11話「ペットを飼いたいと言う奴は自分で世話をしない」
「んっ、んん〜〜〜……」
外の空気が気持ちいい。
朝からずっと晴れてると、夕方のこの空気は最高に美味しい。
ふうぅぅぅ……一年中秋だったら良いのになぁ〜。
「大満足アル……ゲップ……」
おしとやか女子は諦めたのか?
「お母さんの甘味もいいけど、パフェもいろんな味がして美味しいアル」
「俺はやっぱりパフェの方が良いな」
オカンの出す甘味は美味いが、全部似たような味に感じるだよ。
「リュウはバカ舌アル」
「お前に言われたくない」
……にしても、重い。
両手のふくらみきった袋と、膨らんだリュックが非常に重い。
「荷物の配分おかしくねぇか? こういうときは半々だろ?」
どうみても俺が7だ。
俺が3なら納得できるが、これは納得出来ん。
「リュウは貧弱すぎるから鍛えると良いヨ。ミーちゃんも呆れてたネ」
「お前ら基準で考えんな。俺は事務型成人男性の標準値だ」
「難しい言葉でだまされないアル」
「難しくねぇよ、普通の言葉だ」
「なに言っても無駄ネ。悔しかったら強くなるアル」
「ぐっ……」
普段はポンコツなくせに、変なところで頑固になりやがる。
「シャキシャキ歩くネ。そんなんじゃ日が暮れるヨ」
「お前が少し持ってくれたらスピードアップするぞ」
「お断りアル」
「もう一本オレンジジュース買ってやるから」
「無駄アル」
「ちっ……」
これがもしタツマだったらホイホイ手伝うくせに。
……あいつには重量とか関係ないか。
筋力はバケモンだし、アイテムボックスもある。荷物容量なんてあってないようなもんだ、うらやましい。
こんなことなら運搬用の召喚獣とかも契約しとくんだったなー。
強さとコスパを優先したせいで、戦闘以外には役に立たない連中ばかりだ。
……もう少し金が貯まったら、ウルフ系モンスターとも契約するか。
中型になれば人も乗れるし、バックパックの種類も豊富。そして着せ替え感覚で色々な装備ができる。
召喚士にとって最高のパートーナーとなれる可能性がある人気モンスター。それが、ウルフ系だ。
ま、高すぎる召喚石だから、まだまだ先の話だな。
とりあえず今は、この荷物をリンカに押しつけたい。
「あー、手が痛ぇし、肩も痛ぇし、腰も痛ぇー」
「……」
「美人で優しくて、おしとやかな女性が手伝ってくれないかなー」
「……」
「無視すんなや」
アホにガン無視されると惨めになる。
「おい、リンカ」
「あれ、なにアルか?」
「なんだ?」
リンカが目を向ける先は、建物の間——路地裏だった。
「んん? あれは……野良モンスターか?」
日が傾いてるせいか路地裏が余計に薄暗い。
はっきり見えないが、小山が呼吸するように動いている。
「なんか、可愛そうアル……」
「放っておけ。静かにしてる野良モンスターにちょっかい出しても厄介事になるだけだ」
先日もちょっかいを出した奴がニュースになったばかりだろ。
どこのダンジョンから湧いたかも分からんのにバカとしか言えない。
「まだ誰にも見つかってないみたいだな……通報しとくか」
野良モンスターなんか治安局に丸投げして終わりだ。
インカムを操作して治安局に繋ぐ。
『こちら治安局非常窓口です。事故ですか、事件ですか』
「野良モンスターを見つけた。安静状態、正体不明、小山みたいな大きさだ」
『わかりました。決して近寄らず、周囲の人にも呼びかけて下さい。すぐに治安局員が向かいます』
「ああ」
『インカム位置の確認が出来ました。念のため、そちらの現在地を教えてください』
「ここは——」
えっと、住所盤は…………ん?
『どうしました?』
「あのアホ!!」
『は?』
「なにやってんだリンカ!!」
あいつはどこまでアホなんだ!?
