10話「カロリーと幸福度は比例するが食後の胃もたれも比例する」
「ふぅ、疲れたな……」
フドーコートのソファーに腰を下ろし、クソ重たい荷物を置く。
「軟弱アルね」
「そうね。いくら召喚士でも度が過ぎて軟弱だわ」
腹立つわ〜コイツら。
俺はリンカのような体力馬鹿じゃないし、ミサキのように都市内を巡回してるわけじゃない。
動画配信者なんて基本はPCに張り付いてるんだから、普通は軟弱なものだ。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「俺はオムライス。食後にチョコレートパフェとメロンフロート」
「満漢全席アル」
あるわけねぇだろ。
「当店にはありません」
慣れてるな。
「こいつも俺と同じで」
「私はキング・ドラゴン・バーガー二つと食後にレモンティー、アイスで」
「繰り返します。オムライス二つとキング・ドラゴン・バーガー二つ、食後にメロンフロート二つと、レモンティーをアイスで。以上でよろしいでしょうか」
「ああ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員さん大丈夫か? 顔がちょとヒクついてるぞ。
「ミサキ、そんなに食って大丈夫なの? 一応勤務時間中だろ」
「平気よ、たった二つだもの」
「そ、そうか……」
ミサキが注文した〈キング・ドラゴン・バーガー〉。
それはこの店〈ドラゴン亭〉の名物バーガーだ。
価格の割に量が多いこの店でも、特にデカい大きさのバーガー。
メニュー表のうたい文句は「キング・ドラゴンでも食べきれない!? 君は完食できるか——!?」だ。
一つでも完食するのが困難な物を、ミサキは二つ注文し、それを「たった二つ」と言い切る。やっぱバケモンだわ、コイツ。
「失礼なこと考えてない?」
「ない」
「この即答ぶりは絶対に嘘アル」
「そうよね。制裁」
指に込めた雷魔法をデコピン感覚で弾く。
「痛っ——」
——てぇぇぇえええ!!
デコからつま先まで痛みが貫通したぞコラ!
デコピン感覚で攻撃魔法使うんじゃねぇよ!
店の中だから大声出せねぇし、マジでムカつくわ!
「ぐぅっ……」
「女の子に対して失礼なことを考えるからそうなるのよ」
「オカンみてぇなこと言いやがって」
「オカン? リュウヤのお母さん、亡くなってるわよね? リンカも」
「お母さんはお母さんアル」
「説明」
「するから、いちいち攻撃魔法使おうとするんじゃねぇ。職権乱用で局長にチクるぞ」
「局長は現場優先だから無駄よ。私が今この場での正義。いいいから説明。オカンについて洗いざらい吐きなさい」
こんな奴らばかりだから「治安局が治安を乱してる」なんて言われるんだよ。
「早く。バーガー来ちゃうでしょ」
「言っておくが、そんな面白い話しじゃないぞ」
「その判断は私がするわ」
「何から話すか……召喚石からか……?」
「早く」
「あー、ダンジョンで珍しい召喚石を見つけたんだが——」
「長い。要約して」
「……召喚石から理不尽なオカンが出てきた。以上」
「意味が分からないわよ」
「ミサキが要約しろって言ったんだろうが」
オカンは俺にとっても謎の存在だ。
他人に説明するにはハードルが高すぎる。
「動画見せれば一発アル」
「お前、天才か」
「天才アル!」
やっぱ天才じゃねぇわ。
「動画?」
「ほらこれ」
例の動画を見せる。
「………………合成?」
「じゃねぇよ」
「この小太りのおばちゃんがオカンなわけ?」
「ああ」
「なんでオカンなの?」
「俺の〈母ちゃん〉って言い張ってて鬱陶しいから」
「こんな合成動画作って探索者としてのプライドはないの? 数字のためにプライド捨てたわけ?」
「合成じゃねぇから。なあ、リンカ」
「お母さんは最強アル」
「と、いうことだ」
「……アホらし。真面目に疑って損した」
「勝手に疑って勝手に期待して勝手に損すんな」
こいつ、〈賢者〉じゃなくて暴君だろ。
「また失礼なこと考えてない?」
「ない」
「嘘アル」
「そうよね。制さ——」
「お待たせ致しましたー。オムライス二つと、キング・ドラゴン・バーガー二つになります」
「お姉さん大好き」
「お断りします」
「プッ、あっさり振られてやんの——ププッ——」
「節操無しは嫌われるアルよ」
そういった意味じゃねぇ。
ミサキは分かってて言ってるし、リンカはマジで言ってる。
やっぱムカつくわー、コイツら。
「キタキター。〈ドラゴン亭〉はやっぱりこうじゃなきゃ」
頭サイズの巨大バーガーに笑顔で食らいつく暴君。
暴君と暴食——こいつのためにあるような言葉だな。
「店員さん! オムライスおかわりアル!」
「はーい! お待ちくださーい!」
もう一人いたわ。
大食い競争してんじゃねぇんだぞ。
お前はおしとやかな女になるんじゃなかったのか。
「はぁ……」
「おっさん臭い。せっかくのバーガーが不味くなるから止めて」
「最近のリュウはおっさんアル。タメ息ばかりで私も大変ヨ」
「大変そうねー……モグモグ……」
「大変アルよ〜……モグモグ……」
お前らのせいでな。
「ゴクン。さて、二つ目といこうかしら——ピピ——ん? 隊長?」
「サボってんのがバレたんじゃねぇのか?」
「報告してるし今も仕事中よ。——ピ——はい、立花です——」
インカムに手を当てて喋り始めると、どんどん眼が据わってくる。
こういう表情を見ると、やっぱり治安局員なんだなーと実感する。
「ミーちゃん、忙しそうアルな〜……モグモグ……」
「ま、休み以外に外食するほど暇じゃないだろうな」
いくらタツマ案件では自由に動けると言っても限度がある。
こいつは戦闘力だけみればトップクラス。
明らかに白な俺たちを一日中監視なんて出来るはずがない。
「——了解。すぐに向かいにます——ピ——と、言うわけだから」
「緊急だろ。さっさと行けよ」
「タツマを見たら連絡しなさいよ」
「気が向いたらな」
「また一緒にご飯食べるアル」
「ええ。それじゃ」
慌ただしく席を立って駆け出さすミサキ。
「良かった。マジで一日中付き纏われるかと思ったわ」
「寂しいアルね〜」
「全然」
あんな面倒な奴を相手にしてたら俺が物理的にぶっ壊れるわ。
オカンとお前で精神がぶっ壊れてる俺を労れや。
「食後の品をお持ちしてよろしいでしょうか?」
「あ、お願いします。それとレモンティーはキャンセルで。あとコレ、持ち帰りで」
残ったキング・ドラゴン・バーガーは持ち帰りだ。
「かしこまりました。お待ちください」
すぐに運ばれてくるチョコレートパフェとメロンフロート。
「やっぱここに来たらコレだよな〜」
「そうアルね〜」
***
「台所とお風呂の掃除は終わったから、次はリュウヤの部屋でも掃除しようかね」
オカンは割烹着のヒモを結び直すと、気合いを入れるのだった。




