52
生徒会室で高みの見物を決め込んでいた第二の試練の主催者は、すべてを見届けてにやりと笑った。
「なかなか良い舞台だった。帝、どうだ? この俺の傑作は」
「……」
「視聴覚室の大型魔道式スクリーン『なんでも体感できるぞう』くん。少々時間と手間がかかったが、やはり出来が違うというものだ」
「ステージは良かったけど、あいかわらずのネーミングだね」
やれやれ、と雅人は肩をすくめる。
「ていうか、あれってあり? このステージ、ほとんど対早川響子姫用じゃない」
怖いねえ、君も、とつぶやく雅人に、黒眼鏡がきらりと光った。
「帝の手をわずらわせる必要などない。あいつは、この俺の責任でもあるしね」
「最初から落とすつもりだったんなら、推薦なんてどうしてしたんです?」
英司の問いに、直樹は苦笑いをみせる。
「何もアクションを起こさないで、彼女に俺の気持ちは伝えられないからね」
「ま……それはそうですけど」
「言葉だけではわかってもらえそうもない天才肌だ。自分のやることなすこと、すべて正しいと思い込んでるその鼻を、ことごとく潰させてもらったよ」
「これで君の思惑は、100%完璧に成功したというわけかな。おめでとう、直樹君」
雅人の茶々に、直樹はふっと横を向いた。
「いや、誤算だらけだよ。何一つ、俺の計算どおりには行かなかった」
(早川明人のことか。君も本当に責任感が強いというか何というか)
雅人は黙って親友を見つめる。
自分の分担が終わっても、彼は全然達成感を感じていない。
早川明人が元に戻らない限り、彼の心は苦しみ続けるのだろう。
(まったく……この僕をかえるにしたことに関しては、全然同情も良心の呵責のかけらも見せない奴がねえ)
雅人はそれ以上何も言わず、親友に暖かいまなざしを向けた。
「じゃ、次俺ですね」
行ってきます、と英司が腰を上げる。
彼は瞬間移動する前に、少し残念そうな顔をしてみせた。
「雅人先輩、すみません。最初にあやまっておきます」
「どうしたんだい? 英司君」
「たぶん俺のステージで……彼女は落ちることになると思うから」
そう答えて、しゅっと英司の姿は消える。
雅人は肩をすくめてモニターの方を向いた。
「やれやれ、英司君も義理堅い性格だねえ」
「お前が推薦した奴を不合格にするんだから、一応謝罪しておきたかったんだろう」
直樹が冷静な声でつぶやく。
「俺の場合は自分で推薦しておいて落としたんだから、誰に何を言う必要もないけどね」
「そっちの方がひどいかもしれないってわかってる? 直樹君。まあいいけどね」
雅人はふふっと微笑んだ。
「でも英司君、あやまるんだったら相手を間違えてると思うな、僕は」
「どういう意味だ」
怪訝そうな帝の質問に、雅人は意味ありげに答えてみせる。
「僕じゃなくて、君にあやまるべきだったんじゃあないかな。ねえ、み、か、ど」
雅人の言わんとしていることを悟り、帝は瞬時に顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「それこそお門違いだ! 俺はあいつのことなんて、なんとも」
「じゃ、今年も美奈子姫で決まりってことでいいのかい?」
「……」
雅人の鋭い切り替えしに帝は返事に詰まり、沈黙するしかなかった。
美奈子と茉理は、並んで廊下を進んでいた。
「まさかあなたがここまで来るとは思わなかったわ、後野さん」
「……どうも」
茉理は、自分でもびっくりしてるんです、と小さくつぶやく。
「でも色じかけとえこひいきが通用するのはここまでよ。これからは帝様への愛だけが勝負の勝敗を決めるわ」
「色じかけとえこひいきって――」
茉理は憮然とする。
「あら、あなたって雅人先輩の気まぐれで推薦されたそうじゃない。どうやって雅人先輩に取り入ったの?」
「わたし、別に何も」
