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魔法使いの生徒会(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編1)  作者: 月森琴美


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終章

 我に返るまで、どのくらい時間が過ぎたのだろう。

(行かなくちゃ。あの人が待ってる)

 技術室を出て、茉理は目を丸くする。

 ずっと古木で出来た音のする廊下だったのに、今度はニスを塗ってピカピカに光る真新しい木材で出来た廊下になっていたのだ。

 こつこつと彼女が歩く音が響く。

 廊下はすぐに階段に突き当たった。

 階段には手すりがついていて、ところどころに天使を模した彫刻がある。

 茉理は一歩一歩、踏みしめながら階段を上がった。

 上がってすぐのところに、大きな扉を見つける。

 胡桃色によく磨かれた扉はこれまでの特別教室のものとは違い、とても豪華で美しかった。

(ここが生徒会室)

 茉理は感慨深そうに胡桃色に光る扉を撫でる。

 少女の瞳に緊張の色が走った。

(いよいよだ)

 何故かやり遂げたという達成感は沸いてこない。

 それどころかこれからが本番だという気概で、胸はどきどきと激しく鼓動する。

(ここまで来たんだもん。大丈夫、やれるよ)

 少女は深く深呼吸し、意を決して扉を開けた。

 にぶい音と共に扉は開いて、真っ赤な絨毯が敷き詰められている豪華な部屋が茉理の目に飛び込んできた。

 天井は、外から見れば三角錐の屋根なのだろう。真ん中が一番高くて尖っている。

 それだけでここがこの館の最上階だと感じられた。

「失礼します」

 茉理は小さな声でつぶやいて、中に入る。

 中央に大きな円卓があり、その真ん中に座っていた人影が立ち上がった。

「生徒会室にようこそ、後野茉理」

「会長」

 茉理は立ち止まり、じっと彼を見据える。

 側に来ようとしない彼女を見て、帝は立ち上がった。

 さっきまでの迷いの中にある帝ではなく自信に満ち、力あふれる少年となって、彼は茉理のすぐ前に来た。

「見事にここまで来れたな。嬉しいぞ」

(嬉しい? 会長が?)

 茉理は表情を崩さず、黙って帝を見返す。

「今日からお前は、俺の大切な女だ。ずっと俺の側にいろ」

 思ったよりも甘い声でささやくと、帝は茉理の頬に手を伸ばした。

 そっと触れられ、彼女は身を震わせる。

(そんな目で見ないでよ。やだ……)

 彼の彼女を見る目は、輝きに満ちていた。

 触れる指先も優しくて、本当に大切な人に対するかのようで――茉理の顔は真っ赤になり、胸はどきどきと音を立ててしまう。

 帝は、本当にお前でよかった、とつぶやき、少女を引き寄せた。

 強く抱きしめられ、茉理は彼の腕の中で、ユーフォリアのことを思い出す。

 なんどかこうやって助けられた。

 あの心優しい彼が今、ここにいる。

 でも――。

 キスをしようと顔を近づける帝の腕を、彼女はさりげなくはずす。

「後野?」

 不思議そうな帝を、彼女は真剣に見た。

「会長、わたし、会長の大事な人になったんですよね」

「そうだ。お前は今日から俺の大切な存在だ」

 彼は微笑むと続ける。

「会長じゃなくて名前で呼んでくれないか。お前は俺の彼女なんだぞ」

「……帝先輩」

 茉理は挑むように彼を睨んだ。

 その視線に、帝は困惑する。

「どうしたんだ」

「もう一度聞きます。わたし、先輩の大切な存在になったんですよね」

「ああ、そうだ」

「じゃ、先輩は、わたしのお願いを聞いてくれるんですよね」

「何か欲しいものでもあるのか」

 いきなりおねだりとは参ったな、と彼は髪をかきあげながら苦笑した。

「なんだ、何が欲しいんだ?」

「ほんっとうに、なんでも聞いてくれるんですよね」

「くどいな」

 帝は少々気分を害した。

「二言はない。俺に出来ることならなんでもしてやるよ。言ってみろ」

 茉理はすっと人差し指を前に突き出す。

 そして思いっきり大声で叫んだ。

「わたし、絶対あなたの彼女になんてなりませんから」

「なっ」

「絶対絶対ぜーったいに、あなたの彼女になりたくありませんっ。だからわたしを彼女にしないでください」

「なっ、なんだと!」

「それだけ言いたくて、ここまで来たんです。あーっ、すっきりした」

 茉理は叫び終わると、満足そうに微笑む。

「二言はないですよね。なんでも聞いてくれるんですよね」

「そ、それは……」

 帝はあまりのことに返事も出来なかった。

「じゃ、わたしはこれで失礼します」

 そう言うと茉理はだっと踵を返し、生徒会室の扉を開けて、勢いよく出て行く。

(なっ……なんだ、今のは)

