12話「トップが半額惣菜を狙っている組織に未来はない」
「クゥ~ン……」
「大丈夫アルよ~。私が守ってあげるネ」
なんか捨てられた子犬と優しい女性の構図に見えるが、実態はモンスターとアホ女でしかない。
こいつはオカンに毒されてるな。
探索者がモンスターと和んでんじゃねぇ。
「早く治安局来ねぇかな-」
「人でなしアル」
「常識人と言え」
「動物愛護法違反アル」
「モンスター愛護法なんてねぇ」
珍しく法律なんか口のしやがって。
それだけ必死つーことか?
まあ、見当違いなんで意味ねぇけど。
「お、来たか」
けたたましいサイレンと共に、空中と地上からパトが沢山近づいてくる。
やたら物々しいが、野良モンスターならこれが普通だ。
「おーい、ここだー……って、お前も来たのかよ」
空から真っ先に降ってきたのは、ついさっき別れたばかりのミサキだった。
「やっぱりあんた達だったのね。探索者の男からの通報とリンカという単語。場所も近いし、間違いないと思ったわ」
「なら話は早い。あれが野良モンスターだ。リンカのアホがくっついてるが、遠慮なく処理してくれ」
「鬼アル! 悪魔アル!」
「ならお前は魔王にでもなるつもりか? モンスターを従えてどうする」
「友達アルよ!」
交渉不可。
「と言うわけだから、遠慮なく殺っちゃってくれ」
「はあ、あんた達は本当に常識無しね」
「俺を混ぜんな」
「それにしても、やっぱり野良モンスターってこいつのことだったのね」
「ん? 手配中とかだったのか?」
治安局がマークするような野良モンスターなら、特殊個体でも納得だ。
「少し違うけど……待って」
後から来た治安局員達と内緒話をして、なにかの書類を確認し合っている。
「詳細は省くけど、1時間ほど前にモンスター売買業者から商品達が脱走したの」
「ああ、それで呼び出しくらったのか」
売買業者からのモンスター脱走なんて大事件だ。
一匹脱走したら雪だるま式に脱走し、血みどろの地獄になる。
「業者は全員死亡――」
ハイリスクハイリターンだからな。
「モンスターの大半は処理できたけど、一匹だけ行方不明がいたの」
「まさか……」
「間違いなくそいつよ」
なるほどなー、妙に毒気がないのはそのせいか。
脱走時に凶暴化したけど、傷を負って衰弱し、冷静さを取り戻した……と言ったところか。
「経緯は分かった。煮るなり焼くなり捕獲するなり好きにしてくれ」
「出来ればそうしたいわよ」
出来ればそうしたい?
出来ないってことか?
「あんたは馬鹿だから法律とか分かんないと思うけど――」
おい。
「脱走現場でなら問答無用で殺せても、そいつの場合だけは、この状況なら手が出せないの」
「は? モンスターだぞ?」
業者が管理してないモンスターなんて野良と一緒だ。
治安局以外のどこの誰が処理済んだよ。
「リュウだって〈UMA〉ぐらいは知ってるでしょ」
「当然だ。正体不明のモンスターってことだろ」
既存モンスターが変異した〈特殊個体〉ではなく、全くの正体不明個体。それが〈UMA〉だ。
「そう。そして〈UMA〉に対しては、明確な敵意や被害がない限り、治安局でも手が出せないの」
「マジか……」
それは知らんかった。
「探索者なんだから少し考えれば分かるでしょ。〈UMA〉がどういう存在なのか」
「あ、ああ……」
無知ほど怖い物はない。
それを物理的に、恐怖で世界に分からせたのが〈UMA〉だ。
『変なモンスターが近くにいる、怖い……その安易な感情だけで〈UMA〉に攻撃を仕掛け、いくつもの国が滅んだ』
あー、思い出した。
探索者講習で習う最初の歴史だ。
「はあぁぁぁ……マジかぁぁぁ……」
「脱走現場でならどれだけ犠牲が出ようが討伐出来るけど、大人しい今は手が出せない。リュウの空っぽの脳みそでも理解できた?」
「空っぽは余計だ」
「意味不明アル」
空っぽの称号はこのアホ女にこそ相応しい。
「お疲れ様ー、ミサキ君」
「はっ!」
現れたおっさんに元気よく敬礼するミサキ。
「これが例のモンスターなわけ?」
「はい。識別番号F-002です」
「ふ~ん……」
「な、なにアル!?」
「ワフッ」
息が掛かる距離でにらめっこする二人と一匹。
「……うん、ミサキ君の判断に任せるよ」
首をならし、頭をかきながら引き上げる男。
これが本当のおっさんなんだと思う。
この人に比べたら俺なんかおっさんもどきだ。
「そろそろ惣菜が半額の時間だから帰らせてもらうわ。あとは君たちに任せる。お疲れ様~」
「「「 お疲れ様でした! 」」」
一斉に敬礼して見送る治安局員達。
「あのおっさん、あんな勤務態度で許されんのかよ」
「いいのよ。局長としての仕事はしてるんだし、実力もあるんだから」
「いいご身分だな」
治安局のトップが、惣菜の半額を求めて〈UMA〉案件を現場に丸投げする。
終わってんな、治安局。
株がどんどん下がってくわー。
「さて、リンカ」
「なにアルか……」
おっさん局長とは違い、真面目なトーンでリンカに迫る。
「それ、どうしたいの?」
「飼うヨ。私とこの子はもう友達ネ」
「ワフッ!」
「そっか……リュウ」
「拒否する」
この流れを読めないほど俺は鈍くない。
完全に「飼いたいの?」、「うん」、「いいわよ」の流れだった。
俺は〈UMA〉なんかに関わりたくねぇ。
「頑張って」
「ふざけんな」
「野放しに出来ないし、リンカになついてる。それが最善なのよ」
「演技かもしれんだろ。お前らがいなくなった瞬間に襲いかかってくるかもしれんぞ」
「リュウの命と〈UMA〉を継続監視できる可能性。天秤に掛けたら明白じゃない」
「前者だな」
「後者よ」
「しかもなんで俺の命だけなんだよ。俺が襲われたら絶対にリンカも襲われるぞ」
「そうなの?」
「この子と私は友達アル。ねー」
「ワフッ!」
頬ずりで友情確認する二匹。
「リンカは大丈夫よ」
「俺は大丈夫じゃねぇ」
「とりあえず書類関係はこっちで作っておくわ。その〈子犬〉と仲良く暮らしてね」
「これが子犬に見えるなら今すぐ眼科と脳外科行け」
「戻って隊長達と合流します!」
俺を無視して一斉に引き上げる治安局員達。
「今日はあんたらのせいで大忙しだわ。リュウといいタツマといい、どうして私の幼馴染みは問題児ばかりなのかしら」
「一緒にすんな」
ツッコミを無視して一人で空を駆けるミサキと、次々と引き揚げていく治安局の車両。
「後で防衛大臣にクレーム入れてやるから覚えとけよ……」
「どうなったアルか?」
「ワフゥ?」
アホ女と一緒に首をかしげる〈UMA〉は、モンスターではなく、どこか幼い子供のように感じた。