「何もしてなくて、どうして魔力もないあなたが推薦なんてされるのよ。わたし、必ずあなたの汚いやり方を暴いてみせるわ。そんな卑劣な手段で帝様の彼女になんて絶対になれないからね。覚えておきなさい」
「……」
「帝様の愛はあなたには譲らないわ。他の誰にも――あの方は、わたしだけのものよ」
迫力たっぷりに言い切る美奈子。
茉理は何を言っても無駄のような気がして、重いため息をついた。
「残るは理科室と技術室ね」
美奈子は余裕の笑みをみせる。
「帝様が待っているのは、このわたしよ。あなたではないわ」
「……そうかな」
あまりにも自信たっぷりな彼女に、茉理は足を止めた。
「わたしは違うと思います。会長はきっと――きっと誰も待ってない」
「え?」
「本当は、こんなことしたくないんだと思う。イベントとか、一年だけのお付き合いなんて」
「……」
「でも家のためだから――クリスティって名前のために自分を縛ってる。わたしはそう思います」
茉理の真っ直ぐな言葉に、美奈子は何も言えなくなった。
てくてく歩いた末、たどりついたドアは、見た目がかなり不気味だった。
古びた木材で出来ており、骸骨の全身像がドア一面に彫刻してあった。
「ここって……お化け屋敷?」
「理科室よ」
美奈子は答え、さっとドアを開ける。
開けたとたん、なんと歓声が沸き起こった。
二人は目の前の光景に目を瞬かせる。
そこにはなんとプロレスリングが出現していた。
場を盛り上げるためか、観客まで映像で用意されている。
「ねえ、まさかと思うけど――」
茉理は嫌な予感がして、おそるおそる美奈子に話しかけた。
「ここって、リングだよね」
「そうみたいね」
「リングっていったらやっぱり格闘技だよね」
「そうね」
(って、そんな冷静な顔、しないでよーっ。戦うって、誰と誰がよ)
茉理は心の中で悲鳴をあげてしまう。
ここにいるのは、言うまでもなく二人だけ。
ということは、まさか美奈子と――。
「入るわよ」
美奈子はまったく動じずに、理科室に足を踏み入れた。
茉理もあわてて後に続く。
「レディース アンド ジェントルマン。本日は魔獣タイトルマッチにようこそお越しくださいました。今、挑戦者が到着した模様です。皆様、盛大な拍手でお迎えください」
リングの上で、しましまのシャツを着た英司が元気よく叫ぶ。
「ほら、お二人さん、待ってたよ、上がって上がって」
マイクを持って、にこにこしながら英司は二人をリングにあげた。
(なんかとっても場違いって感じ――制服とワンピース姿でリングに上がるなんて)
盛大な拍手と歓声を浴びながら、茉理はため息をつく。
「それでは挑戦者の紹介をいたしましょう。本日はこのお二方に戦っていただきます。まずは円城寺美奈子さん」
「よろしくお願いします」
美奈子は何故か調子に乗って、勢いよく観客席に手を振る。
「そして今年初挑戦の後野茉理さん」
「あ……よろしくお願いします」
いまいちこのノリについていけなくて、茉理は気のない返事をした。
「それではルールをご説明しましょう。こちらの箱に魔獣のカードが入っています。挑戦者のお二方には、それぞれ交代でこのカードを引いていただきます。引いたカードに書かれた魔獣が出現するので、どんな方法でもいいからそれを倒してください」
「えーっ」
茉理は瞬時に青ざめる。
(どこかで来るかもとは思っていたけど……)
いよいよ魔法を使っての試練。
魔獣と戦うなんて、どうしたらいいんだろう。
(そもそもわたしは魔法なんて使えないし、魔獣だって――)
茉理の脳裏を咄嗟によぎったのは、以前見た魔獣の姿。
あれも確かこの特館、生徒会長の償還魔獣だった巨大蛇もどき。
(あんなのがまさか出てくる……んだよね、やっぱり)
美奈子の方を見ると、全然余裕のようで少しも驚いていない。
きっと彼女は魔法が使えるから、それでなんとかするつもりなんだろう。
茉理は大きなため息をついた。
(あーあ、ここで失格かな)
