13話「隠しておきたい本を綺麗に並べられると死にたくなる」
「クゥ~ン……」
マジでこいつを飼わなきゃならんのか?
「もしかして、この子を飼ってもいいって事アルか?」
「お前がな」
「やったアル!! 今日からお前は私たちの家族ネ!!」
「お前のだ」
「おうちはリュウのPC部屋の隣でいいアルか?」
「ワフッ!」
「勝手に決めんな。家には入れんぞ。リンカの家で飼え」
なんでモノホンの〈UMA〉と一つ屋根の下に住まなきゃならんのだ。
怖すぎてSAN値がゴリゴリ削れるわ。
俺を廃人にするつもりか。
「家は狭いアル」
「家はもっと狭いわ」
2DKのボロアパートを過剰評価すんな。
親が残してくれた一軒家をもっと信じてやれ。
「お母さんに決めて貰うヨ」
「家主は俺だ」
「最後はお母さんが勝つネ」
「今だけだ」
「一生お母さんの尻に敷かれるタイプアル」
「奥さんみたいに言うな。気持ち悪い」
「そんな屁理屈ばかりだからユカちゃんに振られたネ」
「……もういいわ」
こいつと言い合いしてるとどんどん話がズレてくる。
飼う飼わないの話しが、なんで彼女歴ディスりになってんだよ。
「ワフッ!」
「お前……」
俺が持つクソ重たい荷物を代わりに咥え、尻尾を振る〈UMA〉。その表情はどこか誇らしげだ。
「持ってくれのか?」
「ウォン!」
こいつ、リンカより賢くて良い奴なのでは?
「……分かったよ」
「いいアルか!」
俺だって鬼じゃないさ。
ここまでの誠意を見せられたら妥協しよう。
「リンカが面倒を見て、リンカの家で飼って、家に近寄らないなら、リンカが飼うことを許そう」
俺の慈悲に感謝するといい。
「良かったアル!」
「ウォン!」
「今日からお前は私たちの家族アルよ~」
私たちじゃない。
「リュウも認めたし、後はお母さんが許してくれれば一緒に暮らせるアル」
「おい」
「さあ、早く帰るヨ!」
「ウォフ!」
走り出すアホ女と、尻尾を振りながら並ぶ〈UMA〉。
「……ま、いっか」
家主の尊厳を取り戻すときが来たのかもしれん。
オカンとリンカがなんと言おうと断固拒否する。
失われた平穏と尊厳を……取り戻す!
***
「とりあえずここで〈待て〉だ」
「ワフ!」
アパートの前で座らせる。
つい〈待て〉なんて言ってしまったが、普通に言うこと聞くんだな。
業者が調教していたのか、頭が良すぎるのか……。
「ちょっと待ってるネ。お母さんが良いよって言えば入れるアル」
「ワフッ!」
単純に頭が良すぎるだけだな。
普通に意思疎通ができてる気がする。
それにしても……やっぱり納得できん。
すぐ隣はリンカの家なんだから、そっちに行けばいいものを。
「リンカの家ならオカンの許可は要らないんだぞ。ほら、徒歩10秒で家問題が解決だ」
オカンを介さずに済めばそれが一番だ。
「早くお母さんに聞くアル」
俺を無視してアパートに入るアホ女。
ちっ、やっぱり俺とオカンの直接対決になるのか。
「ただいまアル!」
「ただいま……」
オカンの決めた挨拶をして、気合いを入れる。
このルールも今回限りだ。
召喚士と召喚獣の立場の違いを見せつけ、家主としての誇りを取り戻す!
「おかえり、リュウヤ、リンカちゃん」
「部屋がピカピカになってるアル!」
「大掃除したからね。母ちゃんなんだから当然だよ」
「さすがお母さんアル!」
確かに、めちゃくちゃ綺麗になってるな。
元からオカンが掃除していたので綺麗だったが、シミ汚れも無くなり、物の配置も洗練されている。
まさに〈大掃除〉したって感じだ。
俺やリンカじゃここまで綺麗に出来ない。
「あー、とりあえず、掃除してくれてありがとう」
「母ちゃんなんだから当然だよ」
これに関しては普通に感謝だ。
だが、〈UMA〉に関しては絶対に引くつもりはない。
ここからが、勝負だ――!!
「お母さん」
俺になんか言われる前に言質を取るつもりか!?
クソ! 直感的な行動は本当に鋭い奴!
ここはインターセプトし、俺が一気に決める!!
「オカ――!!」
「リュウヤの部屋が一番散らかってたから念入りに掃除しといたよ。まったく。本は本棚にしまう。今度からはちゃんと片付けるんだよ」
「……は?」
本は本棚にしっかりしまってるぞ。
探索者関連本、モンスター図鑑、ダンジョン記録――全部本棚にしまってる。
目に見える範囲には一冊も放置してないはずだが……。
「まさか!?」
全身に悪寒が走り、最悪の未来が頭をよぎる。
荷物を床に放り投げ、寝室兼PC部屋に駆ける。
頼む!
予想が外れていてくれ!!
本棚は――。
「あ、ああ、あああああああ――――!?」
視界が歪む。
世界が歪む。
もう立てない。
頭が真っ白だ。
ぐちゃぐちゃだ。
感情が混ざり合って違う世界に行きそうだ。
いっそこのまま無になりたい。
「どうしたアル? 地獄を見たような声を出して……って、これは!?」
「見るな!!」
「エロ本アル!!」
「お前には早過ぎる!!」
「俺はエロ本なんて見ないぞ……とか言ってたのに、1、2、3、4――いっぱいあるヨ!」
「数えんな! そして見るな!」
「うっわー、エッチアル、変態ネ。この表紙なんか、ミーちゃんソックリな女の子が――」
「偶然だ! 見るな! もう見るな!」
本棚を死守せねば!!
これ以上の尊厳崩壊は回避だ!!
「そんなに必死で隠さなくてもいいアル。もう興味ないヨ」
「フー、フー、フー……」
リンカが笑いを堪えながら出て行く。
「お母さん。実はペットを飼いたいアルが――」
廊下からオカンとリンカの声が聞こえるが、俺には目の前の悪夢しか目に入っていない。
「どんな公開処刑だよ、これ……」
ベッド下の保管ケース、その底の方に隠していた秘蔵のコレクションの数々。
それが本棚で「俺たちが主役だ!」とアピールするように整列している。
当然、だよな……。
他の本は硬派一色の背表紙なのに、それだけはフルカラーで女の子が書いてあるんだから。
巻数分けもされていて一枚絵のようになってるし、単巻物もグラディエーションを描くように並べられている。
まるで芸術家が並べたような美しさだ……エロ本だけど……。
「ふ、ふふふ、ふふふふふ……」
これをオカンがやったんだよな?
そしてリンカもバッチリ見た。
生活に最も近い人物に、絶対に見られたくない恥部を見られた。
俺の尊厳は、もう無いのかもしれない……。
「リュウ! お母さんが飼っていいって言ったアル!」
「一匹ぐらいいいじゃないかい。ペットは家族。家が明るくなるよ」
「ふっ……もう、好きにしてくれ……」
俺にとってはあんなモンスターより、この地獄絵図の方が大問題だ……。




