15話「偉い人からの謝罪はだいたい裏があると思え」
15話「治安局トップ」
「ルン、ルン、ルン♪」
「ワフ、ワフ、ワフ」
ご機嫌で何よりだ。
朝の空気の中、ペットを連れて散歩する。
実に爽やかだと思うぞ。
それがモンスターじゃなきゃな。
ヒソヒソヒソーー。
どいつもこいつもカメラ向けてきやがって。
俺だってこんなデカいモンスターとなんか散歩したくねぇよ。
どうせならお前らみたいな犬がいいわ。
「なあ、リンカ」
「なにアル?」
「そいつ売っ払ってさ、普通の犬飼わねぇか?」
なんせ人慣れした〈UMA〉だ。
好事家連中ならあり得ない大金を出すだろうし、普通の犬なら百匹や千匹は余裕で買える。
「お前の好きな犬選んでいいからさ。どうだ?」
噛みつかなきゃ何でもOKだぞ。
「論外ヨ。私とチャッピーはもう友達アル。引き離そうとしても無駄ネ。ねー、チャッピー」
「ワフッ!」
「そっか……」
「やれやれ」
なんだオカン、その呆れきったような態度は?
今まで歩く菩薩地蔵のように静かだったのに、人間の心を取り戻したのか?
「リュウヤにはリンカちゃんの気持ちが分からないのかい」
「気持ちぃぃぃ?」
あのアホ女は人間の皮を被ったゴリラだぞ。
人間らしい常識的な気持ちがあるとは思えん。
あるのは常識外の気持ちだけだ。
一般人に理解出来るわけがない。
「リンカちゃんはね、リュウヤにも生き物を大切にする心を知ってほしいんだよ」
「なんだそりゃ」
「いっつも動物虐待のテレビ見てるから、リンカちゃんは心配してんだよ」
あれはモンスター攻略動画だ。
「生き物を大切にして欲しい。そして私も大切にして欲しい。リンカちゃんはね、チャッピーを通じてそれをわかってほしいんだよ」
「んなわけあるか」
どこまで深読みしてんだよ。
ペットの話しなのに、どっから「私も大切にしてほしい」とか出てきた。
オカンが一番理解してねぇじゃねぇか。
「ぐだぐだ言うんじゃないよ!」
「ッーー!」
「いつまでも甘えてないで現実を見な! リンカちゃんは前に進もうとしてんだよ! 男のあんたがしっかりしないとどうすんのぉ!」
ヒソヒソヒソーー。
「なにあの人、お母さんに怒られてるの?」
「こんな往来で恥ずかし-」
「女の子が進もうとしてんのに空気読まないって……最低の男」
「母ちゃんに指摘されても女を見捨てるのか? 男として軽蔑するわー」
黒木リュウヤの尊厳に999のダメージ!
連鎖反応で名誉とプライドに999のダメージ!
黒木リュウヤは死亡した……。
「ごめんなさい」
「わかればいいんだよ。母ちゃんもね、リュウヤに幸せになってほしいからキツく言うんだよ。がんばんな」
「はい……」
「またお母さんに負けてるアル!」
「ワフッ!」
すっげームカつくんですけど。
なにこいつら。
死んだ俺を怒りという名の炎で生き返らせるために降臨した天使という名の悪魔なのか?
「ほら、散歩続けるよ。楽しく歩いてみんなで運動だよ」
「うん!」
「ワフッ!」
二人と一匹はずいぶん楽しそうだな。
ちなみに俺は全然楽しくねぇぞ。
これなら一人で留守番してるんだったわ。
リンカと〈UMA〉だけじゃ不安だし、留守番の多かったオカンが可哀想だと思ったんだが……あの時の俺をぶん殴りてぇ。
「ん? あれは……」
治安局のパト集団がこっちに向かってきてねーか?
また野良モンスターでも出たか?
「まさか……」
俺たちの手前で次々と停まるパト集団。
こいつら、チャッピーを捕まえにきたのか?
