5話「初めての動画投稿」
あー、こいつらムカつくわ〜。
俺はSNSに投稿されてプチバズり中の投稿を見てPCキーをトントン叩く。
『珍種発見! ダンジョン前でピクニック!? (30秒の動画)』
盗撮して晒してんじゃねぇよ、ゴミが。
『アホwww』
『どこの田舎もんだよw』
『見るからに馬鹿w』
『関わったら負け』
アホと馬鹿はリンカの専売特許だ。俺を巻き込むな。
『まさかのおはぎw 原始人かよw』
『風呂敷って時代劇以外じゃ初めて見た。ありがとう』
『タイムトラベラーでは? 国は保護すべきだと思うw』
うっせぇよ、ボケ。俺だってオカンに会うまではおはぎも風呂敷も見たことなかったわ。
それにオカン以外は探索者の格好してるだろ。俺たちまで一緒にすんな。
「ふぅ〜……」
SNSの画面を閉じて動画編集画面に戻る。
このままじゃ心がやさぐれそうだ。
「お茶、くれない?」
「はいよ。さて、母ちゃんはお昼ご飯でもつくろうかね」
お湯も沸かさず、食器も用意せず、スッと湯飲みに入ったお茶が出てくるなんて便利だよな……どういう原理だよ、マジで。
「ズズ——」
なんでだろうなー。
最近はリンゴジュースじゃなくてお茶ばっかり飲んでる気がする。
心だけじゃなくて味覚の老化も進んでんのかなー?
「大福、美味しいアル。モグモグ……」
「お昼ご飯前なんだから食べ過ぎるんじゃないよ、リンカちゃん」
「うん!」
主にこいつらのせいで。
オカンを召喚してからというもの、アホ女が家に居座る時間がめっちゃ増えた。
こんなもん、半同棲じゃなくてほぼ同棲だ。
うるせぇから編集作業に集中できねぇし、本当に邪魔くせーわ。
「お昼作るの手伝うアル!」
「そうかい。ありがとうね、リンカちゃん」
「うん!」
止めろ。自分の炊事能力を過大評価すんな。ここ数日の現実を思い出せ。
パリィィィン!
見ろ、さっそく犠牲者が出たじゃねぇか。どこまで被害者を増やせば気が済むんだ、お前は。
「あ、また失敗ネ」
「最初はみんな失敗するもんだよ。気にせず頑張りな」
「うん!」
気にしろや。すでにガラスと陶器の食器が総入れ替えになってんだぞ。少しは財布と環境に優しくしろ。
ふぅ、次に買う食器は割れない素材にするか……。
買い出しリストに〈割れない食器〉を追加し、動画編集を再開する。
素材はもちろん昨日撮影した〈オカンの初陣〉動画だ。
素材を編集ソフトに読み込ませてざっと内容を確認。
……なんだこれ?
いや、わかってる、これはダンジョン動画だ。しかし、これはダンジョン動画ではない。
普通のダンジョン動画とは、現実離れしたダンジョンを、ジョブの力で爽快に攻略する動画のことだ。
入り口でいきなり臭気玉を使ってモンスターの群れを呼び、なぜかそれに大福を振る舞って解散させるだけの動画はダンジョン動画とは言わない。
これ、どう編集すりゃいいんだよ?
とりあえず末尾に『楽しいと思えたら、高評価とお気に入り登録をお願いします!』とテロップを入れて……あとは……あとは……どうすりゃいいんだ?
