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魔法使いの生徒会(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編1)  作者: 月森琴美


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(なんだったんだろう……)

 茉理は、折れた花を手に校門のところにたたずんでいた。

『雅人様』にあこがれてバスケ部入部を即座に決めた奈々は、入部届け出してくるね、と早速部室に行ってしまった。

 彼女を待っているのだが、なかなか帰ってこない。

 頭に浮かぶのは、先ほどの『雅人様』。

(本当に変なの。雅人様って双子なのかな?)

 薔薇の花をそっと花壇の隅に置き、茉理は首をかしげた。

 いつまで待っても奈々は来ず、下校をうながす放送が学園内に響き渡る。

 生徒たちの数もまばらになり、空はどんどん薄紫に染まっていった。

(奈々、遅いな)

 所在投げに桜の大木にもたれて、茉理はためいきをつく。

 肌寒い夕風が、三つあみを揺らして吹き抜ける。

 こんな時間は、なんとなく物寂しくなるものだ。

 静まり返った校舎を見ながら、茉理は不安にかられていった。

(お兄ちゃん……)

 学校に入って数週間。

 でもまだ水沢明人の消息はしれなかった。

 茉理はポケットから、白い封筒を取り出す。

 その古い手紙は、数年前、明人からもらったものだった。


『茉理ちゃん

 元気にしてる?

 僕は、とても元気です。

 新しい学校にも慣れました。

 新しいお父さんと、妹も出来て、とても楽しいです。

 今度の学校は、クリスティ学園といいます。

 学校には門のところに大きな桜の木があるんだけど、とっても不思議な言い伝えがあるんだって。

 それは、この次、手紙に書くね。

 それではこれで終わります。

 バイバイ。

      明人より』


 日付は3年前になっていた。

 明人から来た手紙は、この一通きり。

 でも絶対、忘れてたりなんかしない――茉理はそう信じていた。

(お兄ちゃんがわたしを忘れるなんてこと、絶対ないんだから)

 校舎を見ると、シーンとして不気味なほどだ。

 昼間の喧騒が嘘のようで、茉理は思わずぶるっと震えた。

(なんか、怖い……)

 こないだ聞いた魔族の話が、彼女の脳裏に浮かんでくる。

 思い返せばあの『雅人様』も気味悪く思えて、茉理はぞっとした。

(やっぱりこの学校、何か変だよ)

 校舎がせまってくるような気がして、彼女はその場にしゃがみこんだ。

(奈々! 早く来てよ!)

 そんな茉理の頭に、フワリと木の葉が落ちてくる。

「え?」

 茉理は顔をあげ、頭についた桜の葉を手にとった。

 そして上を見る。

「あ……」

 彼女は目を大きく見開く。

(あの時の人だ)

 最初に学園に来たとき会ったあの男子生徒が、じっと茉理を木の上から見下ろしていた。




「どうしたの?」

 穏やかな笑みを浮かべて、彼は聞く。

「どうしてそんなに悲しそうなの?」

「……」

「探してる人には会えた?」

 茉理はうつむいて、首を横に振った。

「そう」

 考え込むように、彼は空を仰いでいたが――。

 すっと、また茉理の前に下りてきた。

 やさしい黒い瞳で、彼女をみつめる。

 茉理は胸がどきどきした。

(こらっ、落ち着け、心臓)

 こんな風に、男の子に間近で見つめられることなんて初めてだ。

 心配そうに揺らめく表情が、彼女の心をきゅんとさせる。

(どうしたんだろ、わたし)

 自分でも制御出来ない心の反応に、茉理はどうしてよいかわからなかった。

 彼は黒髪をかきあげると、A4サイズの小型小冊子を彼女に差し出す。

「良かったら、使って」

「え?」

「それ、本当は外部持ち出し禁止なんだ。だから終わったら、僕に返してほしい」

「あ……はい」

「約束だよ」

 彼はにこっと笑うと、茉理の横をすり抜ける。

「がんばって、きっと見つかるよ」

 そっと耳元に言葉を落とし、また去っていった。

「あのっ、名前を」

 聞かなきゃ、と思って振り向くと、また彼の姿は消えていた。

(不思議な人……)

 でも嫌な感じは、まったくない。

 むしろ、もっと会いたかったりして――。

 呆けていた茉理は、はっと我に返って小冊子を見た。

(これ、なんだろ)

 開いてみると、なんと全校生徒の名簿だった。

 裏には『中等部生徒会』と書かれてある。

(生徒会――ってことは、あの人も生徒会役員なのかな)

 茉理は小冊子を胸に抱きしめ、彼が消えていったほうに向かって軽く頭を下げた。

(ありがとうございます。必ず返しに行きますね)




 結局、奈々は戻ってこず、茉理は一人で家に帰った。

 帰宅するともう夕食の時間で、食事とおふろを手早くすませて自分の部屋にこもる。

「今日はたくさん宿題、あるの」

 気が散るから部屋に来ないでね、と家族に念を押し、彼女はさっさとひきあげた。

 机に向かって、早速名簿を引っ張り出す。

「すごい……こんなのあるんだ」

 クリスティ学園はプライベート重視。同じクラスの生徒同士でさえ、個人でやりとりしなければ連絡先もわからなかった。

 クラスの連絡網というものもなく、緊急連絡は学校から直接各家庭に来るという。

(まさか、ふくろう便じゃあないわよね)

 茉理はいつか見た魔法学校の映画を思い出し、くすっと笑った。

(さて、調べなくっちゃ。中学2年のページは……と)

 ぺらぺらめくって、彼女はA組から順に名前を見た。

 でも、どこにも水沢明人の名はない。

(そんな……お兄ちゃん、まさかいないの?)

 茉理はがっくりきた。

 ここまで来たのに、もう会えないのだろうか。

 別な学校に、また転校してしまったんだろうか。

 涙をこらえ、茉理はぱらぱらページを戻す。

 自分のクラスのところでピタっと止めると、何気に目を走らせた。

(あ、わたしの名前もある……って、当たり前か)

 自分の名前が書いてある一行をじっと見つめ、茉理は首をかしげた。

 左から名前、住所、電話番号、そして――。

「なんだろ、この家紋って」

 電話番号の横には、各生徒たちの印鑑みたいな模様がついていた。

 どれも不思議な模様ばかりで、動物とか多角形とか色もさまざまだ。

「何なの、これ、判子?」

 自分の欄にはそれがない。空白になっている。

 そして一番右端は、備考になっていた。

 ほとんどの生徒は備考が空白だが、茉理の行だけ何か書いてある。

「えーと、XX年 X月 公立北の丸小学校卒業 転入って、あー、そうか」

 茉理は以前公立の小学校を出たが、ほとんどの生徒は小学校もクリスティ学園だ。

(だからみんな何も書いてないのね)

 彼女ははっとした。

 あることを思いつき、急いでまた2年生のページに戻る。

 食い入るように見つめていた茉理は、ついに声をあげた。

「あった! XX年 X月 公立北の丸小学校4年より転入」

 指で押さえ、左についっと滑らせてその行の名前を見る。

早川明人(はやかわあきと)……はやかわ? あーっ、そっか!」

 茉理は頭をこん、とぶった。

 明人は母子家庭だったのだが、母親の再婚によって転校していったのだ。

(水沢だと思ってたからつい見逃してたけど、そうだ、新しいお父さんの姓に変わったんだ)

 ついに見つけた。

 2年B組 出席番号9番。

「やったあーっ」

 茉理は名簿を抱きしめると椅子から立ち上がり、躍り上がって喜んだ。


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