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9話「職務質問してくる幼馴染み公務員はやたら馴れ馴れしい」

「リュウヤもリンカちゃんも、仲が良くて微笑ましいねぇ」


 窓から見える二人の姿を見送り、オカンは笑顔を浮かべる。


「さて。母ちゃんはちょっと大掃除でもしようかね」


 古くさい〈ホコリ叩き〉を手に、オカンは大掃除を始めるのだった。


 ***


「変な目で見られたじゃねぇか。あの店員、絶対にSNSで呟くぞ」

「気にすんって。名声ってのはそうやって上がるもんだ」

「悪名の間違いだろ」

「同じ事だろ」


 タツマは同じ苦労を分かち合える親友……のはずなんだが、ちょっと疑問に思えてきたぞ。

 こいつは名声と悪名が比例する男。一般人の俺とは価値観が違うのかもしれん。


「デーモン素材とかエクス・マンドラゴラなんて変人しか買わねぇよ。誰か呪い殺すのか?」


 どれも高度な呪術やヤバい錬金術に使われるような素材だ。

 しかも希少なのでべらぼうに高い。

 帯付きの札束を6つも出したのなんて初めてだわ。店員も二重の意味でドン引きしてたじゃぇか。俺もドン引きだよ。


「はは、俺にそのまま使えるはずないだろ。作ってほしいアイテムに必要だって言われたんだよ」

「どんな非合法アイテムだよ」

「ソロ活動するには法なんて守ってらんねぇってことだな、はは」

「だから追われんだよ」

「かもな」


 ヘラヘラ笑いながら素材を収納ボックスに放り込むタツマ。

 その収納ボックスも国宝級アイテムなんだよな……うらやましい……。


「これは今回の礼だ。やるよ」


 小さな小瓶を気軽に投げてくる。


「おっとっと……」


 落としそうになるがギリギリキャッチ。

 ぱっと見た感じは普通の青ポーションぽいが、金粉みたいな煌めきが見える。


「なんだこれ? 普通のポーション……じゃないよな?」

「エリクサーだ」

「ぶっ!」

「唾が飛んだヨ。汚いアルね」


 服に掛かった唾をのんきに拭うアホ女。

 お前には〈エリクサー〉の価値が分からんのか?