野良モンスターによる死亡事故だってあるんだぞ!!
野良犬感覚で触ってんじゃねぇ!!
「リンカ!!」
「……この子、弱ってるアル」
「……は?」
勢いで近づいてしまったが、お陰で野良モンスターの全体が見えた。
「ウルフ系モンスター、か? 確かに弱ってそうだが……」
ぱっと見は中型より少し大きめ、三メートルちょいのウルフ系モンスターだ。
だが、こんな奴は見たことがないぞ。
ウルフ系に関してはSランクまで記憶してるが……全然わからん。
茶色一色の毛並みなんて普通のモンスターじゃねぇ。
こいつもしかして、Sランク以上のモンスター、か……?
やべーわー、これ。
ゾワッとしたし、無意識で足が下がった。
「……逃げるぞ、リンカ。そいつは絶対にヤベー奴だ。ゆっくり、静かに、こっちこい」
「見捨てるアルか!?」
「声でけぇ!!」
あ、しまった。
「クゥー……ン……。クゥー……ン……」
ほっ……。
「ほら、全然大丈夫ネ。弱ってて可愛そうアル」
「死に損ないなら好都合だ。通報はしたから離れるぞ。少し離れたところから監視する」
「嫌アル!!」
野良モンスターに抱きつくな。
「弱ってるフリをしてるだけかもしれないだろ。ほら」
「ワンちゃん、コレ食べて元気出すヨ」
「エサやんじゃねぇよ。それで元気なったら殺されるぞ」
持ち帰りした〈キング・ドラゴン・バーガー〉が口元からゆっくり消えていく。
……ちっ、雑食性か。ますますヤベー予感がする。
完全肉食モンスターのくせに全部平らげてんじゃねぇよ。
ピクルスなんかお前らの弱点の一つだろーが。
図らずも、アホ女のお陰で異常性が一つ判明したわけだ。
「少し元気なったアル!」
「クゥーン……」
回復力すげぇな。
「よしよしよし……」
モンスターの頭を抱いてぐりぐりするアホ女。
それは犬じゃなくてモンスターだ。仲良くしてどうする。
あ、そういえばコイツ、〈ゴブリン〉や〈ウェルドア・ドッグ〉とも仲良くしてたわ。
オカンに懐柔されてたとはいえ、〈ウェルドア・ドッグ〉も小型のウルフ系モンスターだ。
こいつは元々犬好きだし、オカンの影響でちょっと変になってるのかもしれん。
「はあぁぁぁ……」
「おっさん臭いから止めるヨ」
「ワフッ」
「同調すんな——って、おい」
「クゥーン……」
今コイツ、リンカの言葉に同調して吠えなかったか?
「リュウはおっさんだから融通が効かないアルよ。ねー」
「ワフッ、ワフッ……」
オオカミのような口を挟んでぐりぐりアホ女。
その仕草はモンスターというより飼い犬に近い。
三メートルはあるし、やたら鋭い犬歯が見えたが、そこに目を瞑れば茶色いだけの犬と言える。まあ、目を瞑れないレベルだからモンスターなのだが。
「とりあえずそのまま抑えてろ。治安局が来たら引き渡す」
「嫌アル!!」
モンスターの首をがっちりロックする勢いで抱きつく。
「じゃあどうすんだよ。俺たちで殺るのか?」
出来る気がしねぇけど。
「飼うアル!!」
「飼えるわけないだろ」
「リュウはいっぱい飼ってるアル!!」
「契約した召喚獣と一緒にすんな」
「この子とも契約すればいいヨ!!」
「はぁ、そんなお手軽に野良モンスターと契約できたら大金持ちになってるわ」
「ケチ!!」
「じゃねぇよ」
契約に条件があるのは召喚士の常識だが、アホに説明しても理解できるとは思えん。
「う〜……」
「諦めろ。野良モンスターは絶対に飼えない」
「む〜……」
「クゥーン……」
頬ずりして絆をアピールする二匹。
残念ながら、野獣の常識は人間には通用しない。