短すぎて編集するシーンなんかねぇぞ。
一番派手なのはリンカが突っ込んで大暴れしたあげくボコボコにされるシーンだが、それもすぐに終わる。あとは俺のパニックとオカンの説教だけだ。
クソつまらんぞ、これ。
とりあえず適当なタイトルとオープニングでも入れるか……。
『激レア召喚獣の衝撃デビュー!? 世界初の召喚獣は最強だった!?』
オカンが世界初で最強かは知らんが、こんなもんはノリだ。激レアって部分は合ってるんだし、全部が嘘ってわけじゃない。今回はクリックさせれれば勝ちだ。
あとはBGMと……エフェクトを入れて……字幕設定を追加……終了っと。
プレビュー再生して確認。
荘厳なBGMと派手なエフェクト、ドドンと表示されるタイトルと簡単な説明文。
リンカがボケて大暴れし、オカンがモンスターを座らせて説教。そして大福を振る舞って解散させる。
最後に哀愁漂うBGMで俺の心情を表現してフェードアウト。
『楽しいと思えたら、高評価とお気に入り登録をお願いします!』
楽しくねぇー。
こんなもん低評価の嵐だわ。
絶対に「やらせw」とか「合成乙」とか言われるだろ。
「はぁ、どうすっかなぁ……」
アップロードボタンにカーソルを合わせたまま、腕を組み、考える。
アップした場合、チャンネル評価が落ち、お気に入り数が大きく減るかもしれない。だが、固定ファンがいるので収支に関しては多少プラスにはなるはず。
お蔵入りさせた場合、チャンネル評価は横ばいだろうが、更新頻度が下がったとして印象が悪くなる。そしてなにより大赤字だ。
今回だって、ダンジョン利用料、オートメーション・ダンジョンカメラ、臭気玉、アホ女の防具メンテナンス費用——それなりに出費が発生している。
「うーむ……」
悩むこと5分。
俺の頭は軽い瞑想状態になっていた。
「悩みすぎるとハゲるネ。手伝ってあげるヨ」
カチ!
『動画をアップロードしました』
そっかー、アップロードされたかー。
今回はアップロードするかしないか、非常に悩む。
アップした場合のネガティブ反応が想像付くからなー、出来れば……ん?
画面を見る。
『動画をアップロードしました』
……は?
瞬きを繰り返すが画面は変わらない。
首を振っても頬をつねっても画面は変わらない。
「私にも動画作業できたネ!」
「おい」
「これで私もインフルエンザーアル!」
「なんだそれは? インフルエンザの感染速度で流行を発信すんのか?」
——と、こんなアホに付き合ってる暇はない。すぐに取り消ししなくては。
「リュウヤ、リンカちゃん、お昼ご飯出来たよ。冷めない内に食べちゃいな」
「はーい! ご飯行くアルよ、リュウ」
「ちょっと待て。動画を取り消してから——」
「母ちゃんがご飯って言ったときはすぐに来な! あと、ご飯のときはテレビ見ない!」
電源コードが壁のコンセントから引っこ抜かれ、ディスプレイとPCの電源が落ちる。
「ちょ、おい、ババァ! なんてことしてんだだだだだだ——!?」
「母ちゃんにババァなんて言わない! 反抗期でも限度があるよ!」
頬をつねられ、強めに引っ張られる。
「ほら、お昼ご飯だからさっさと行くよ!」
「本当にリュウは手が掛かるネ」
オカンに右手を引っ張られ、アホ女に左手を引っ張られる。
足で必死に踏ん張るが、悪あがきでしかなかった。
「ああああ……あのアホ動画が、全世界に……」
無理矢理テーブルに座らされると、蓋の付いたどんぶりが目の前にドンと置かれる。
こんな食器は買った覚えねぇぞ……。
「今日はカツ丼だよ。元気が出るようにちょっと甘めにしといたから美味しいよ〜」
「またまた見たことない料理アル!」
「ほら」
どんぶりの蓋が開けられると、ふんわりとした良い匂いが鼻を直撃する。
オカンの作る料理は香りが良いものが多いが、今日の匂いは一段と強烈だ。
非常に食欲を刺激する匂いで、腹がぐぅ〜と鳴る。
「ふっ……めっちゃ美味そうだな……」
「いただきます!」
「……いただきます……」
「はいどうぞ。いつも通り、20回噛んでから飲み込むんだよ」
「モグモグ……うん……モグモグ……」
「モグ、モグ、モグ……」
カツ丼とやらは非常に美味いが、俺の口の動きは非常に重い。
……どうすんだよ、あの動画。
頭に荒しコメントを浮かべながら、俺は甘めの肉料理を腹に流し込むのだった。