「では最初にどちらが先にバトルを行いますか」
英司の問いに、美奈子が名乗りをあげる。
「わたしから戦いますわ」
「では、この箱から一枚引いてください」
英司は箱を美奈子に差し出した。
「引いたカードの魔獣と戦うことになります。さあ、何が出てくるか」
美奈子は、顔色一つ変えずにカードを引き出す。
次の瞬間。
彼女の手からカードがしゅっと消え、かわりにリングに巨大な大ナメクジが現れた。
「きゃーっ」
茉理は思いっきり悲鳴をあげてのけぞってしまう。
「おおっ、出ました、デカクジ君です。こいつは手ごわいぞ、さあ、どうする、円城寺挑戦者」
声を張り上げ、場を盛り上げる英司。
彼の後ろに隠れ、茉理はぶるぶる震えるしかなかった。
(うそっ、これ、けっこうキモいよーっ)
青緑色のぬめぬめなめくじは、ヌメーッと奇声をあげる。
(声まで出すの? ひえーっ)
がたがた身を揺らす茉理を、馬鹿にしたような目で美奈子は見やった。
「一瞬で終わらせますわ。我が内に宿りし風の力よ、目覚めて刃となれ!」
両手を組み合わせ、呪を唱えて、美奈子は両手を広げる。
すると彼女の胸の辺りから、風が沸き起こった。
(す……すごい風)
茉理は驚いてしまう。
出現した突風は大きな竜巻となって、デカクジ君に襲いかかった。
風の渦巻き一つ一つが鋭く曲がった刃のように、青緑の体を縦横に切りまくる。
(うわっ、スプラッタ……)
デカクジ君は切り刻まれ、ずるずると青緑の泥の塊のようになって、リングに崩れ落ちた。
色が色だけに崩れた様はすさまじい。
美奈子は髪を髪をかきあげると、涼しい顔で茉理の横に来た。
「さ、次はあなたの番よ」
「う……うん」
茉理は萎える足を必死に動かし、ギクシャクとリングに出る。
「なんだったら棄権したらどう? 今なら魔獣に襲われなくてすむわよ」
(うーっ、出来たらそうしたい)
茉理は心の中でうめいた。
魔獣とは戦えないし、ここで失格になるのは目に見えている。
(だけど……自分からギブアップってのはやっぱり嫌だな)
ここまで何のために来たのか。
それを思い出し、茉理は心を決める。
(やるだけやってみよう)
彼女は深く深呼吸した。
首に下げた白いペンダントをぎゅっと握る。
それはお守りのようで、少し心が落ち着いた。
「よろしいでしょうか。それでは後野さん、こちらから一枚、お願いします」
茉理は震える指を箱に突っ込み、カードを引っ張り出した。
先ほどと同じように、カードは茉理の手から消える。
そしてリングの上に、黒い巨大な影が現れた。
茉理はビル三階分はあろうかと思われる巨大な怪物を見上げ、絶句する。
(な、なに、これ! さっきのナメクジよりもしかして……凄い奴だったりする?)
「おおっと、これはとんでもないカードに当りましたね。こいつは野生の猛獣モンキードラゴン。本日の魔獣カードの中で、一番レベルが高い最強エース」
(うそーっ、なんでこんなのが)
映画ゴジラにそっくりの状況に陥り、茉理は心臓がばくばくと音を立てる。
自分のくじ運のなさを呪いたいところだが、あとのまつりというものだ。
その名の通り、目の前の巨大魔獣は体型は翼のある西洋風ドラゴン、その顔と前足、しっぽはおさるという世にもこっけいな怪獣であった。
キキーッとさるそっくりの声をあげ、五本指のついた前足でぼりぼりと背中をかく。
(なんかとっても見た目はお茶目なんですけど)
茉理は魔獣の動きが意外と面白くて、しばらく眺めてしまった。
でもいつまでもそういうわけにはいかなくて。
目の前に茉理を見つけたモンキードラゴンは、キキーッと鳴くと突然飛びかかってきた。
「うわああっ、ちょっとっ」
茉理はあわてて避ける。
左右の前足を交互に突き出し、怪物は茉理を摑もうと必死に追いかける。
彼女はねこに追いかけられたねずみよろしく、リング中を駆け回って逃げた。
