表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

13話「隠しておきたい本を綺麗に並べられると死にたくなる」

「クゥ~ン……」


 マジでこいつを飼わなきゃならんのか?


「もしかして、この子を飼ってもいいって事アルか?」

「お前がな」

「やったアル!! 今日からお前は私たちの家族ネ!!」

「お前のだ」

「おうちはリュウのPC部屋の隣でいいアルか?」

「ワフッ!」

「勝手に決めんな。家には入れんぞ。リンカの家で飼え」


 なんでモノホンの〈UMA〉と一つ屋根の下に住まなきゃならんのだ。

 怖すぎてSAN値がゴリゴリ削れるわ。

 俺を廃人にするつもりか。


(うち)は狭いアル」

(うち)はもっと狭いわ」


 2DKのボロアパートを過剰評価すんな。

 親が残してくれた一軒家をもっと信じてやれ。


「お母さんに決めて貰うヨ」

「家主は俺だ」

「最後はお母さんが勝つネ」

「今だけだ」

「一生お母さんの尻に敷かれるタイプアル」

「奥さんみたいに言うな。気持ち悪い」

「そんな屁理屈ばかりだからユカちゃんに振られたネ」

「……もういいわ」


 こいつと言い合いしてるとどんどん話がズレてくる。

 飼う飼わないの話しが、なんで彼女歴ディスりになってんだよ。


「ワフッ!」

「お前……」


 俺が持つクソ重たい荷物を代わりに咥え、尻尾を振る〈UMA〉。その表情はどこか誇らしげだ。


「持ってくれのか?」

「ウォン!」


 こいつ、リンカより賢くて良い奴なのでは?


「……分かったよ」

「いいアルか!」


 俺だって鬼じゃないさ。

 ここまでの誠意を見せられたら妥協しよう。


「リンカが面倒を見て、リンカの家で飼って、(うち)に近寄らないなら、リンカが飼うことを許そう」


 俺の慈悲に感謝するといい。


「良かったアル!」

「ウォン!」

「今日からお前は私たちの家族アルよ~」


 私たちじゃない。


「リュウも認めたし、後はお母さんが許してくれれば一緒に暮らせるアル」

「おい」

「さあ、早く帰るヨ!」

「ウォフ!」


 走り出すアホ女と、尻尾を振りながら並ぶ〈UMA〉。


「……ま、いっか」


 家主の尊厳を取り戻すときが来たのかもしれん。

 オカンとリンカがなんと言おうと断固拒否する。

 失われた平穏と尊厳を……取り戻す!


***


「とりあえずここで〈待て〉だ」

「ワフ!」


 アパートの前で座らせる。

 つい〈待て〉なんて言ってしまったが、普通に言うこと聞くんだな。

 業者が調教していたのか、頭が良すぎるのか……。


「ちょっと待ってるネ。お母さんが良いよって言えば入れるアル」

「ワフッ!」


 単純に頭が良すぎるだけだな。

 普通に意思疎通ができてる気がする。

 それにしても……やっぱり納得できん。

 すぐ隣はリンカの家なんだから、そっちに行けばいいものを。


「リンカの家ならオカンの許可は要らないんだぞ。ほら、徒歩10秒で家問題が解決だ」


 オカンを介さずに済めばそれが一番だ。


「早くお母さんに聞くアル」


 俺を無視してアパートに入るアホ女。

 ちっ、やっぱり俺とオカンの直接対決になるのか。


「ただいまアル!」

「ただいま……」


 オカンの決めた挨拶をして、気合いを入れる。 

 このルールも今回限りだ。

 召喚士と召喚獣の立場の違いを見せつけ、家主としての誇りを取り戻す!


「おかえり、リュウヤ、リンカちゃん」

「部屋がピカピカになってるアル!」

「大掃除したからね。母ちゃんなんだから当然だよ」

「さすがお母さんアル!」


 確かに、めちゃくちゃ綺麗になってるな。

 元からオカンが掃除していたので綺麗だったが、シミ汚れも無くなり、物の配置も洗練されている。

 まさに〈大掃除〉したって感じだ。

 俺やリンカじゃここまで綺麗に出来ない。


「あー、とりあえず、掃除してくれてありがとう」

「母ちゃんなんだから当然だよ」


 これに関しては普通に感謝だ。

 だが、〈UMA〉に関しては絶対に引くつもりはない。

 ここからが、勝負だ――!!


「お母さん」


 俺になんか言われる前に言質を取るつもりか!?

 クソ! 直感的な行動は本当に鋭い奴!

 ここはインターセプトし、俺が一気に決める!!


「オカ――!!」

「リュウヤの部屋が一番散らかってたから念入りに掃除しといたよ。まったく。本は本棚にしまう。今度からはちゃんと片付けるんだよ」

「……は?」


 本は本棚にしっかりしまってるぞ。

 探索者関連本、モンスター図鑑、ダンジョン記録――全部本棚にしまってる。

 目に見える範囲には一冊も放置してないはずだが……。


「まさか!?」


 全身に悪寒が走り、最悪の未来が頭をよぎる。

 荷物を床に放り投げ、寝室兼PC部屋に駆ける。

 頼む!

 予想が外れていてくれ!!

 本棚は――。


「あ、ああ、あああああああ――――!?」

 

 視界が歪む。

 世界が歪む。

 もう立てない。

 頭が真っ白だ。

 ぐちゃぐちゃだ。

 感情が混ざり合って違う世界に行きそうだ。

 いっそこのまま無になりたい。


「どうしたアル? 地獄を見たような声を出して……って、これは!?」

「見るな!!」

「エロ本アル!!」

「お前には早過ぎる!!」

「俺はエロ本なんて見ないぞ……とか言ってたのに、1、2、3、4――いっぱいあるヨ!」

「数えんな! そして見るな!」

「うっわー、エッチアル、変態ネ。この表紙なんか、ミーちゃんソックリな女の子が――」

「偶然だ! 見るな! もう見るな!」


 本棚を死守せねば!!

 これ以上の尊厳崩壊は回避だ!!


「そんなに必死で隠さなくてもいいアル。もう興味ないヨ」

「フー、フー、フー……」


 リンカが笑いを堪えながら出て行く。


「お母さん。実はペットを飼いたいアルが――」


 廊下からオカンとリンカの声が聞こえるが、俺には目の前の悪夢しか目に入っていない。


「どんな公開処刑だよ、これ……」


 ベッド下の保管ケース、その底の方に隠していた秘蔵のコレクションの数々。

 それが本棚で「俺たちが主役だ!」とアピールするように整列している。

 当然、だよな……。

 他の本は硬派一色の背表紙なのに、それだけはフルカラーで女の子が書いてあるんだから。

 巻数分けもされていて一枚絵のようになってるし、単巻物もグラディエーションを描くように並べられている。

 まるで芸術家が並べたような美しさだ……エロ本だけど……。


「ふ、ふふふ、ふふふふふ……」


 これをオカンがやったんだよな?

 そしてリンカもバッチリ見た。

 生活に最も近い人物に、絶対に見られたくない恥部を見られた。

 俺の尊厳は、もう無いのかもしれない……。

 

「リュウ! お母さんが飼っていいって言ったアル!」

「一匹ぐらいいいじゃないかい。ペットは家族。家が明るくなるよ」

「ふっ……もう、好きにしてくれ……」


 俺にとってはあんなモンスターより、この地獄絵図の方が大問題だ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