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魔法使いの生徒会(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編1)  作者: 月森琴美


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39

 茉理を寝室に寝かせ、帝が部屋を出ると、廊下にトノアとアルツールが待っていた。

 二人に連れられ、噴水の庭にまたやってきて、先ほどあったことを話す。

「フランソワ・デ・カルタス・デューキュアですって!」

 その名を聞いて、トノアは真っ青になった。

「何者だ?」

「デューキュア伯爵――トランシルバニアに広大な領地と伯位を持つ魔族だ。別名ドラキュラ伯爵とも呼ばれている」

「ドラキュラ……」

 帝は眉をひそめる。

「なんでも奴は永遠の命を手に入れ、それを世界人類に伝授し、この世界を死のない楽園にするそうだぞ」

「そのようなこと、運命に反しています。彼は運命に反逆し、人の道を踏み外そうとしているのです」

 トノアは悲しげに叫ぶと顔を覆った。

「制限魔法を解いたのが仇になったな」

 しかめ面をして、アルツールがつぶやく。

「何もなかったから良かったが。イジュール、姫は大丈夫か」

「かなり精神にショックを受けていたので、癒しの魔法をかけて眠らせている」

「そうか。まさか奴の術は完成してしまったのか」

 むずかしい顔で、アルツールは沈み込んだ。

「すべてエレア様の悲しき裏切りのせいだ。これから一体どうしたらいいんだろう」

 ため息をついた彼に、帝は聞いた。

「エレアとは誰のことだ?」

「わたしの双子の妹なのです。わたしと共に聖魔巫女として、このユーフォリアを守っていたのですが」

 トノアの答えに帝は意外そうにつぶやく。

「聖魔巫女が二人?」

「はい。わたしもエレアも共に巫力を持っておりました。普通、巫女は一人だけしか誕生しないのですが、双子だったわたしたちには共に同じ力が宿っていたのです」

「それで二人とも聖魔巫女になったのか」

「ええ。以前、どちらを聖魔巫女にするかで魔族間の諍いまで起こってしまい、結局どちらにも聖魔巫女の名を与えるということで、やっと決着がついたのです」

「聖魔巫女は我々魔族に新しい力を授ける存在。別に権力者でもないし、二人いたとてどうということはないのだが」

 アルツールは重苦しそうに肩を落とした。

「最近我々魔族の中でも怪しい力を望む者が現れてな。死を排除し、永遠の若さと命を維持する秘術――その力の創成と契約を巫女に求めたのがドラキュラ伯爵だ」

「そんな恐ろしい力を創成することは出来ません。運命によって定められた自然の法を犯すことになり、世界と人類は滅びの道を辿るでしょう。わたしは契約を拒否しました」

 トノアは悲しげにつぶやく。

「でもエレア様は、デューキュア伯爵フランソワに魅せられておしまいになった。あの男、顔だけはいいからな。エレア様は行方不明になられ、我々は必死にお探ししているのだ。ドラキュラの元に走っていなければいいのだが」