 この小瓶一つで札束一つ二つは飛ぶぞ。

 そしてタツマ。

 そんなもんをポイッと投げてくんな。

 落としてたら一生もんのトラウマだったわ。


「友情込みの感謝代ってやつだ。リンカにはこれやるよ」

「さすがタッちゃんアル!」


 五百円のポテトスナック袋を渡されて大喜びのアホ女。

 そして真っ昼間の往来で袋を開けてムシャムシャ食い始める。


「お前らはこの後どうすんだ? 帰るのか?」

「この後は〈サトリ〉で雑貨、〈マキィ〉で食材調達だな。昼飯はそこで食うつもりだ」

「そっか。暇だし、一緒に行ってもいいか?」

「……本当に暇なのか?」

「なんだ?」


 俺は大通りの先を指さす。


「げ、マジかよ……」


 豆粒に見える人影に雷みたいなエフェクトが掛かっているのがはっきり見える。

 あれはきっとサンダー系上位魔法の予兆だ。

 町中であんな大魔法ぶっ放したら普通に逮捕案件だが、例外がある。

 その例外が、〈治安局員〉が犯罪者を捕まえるときだ。

 犯罪者を捕まえるためには多少の被害はやむを得ない——それが奴らの考えである。

 そして、一人であんな大魔法をぶっ放せる奴は限られる。

 タツマのいるタイミング、初手で大魔法をぶっ放すような潔さ……。


「おい、認識阻害はどうした? モロバレしてんじゃねぇか。どうなってんだよ。俺とリンカだけ無効なんじゃねぇのか」

「はははは、個人指定なんて出来ねぇよ。これに出来るのは大まかな指定だけだ」

「どんな指定したんだよ」

「俺の友人、だ」

「お前はアホか」


 お人好しのタツマがそんな指定したら、絶対にあいつも含まれるに決まってる。


「悪りぃ、一緒に行けなくなったわ。両手に花のデート、楽しんでくれ」

「アホなこと言ってないでどっか行け。巻き添えはごめんだ」

「はははは! リュウヤ、リンカ、またな——!!」


 もの凄いジャンプで一気に空に飛び、そのまま空を飛んで逃げるタツマ。

 そして、地上からそれを追うように空を駆ける〈咲き乱れる雷龍ブルーミング・サンダー・ドラゴン〉。

 通行人達が、空の彼方で行われている超人対魔法のバトルをもの珍しそう見上げる。

 一般人にとっては魔法なんて珍しい見世物だし、探索者にとってもあの規模の魔法が見られるのは珍しいので興味深いのだろう。

 俺にとってはあんな遠くの攻防より、その魔法を放ち、吊り目でこっちに来る女の方が気になる。

 ここは関わらないよう、人畜無害の外国人アピールをしよう。


「ハロー。お仕事お疲れ様デース。これからも応援してマース。じゃ——」

「待ちなさい、リュウヤ。職務質問よ」

「ワタシクシ、リュウヤ、チガウネ。カンコウキャクアル。ネ、リンファチャン」

「ミーちゃんもコレ、食べるアルか? サクサクで美味しいヨ」


 別人作戦失敗。

 アホ女に即興劇を期待した俺が馬鹿だった。


「何味?」

「コンソメ味アル……モグモグ……」

「一枚だけ貰うわ」


 職務質問しようとしてる相手から食いもん貰うんじゃねぇよ。


「分かってると思うけど、私に賄賂は通じないから」

「もう一枚いくアルか?」

「ええ」


 通じてんじゃねぇか。仕事しろ。サボりを密告するぞ。


「さて、リュウヤ。隠さずに正直に言いなさい」

「なにをだよ」

「タツマと一緒にいたわよね? 通報があったのよ」

「通報?」

「希少素材をまとめ買いした怪しい奴がいるって」


 あの店員、SNSじゃなくて治安局にチクったのか。


「特徴を詳しく聞いたら、あんたとリンカだってすぐに分かったわ」


 まあ、俺の外見は普通だが、リンカは外面だけは良いからな。

 口を開かずじっとしてればファッションモデルに見えなくもない。

 普通の男と美女が希少素材を爆買い……怪しいなんてもんじゃないな。俺でも通報するわ。


「で、あんたら貧乏人にそんな大金が払えるはずがない」

「決めつけんな」

「本題。タツマの目的は何? 今度は何を企んでるの?」

「知るかよ、本人に聞け。ほら、お前の魔法とまだ格闘してるぞ」


 空の彼方、豆粒にしか見えないが、馬鹿デカい雷龍魔法と格闘してるからハッキリ位置が分かる。


「遊ばれてるだけよ。近寄ったらすぐ逃げるに決まってるわ」

「だな」

「とりあえずムカつくから、追加で——〈咲き乱れる雷龍ブルーミング・サンダー・ドラゴン〉」

「鬼かよ」


 二つの大魔法相手に空中戦を繰り広げるインフレ男——強く生きろよ。


「さあ、吐きなさい。タツマの目的はなに?」

「だから知らねぇって。さっき偶然会ってあいつの買い物に付き合っただけだ。それ以上でも以下でもねぇよ。なあ、リンカ」

「タッちゃんはお菓子くれたアル……モグモグ……」

「そういうことだ。隠すことなんてねぇよ」


 アホ女に隠し事をさせる術があったら俺が知りたい。


「……そうらしいわね。リンカは嘘をつけないから」

「よく分かってるじゃないか」

「でも、簡単に騙されることも知ってるわ」


 それは否定できん。


「だから今日一日、あんたらの行動を監視する」

「拒否する」


 治安局の制服着た女と一緒に行動なんて出来るか。そんなもんピエロじゃねぇか。絶対にSNSで晒されるに決まってる。


「拒否したら公務執行妨害と無差別傷害幇助で逮捕する」

「……はぁ、分かったよ。俺は善良な市民だからな。治安局員様には喜んで協力するよ」

「懸命な判断ね」


 タツマよ。次に会ったら慰謝料請求してやるからな……。


「もう一枚食べるアルか?」

「貰うわ。コンソメチップスは大好きだから」


 不審者認定の奴となごんでんじゃねぇよ。

 治安局員〈賢者〉立花 ミサキ。

 この女は、色々な意味で俺たちの幼馴染みで間違いない。


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