モンキードラゴンの巨大な後ろ足はどかどかとリング中を踏み荒らし、観客席にも侵入した。
せっかくの特設リングもめちゃくちゃ、観客の映像は乱れに乱れ、凄まじい状態になる。
(なんかすごいなあ)
英司は空中に浮遊して退避し、この状況を眺めた。
横にはやはり美奈子が宙に浮いている。
「一体どうするつもりかしら」
あきれて声をあげる美奈子は、もう自分の勝利を確信し、余裕たっぷりだ。
必死に逃げ惑っていた茉理だが、ついに足がもつれて転んでしまう。
そこをすかざすドラゴンの右手に捕まえられ、大きな口の前まで持っていかれた。
「やだっ、離してっ」
茉理は手足をばたばたさせ、自分を締め上げる大きな指を蹴る。
でもなんの効果もなく、ドラゴンは大きな口を開けて茉理を中に放り込もうとした。
(そろそろ限界だな。勝負あったろ)
英司は茉理の敗北を確信し、すばやく魔獣封印の呪をとなえ始めた。
生徒会室では、四人が目を大きくさせながら惨状を見ていた。
「こりゃすごい。映画になるぞ」
「本当に鬼気迫る良いシーンだね。迫力満点、ああっ、僕がここに出演していないとはなんという不運なことだろう。もし華麗なる僕がヒーローとして見参したら、この映画は大ヒット間違いなし。ハリウッドでロングランも夢じゃないというのに」
先輩二人の平和な言葉に帝は何も反応せず、黙って逃げ惑う少女をみつめていた。
(当然の結果だな。あいつには魔力がないんだから)
逃げる以外にどうしようもないだろう。
勝負は見えた、と彼は目を閉じる。
(今年も、美奈子か)
別に嫌なわけではない。また一年、付き合えばいいだけの話だ。
冷静な心で、帝は当たり前のように事実を受け止める。
(俺には当然の義務だ。クリスティ家の血筋を守る責務があるんだからな)
自分の思いをめぐらしていると、モニターから鋭い悲鳴があがった。
力尽きた茉理の体は魔獣に捕まえられてしまう。
「あーあ、ついに終幕か」
「残念だね。ま、英司君の予告どおり、茉理姫はここで失格だと思ってはいたけれど」
雅人が少しさみしそうにつぶやいた。
帝は少女が巨大な手にむんずと捕まえられ、口元に運ばれそうになっているのを見る。
(終わりか)
「英司の奴、もたもたしてるな」
「間に合うでしょ。英司君が、こんな低級レベル魔獣の封印ごときでしくじるはずないって」
安心しきった二人の言葉をよそに、帝は画面を見ながらはっとした。
思わず椅子から立ち上がる。
魔獣に囚われた少女の胸に、ちらりと白い輝きが見えた。
(あいつ、まさか……まずい!)
「どうした? 帝」
帝の顔色が変わったのに気付き、直樹が声をかける。
「直樹、雅人、力を貸せ。理科室を特館から切り離す!」
叫んで、すばやく帝は両手を胸の前に組み、呪を唱えだした。
直樹と雅人も立ち上がり、瞬時に反応する。
(先輩たち、どうしたんだ?)
真剣にすばやく呪を唱える三人を見て、斎は驚いた。
(まさか後野さんの身に何か?)
モニターには、すでに封印の魔方陣を完成させつつある英司の姿がある。
このままでも彼女が食われる前にモンキードラゴンは封印され、大丈夫なはずなのに――。
「わが魂に宿りし雷鳴よ! 空間を切り裂き、遮断せよ」
「わが魂に宿りし紅蓮の焔よ! 空間を切り離し、遠ざけよ」
「わが魂に宿りし清廉なる水よ! 切り離しし空間を包み、防御せよ」
三人の魔法が発動したのと、英司が封印魔法を完成させたのと、それはほぼ同時だった。
――茉理の全身から、まばゆいばかりの白い光が放たれたのは。
今まさに口の中に放り込まれようとしたそのとき、茉理の全身に熱い力がみなぎった。
それは茉理の体内だけでは収まらず、あふれて辺り一体を包み込む。
「うわーっ」
「な、何?」
英司と美奈子は、あまりのまぶさしに直視出来ず、腕で目を覆った。
光は輝き、満ち溢れ、暖かくすべてのものを包み込み、溶かしていく。
(な……なんなの?)