ミサキが書類を作るとか言ってたが……あいつ、サボりやがったか。
なんか最後愚痴ってたし、十分あり得るぞ。
「そこの三人、止まれ!」
「なにアルか?」
「なんだい、この人たちは」
ふてくされるリンカとオカン。
当然だな。
楽しく散歩するぞーって時に「止まれ!」なんて言われたんだから。
一般人ならオロオロする場面だが、この二人には常識が通じない。
ここは名誉回復のため、俺が先陣切って対応してやろう。
「おはようございます。いつもお仕事お疲れ様です。何事でしょうか?」
「野良モンスターがいるとの通報があった」
視線をチャッピーに向ける治安局員。
やっぱりか。
で、この人は確か……治安局のナンバー2、副局長の辻トモヤだな。
こんな実力者が出張って来るってことは、マジモンの対応ってことか。
「あ~、トモ君。どれが野良モンスターだ。おっさんは朝に弱いんだ。さっさと片付けて、戻って二度寝するぞ~」
ビックリだな。
二日連続で局長様の顔を拝めるとは。
態度は相変わらずおっさんだが、この状況だとその肩書きだけでも頼もしい。
昨日その場にいたんだ。スムーズに事が進むだろう。
「新堂さん、アレです」
「ん~……って、アレかよ。これは、どっかで書類が止まってんな~」
おっさん臭い仕草はどこまでも情けないが、その言葉はすごく心強いぞ。
「あのモンスター、ご存じなのですか?」
「昨日の〈UMA〉だな。ミサキ君の友達……そこの彼女に懐いてるみたいだったから、ミサキ君の判断に任せた」
「なるほど。手違いで書類が止まってしまって登録ビーコンも証明札も発給されず、窓口にも新堂さんの情報が共有されていなかった、と」
「そういうことだ。ま、今回は無駄足ってことだな」
さすがは治安局の頭脳と評される男。物事を察する能力が半端ない。
冷静沈着な最強〈錬金術師〉辻トモヤか……やっぱ治安局ってのは、これが正しい姿だよな。
半額惣菜を気にするおっさん〈勇者〉の局長や、気軽に攻撃魔法を使う暴君みたいな〈賢者〉がおかしいだけだ。
「はぁ~……。仮眠を叩き起こされたせいで眠いわ。戻るぞ~」
「そうですね。ただ――」
副局長の腰ベルトで輝きを増す薬液入りシリンダーの数々。
もしかして、俺と話す前にはスタンバイ状態だったのか?
でもあれ、途中キャンセルが出来ないはずだが……どうする気だ?
「局長」
「なんだ~」
「私は、いつもいつも、何度も何度も言ってますよね」
なんか、怨嗟がこもってないか?
「重要な事案は、書類を仕上げてから帰宅して下さいと。今回の〈UMA〉の件も含めて、これで何度目ですか?」
目が怖ぇよ。
ズズズズ……ってオーラも見えるし。
「今回は何を優先して仕事を放り投げたんですか?」
「スーパーの惣菜だ。半額セールまで三十分を切っていたんでな……はは」
「制裁」
シリンダー数本を局長の脳天でかち割る。
なにしてんの、この人?
「おわ!? 冷てぇ!?」
冷たいで済むのかよ。
それ、対モンスター用の薬液だろ?
