどすぐに違うと気付く。


「……これ……は!」


 ルシアの脳裏に一つの名前が浮かんだ。


 ――石化怪鳥(レフンネル)


 両目に魔眼を持つ大怪鳥。

 その眼に見つめられたら最後。石化して身動きが取れなくなり、やがて死に至る。

 この石化も厄介極まりなく、治すのにかなりの時間と労力を要することで有名だ。

 遭遇したら視られる前に逃げろ。

 そう言われている超危険生物だ。


 ……逃げ……なきゃ!


 ルシアは身体に鞭を打って逃げようとした。しかし、既に両足は動かない。

 力が入らないのではなく、動かない、だ。

 見れば、足首までが灰色に変色していた。


 ……どこ……から!?


 直後、背後から巨大な羽ばたきの音が聞こえた。

 視線を向ければ、霞む視界の中、ルシアを見つめる石化怪鳥(レフンネル)が――。


 ……だめ……まだ……。


 無情にも視界が暗くなっていく。

 ここで気を失えば待っているのは死だ。

 しかし血を失いすぎた身体は言うことを聞かない。

 

 そこでルシアは意識を失った。


「――間に合った……よね!?」


 そんな声を聞きながら。

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