茉理は自分を縛る戒め――モンキードラゴンの巨大な手が突然無くなったのに気付いた。
体がふわっと空中に浮く。
少女が目を凝らすと、リングも観客席も、床も特別教室も、すべてが解けて消えていた。
特館そのものが、一瞬、消滅する。
そのわずかな時のはざま、茉理は光の底にあるものを見た。
すべてが消滅し、本当にそこにあるものの形が現れる。
(何? あれ……)
それは棺おけだった。
棺おけの蓋は開いており、中に人が眠っている。
(誰?)
茉理は、目を凝らしてみて衝撃を受けた。
金色のふさふさとした髪、忘れようもない白く冷たい美貌。
真っ赤な薔薇の花に囲まれて静かに眠るその瞳は、開かれればおそらく、せつなげなスミレ色――。
(う、嘘……あの人は!)
茉理の心が切り裂かれそうなほど痛む。
今でも忘れることが出来ない魅惑的な瞳。
せつなげな声、誘惑されそうなほど甘美な微笑み――茉理の脳裏に彼と会った時の甘いときめきと恐怖の思いがよみがえり、全身を貫いた。
体中が金縛りにあったように、すくんで動けない。
でも棺おけのイリュージョンは一瞬の幻のように、やがてどんどん遠ざかっていった。
(待って)
手を伸ばし、もっと奥へ降りようとする茉理の想いに逆らうように、棺おけとの距離は開いてしまう。
ついに遥か彼方へとそれは消え去り、何も見えなくなった。
白い靄、霧のように深く濃い白の闇。
辺りに静寂が満ちる。
静かに、自然に、白い靄はゆっくりとはれていく。
「あ……」
茉理は目を瞬かせた。
「ここって――」
そこは古い木造の教室だった。
刹那の幻影は消え、まわりにあるのは現実味のあるものばかり。
壁の周囲はぐるりと棚で、ビーカーやフラスコ、試験管やアルコールランプなどが、ずらりと並んでいる。
教室で使っている机より四倍はある大きな机が七つほど置かれ、窓際には剥製やらカエルやねずみのアルコール付けなどの瓶があった。
(理科室……だよね)
まだ一度も特別教室を使ったことのない茉理は首をかしげる。
ふと横を見ると、呆然と美奈子が立っていた。
彼女はまだ正気に戻っていないようだ。
英司の軽快な声が、美奈子の意識を取り戻す。
彼は小型PCを出して、どうやら通信中のようだ。
「はい、はい。うーん、こちらは大丈夫です。でも面倒なことになりましたね」
「な……なんなの? 一体今のはなんだったのよ」
瞳に光が戻るや否や、美奈子は興奮の声をあげる。
横に茉理を見つけると、すぐさま彼女は詰め寄ってきた。
「一体今のはどういうこと? あんたって何者なのよ」
「って言われても……わたしにもよくわからないんだけど」
茉理は自分も驚いて、そう答えるしかなかった。
信じられない、あんな魔法なんてないわっ、と叫ぶ美奈子を前に、茉理自身もわけがわからず、戸惑うばかりだ。
英司は小型PCを前に、生徒会室との通信を続けている。
「はい、はい、わかりました。じゃ俺、今から風の魔力で空間をつなげます。誘導してもらえますか。はい、じゃあ」
PCをしまうと、彼は二人の方に向いて言った。
「第三ステージもクリア。おめでとう、円城寺さん、後野さん」
「えっ、これでクリアですか」
「そんな! わたしは魔獣を確実に倒したけど、彼女は」
「後野さんだって自分の持っている力で魔獣を消滅させたし、この理科室にかけられた魔法まで全部消去した。これだけやれば合格だと思うけどね」
「……」
美奈子は悔しそうに茉理を睨む。
「まただわ。あなたって何て運の良い人なの」
「はあ」
「でもね、奇跡は三回までしか起こらないわ。きっと四度目はないわよ」
次こそ覚悟なさい、と叫ばれ、茉理は返す言葉も出ず、重いため息をつくしかなかった。