 残された帝は、呆然とその場に立ち尽くした。

 現状を把握できず、彼は唖然と彼女が閉めた扉を見つめる。

 そのときの帝の顔は一生忘れられないだろうと副会長 伊集院雅人は、後に新聞部に語ったそうだ。




「あはははははっ、あはははっ、あーっ、最高だねえ」

「雅人先輩、笑いすぎですよ」

「だあってさあ、いいね、茉理姫。やっぱり最高だよ、彼女は」

 お茶のカップを前にして、生徒会メンバーはイベントが無事終了したことを、お互いねぎらい合っていた。

「ふふっ、僕が見込んだ姫だけのことはある。そうだろ? 直樹君」

「ああ、まったく。帝をきっぱりふる女がいるなんて、正直予想外だったな」

 直樹は黒眼鏡の奥で、瞳を面白そうに煌かせる。

「もう、先輩たち、笑ってないで、少しは帝のことも考えてあげてくださいよ。たぶん初めて失恋しちゃったんですよ」

「ああ、最高に良い経験になったろう」

「そうだねえ」

 全然心配してない様子の二人に、英司はため息をついた。

 その目は開かれた窓に向く。

(帝……大丈夫かな)

 さっきから彼らの大事な王様はいない。

 窓の外――特館の屋根の上で、彼はずっと暮れ行く夕日を浴びていた。

 今はまさに誰も近寄れない状態。

 彼が一人で何を考えているのか、英司は心配でしょうがなかった。

(今までこんな風に、きっぱり拒否されたことないもんな)

 相当傷ついたことだろう。

 早く立ち直ってくれると良いのだが――。

 英司が顔を曇らせているのに気付き、斎は言葉を送った。

『でも良かったんじゃないですか、結果的には』

『そうか?……ま、そうか』

 英司は、ふっと笑顔をみせる。

「これで帝は今年一年、誰にも気を使わずにフリーで過ごせるんですよね。良かったですね、本当に」

「あっまーいっ、英司君」

 ずずいっと薔薇の花を突き出され、英司はのけぞった。

「な、なんですか、いきなり」

「あまいよ、君。まだまだ全然帝のことをわかってないね」

 雅人は薔薇を一輪、口元に当ててポーズを取る。

「ふふっ、君は帝がこのまま黙っていると思うのかい? ここまで見事に振り切られてさ」

「え……でも」

 英司と斎は首をかしげた。

「見ていてごらん。彼はもっともっと熱くなるから。明日からが楽しみだなあ。茉理姫が帝をちゃんと扱えるといいけどね」

「ま、大丈夫だろう、その辺は」

 直樹は面白そうに口元に笑みを浮かべる。

「あれだけの度胸があるんだから、なんとでもするさ、彼女なら」

「そうだね」

(明日からって、一体どうなるんだ?)

 何かがまた始まるのか。

 英司と斎は一抹の不安を感じながら、互いに顔を見合わせた。




 真っ赤な夕日が空を染める。

(あー、すっきりした)

 茉理は気分よく学校を出て行った。

(これで心置きなく健全な学生生活に戻れるわ。もうわたしに変なちょっかいは出してこないでしょうし)

 うーんと伸びをして、少女は満足しながら駅に続く道を歩いていった。




 夕暮れ時の西空は、世界で一番美しい色をしている。

 燃えるような赤にどこか寂しげな色を加え、薄紫の闇を従えて、それはいかなる芸術作品も及ばないほどの美と調和に満ちていた。

 黒髪に縁取られた少年は、その美しい景色の一部と化し、さっきから屋根の上で微動だにしない。

 彼の心は今、空を染める紅蓮の光より激しく燃え盛っていた。

(後野……茉理)

 彼の黒い瞳に激しい闘志がみなぎる。

(このままで済むと思うなよ。見ていろ、絶対にお前を、この俺の『彼女』にしてみせるからな!)

 決意を胸に秘め、沈み行く夕日を彼は見送る。

 それは新たなる日々の始まりを告げるかのように燃え上がり、刹那の美しさの余韻を残して西の空に沈んでいった。



<終わり>

 私立クリスティ学園シリーズ第一巻『魔法使いの生徒会』終了です。

 ここまでお付き合いくださいました皆様に、心からお礼を申し上げます。特にブクマや温かい評価をいただけて、凄く嬉しかったです。本当にありがとうございました。

 一巻はこれで終わりですが、茉理と生徒会メンバーの物語はまだまだ続きます。

 第ニ巻もお付き合いくださるとうれしいです。

 また次の物語でお目にかかれます事を、心より願っています。

 (活動報告に今後の更新や次巻の予告などを書きました。よろしければそちらもご覧ください)

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