「特別調合した麻酔薬と麻痺毒です」
鬼かよ。
「目が覚めましたか、局長?」
「ああ……なんだか、スースーするわ……」
スースーするだけかよ。
周りも何事もなかったようにタオルを持ってくるし、やっぱ普通じゃねーわ。
俺、治安局に入らんでよかった。
こいつらについて行ける気がしねぇ。
「騒がせてしまってすまないな。こちらの手違いのようだ。そちらの女性達には不快な思いをさせてしまった」
「あ、ああ……」
負のオーラが消えて出来る男になってるが、めっちゃ怖ぇ。
年上から頭を下げられても違和感しかねぇわ。
「登録ビーコンと証明札はすぐに届けさせる。今後はこのような事は起きないから安心してくれ」
「本当アルか~……」
ジト目で副局長を睨むアホ女。
こいつには局長の悲劇が見えていなかったらしい。
この手のタイプにツッコむと墓穴を掘るぞ。
「いい加減な上司のせいで不安を与えてしまったことは大変申し訳ない」
ミサキは局長をべた褒めしてたけどな。
あいつ、人を見る目がねーんじゃねぇのか。
「そうだな……お詫びになるかわからないが、これが私なりの誠意だ」
「なにアルか、これ?」
「なにを貰ったんだ……」
リンカの手をのぞき込むと、チケットみたいな物が見える。
今時〈紙製のチケット〉なんて珍しいな。
どこで使えるんだよ、これ。
「治安局の食堂限定だが、一日食べ放題のチケットだ」
「「 !? 」」
「その一枚で五人まで有効、選べるメニューの制限も変な時間ルールもない。モンスターは本来入れないが、特別にその子だけは入れるように手配しておこう……どうだろう?」
「大感謝アル!! やったネ、チャッピー!!」
チャッピーに抱きつきピョンピョン跳ねるアホ女。
だが、俺は素直に喜べないぞ。
破格すぎるお詫びにはオチが付きもんなんだよ。
「狙いはなんだ?」
「君はリュウヤ君だったかな。こうやって会話するのは初めてだが、ミサキ君からよく聞いてるので初めてという感じはしないな」
「どうも」
「屁理屈屋で融通が利かず疑り深い……ミサキ君の言った通りだ」
あいつ許さん。
そしてそれは本人の前で言うことじゃない。
常識人っぽいが、やっぱズレてるのか?
「そのチケットに深い意図はないさ。私からの純粋な謝罪と局長へのお仕置き。それだけが目的だよ」
「お仕置き?」
「そのチケットで掛かった費用は全額局長負担になる。リュウヤ君もリンカ君も、そしてあちらの女性も〈UMA〉も、好きなだけ食べて飲んでくれ。半額惣菜の差額が吹っ飛ぶようにね」
「鬼かよ」
「あははは、よく言われるよ」
少し年上の出来る男に見えたが、ミサキに近い人種なのかもしれん。
まあ、治安局にはまともな奴がいないということでいいか。あとは――。
「その〈UMA〉はチャッピーって名前なんだ。そう呼んでくれると助かる」
「……そうか、分かったよ。今後はチャッピー君と呼ぶことにしようと。すまないな」
「深読みすんなよ。〈UMA〉じゃリンカに伝わらないから言ってんだ。あいつと意思疎通したかったらあいつに合わせてくれ」
「了解だ、リュウヤ君」
意味深に笑うな。
絶対に深読みしてんだろ。
「さて、私達はこれで撤収するが、他に何かあるかな?」
「ないな」
「良かった。今後ともよろしく頼むよ、リュウヤ君」
「ああ」
「総員撤収する! 新堂さんも目が冴えたなら動いて下さい」
手にした指揮棒で上司を突つく部下。
おっさん局長に威厳はないらしい。
『オカン」のSS
※本編ストーリーとは一切関係ありません。
↓↓↓
リュウヤ「あー、やる気でねぇー」
オカン「どうしたんだい」
「新作動画が伸びねぇんだよ。評価もコメントも付かねぇし、マジでやる気無くすわ-」
「甘えたこと言ってんじゃないよ!」
「ッ――!?」
「見返りなんて求めんじゃないの! あんたは何の為にそれをやってんだい!」
「生活のためだよ」
「生活が苦しくなっても最高の仕事をし続ける。それが、職人ってもんだよ」
「生活できない職人は職人じゃねぇよ」
「屁理屈言ってんじゃないの!」
「屁理屈じゃねぇよ」
「はあ、しょうがない子だねぇ。そんなに評価されたいのかい」
「当たり前だろ」
「じゃあ、母ちゃんが評価してあげるよ」
「は?」
「リュウヤは偉いねぇ、お仕事頑張ってて凄いねぇ、まるで手○治虫さんだねぇ」
「うおっ! めっちゃ鳥肌立ったわ! そして手○なんちゃらって誰だよ! 知らねぇ奴出されても分からんわ!」
「元気でたかい?」
「違う元気が出たわ!」
「なら、もう一度褒めたげようかね」
「止めろ!」
「遠慮すんじゃないよ」
「画面の前のみんな、何でもいいからリアクションをくれ! このままじゃオカンに〈褒め〉殺される!」
「大丈夫だよ。母ちゃんが付いてるから」
「マジで頼む!!」