「エレアが聖魔巫女なら、その力で契約が出来る。そういうことか」

「そうだ。手遅れになる前にエレア様を見つけ出し、ドラキュラ伯爵との接触を断たねばならない。我々は今、そのために動いている」

 アルツールは、複雑きわまりない顔で帝につぶやいた。

「こんなやっかいなときに来てしまったのを恨むなよ。俺達にだってどうしようもない。本来なら客など迎えている余裕はないんだが」

「そう思うなら、さっさと俺達をここから出せ。好きでここに留まっているのではないのだから」

「いけません。あなた方にはまだいていただかないと」

 トノアの声にアルツールを重い吐息を吐く。

「トノア様、でもここは今、非常事態です。客人の姫も襲われそうになったのですし、彼らの一族の元に帰っていただくべきではないですか」

「それは出来ません。この方たちは最後までここにいらっしゃらなければいけないのです」

 トノアの答えは変わらなかった。

「大変なのはわかります。おそらく命の危険もあるでしょう。苦しいことも悲しいことも」

 巫女姫は痛ましげな瞳でつぶやく。

「でもそれでもあなた方は、すべてを見届けなければなりません。それが未来への道を開くのですから」

 目を長い睫毛の下に伏せ、トノアは俯いた。

 黙して、彼女はそれ以上の事は語らなかった。

 小さな肩を震わせているところをみると、口に出来ないほどのものなのだろう。

 帝には彼女の謎めいた言葉の意味はよくわからなかったが、それ以上の質問は控え、心の中にその言葉をすべて刻み込んでおいた。



 茉理の意識が戻ってすぐ、トノアの使いだと一人の少女が現れた。

「マツリ姫、騎士イジュール様、緊急魔族会議が召集されました。聖魔巫女トノア様があなた方にもおいでいただきたいと申しておられます」

「緊急魔族会議?」

「問題が起こったときに開かれたという集会か。俺達が出る必要がどこにある?」

 不服そうにつぶやく帝に、リゲルと名乗った少女は毅然と言う。

「トノア様のお召しなのです。何か意味のあること――どうぞおいでください」

「わかった」

 こいつに何を言っても無駄だろう、と帝は小さくつぶやき、先に立って歩き出した。

 茉理はまだ頭がすっきりしないまま、彼の後を追う。

 広大な神殿内部のことをすべて把握しているかのように、帝の足取りは迷うことなくしっかりしていた。

 くねくねとした廊下を通り、何度か角を曲がって黒い大きな扉の前に出る。

 それは今まで建物の中で見た扉では、一番大きくて荘厳だった。

 黒曜石に細かな彫刻が施され、一番上には丸い紋章が刻んである。

 若葉を七つ複雑に組み合わせたような紋章を見て、茉理ははっとした。

(鏡の紋章と同じだ)

 ポケットから祖母譲りのお守り鏡を取り出して見ると、やはり同じ紋章が刻まれている。

「どうした」

 立ち止まり、門の上を見つめる茉理に帝が声をかけた。

「行くぞ」

「あ、うん」

 茉理は鏡をしまい、帝の後について扉をくぐる。

 そして壇上横の椅子に案内され、とりあえず座ってはいたが――。

(すごい人だわ。これ、みんな魔族なのよね)

 大きなホールは電気もないのに淡い光が天井に立ち込め、明るくなっていた。

 上を見て不思議がる茉理に、帝がぼそっと説明する。

「魔光虫だ」

「魔光虫?」

「天井に光を放つ魔の虫を召喚して配置している。この虫は、命ある者が部屋に入ると光を放つ不思議な性質があるんだ。明かりにはもってこいだな」

「虫なんだ」

 よく見ると光は時々消えたり、またついたり、ちらちらと瞬いていた。

「俺達の世界の単位でいえば、全長0、1ミリってとこだ。虫眼鏡でもないと見えるわけがない」

「それは無理ね」

 茉理は上を見るのをやめ、周囲を見回す。

 いろんな格好をした人たちがいた。

 髪の色も瞳の色も様々だが、大体西洋の昔の騎士の格好をしていたり、裾の広がったドレスや魔術師みたいなローブを身にまとっている。

 中には仮面をつけたり剣を腰に下げたり杖を持つ者がいたし、ベールやマントで身を隠している者もいた。

 皆、ひそひそと声を潜めて話している。

 時々目線を感じるので、おそらく自分達のことが話題になっているのだろう。

 茉理はもじもじしながら緊張した。

(なんか居辛いよね、早く部屋に帰りたいな)

 横に立っている帝を見ると、全然動じておらずに堂々としている。

(やっぱり場慣れしてるみたいね。会長は)

 彼の態度を見て、少しほっとした。

 なんだかんだと帝にいろいろ助けられているのは事実で、茉理はこれまでのことを思い返し、信じられない気分である。

(あっちの世界では、すごく我がままで意地悪で独断的な人だと思ってたんだけど)

 斎が以前言っていたが、彼は本当は繊細で優しい心の持ち主だとか。

(ちょっとそういう面があるのかもしれない……でもそれってきっとB君の方よね)

 帝の中にいる、もう一つの人格。

 そっちが本来の彼なのだろうか。

(でもやっぱりイメージ的にはA君の方かな)

 茉理は帝の方を見ながら、うーんと考え込んだ。

「おい、何をそんなに見ている」

 不機嫌そうに聞かれ、茉理は真っ赤になる。

「あ、あの、その、別にたいしたことじゃないの、ははっ」

 両手を振って否定し、あわてて他の魔族たちの集団に目線を移した。

 変な奴、とぼそっとつぶやかれ、恥ずかしさで体がかあっと熱くなってしまう。

(変ですよーだ、どうせわたしは)

 心の中でそう叫ぶと、茉理は大きなため息を一つついた。




 トノアとアルツールが壇上に現れる。

 魔族たちはざわめきをやめ、皆礼をした。

 茉理もあわてて立ち上がり、頭を下げる。

 壇上中央の黒い椅子にトノアが腰掛け、アルツールが横に立つと、茉理の脳裏にあの本のことが浮かんだ。

(『魔法の国の巫女姫』挿絵に、こんな絵があったっけ)

 まさに絵のごとく、魔族たちは巫女に敬意を表している。

「みなさん、よく集まってくださいました」

 トノアの声が広間に響いた。

「すでにご存知の方もおられましょうが、今、わたしたちの前に恐ろしい問題が持ち上がっています。デューキュア一族の長、フランソワと聖魔巫女エレアが接触したという情報が入りました」

 すべての魔族は驚愕し、広間はざわめきの渦と化した。

「静かに! まだトノア様の話は終わっていないぞ」

 アルツールの太い声が全員の声を抑える。

 トノアは自分に注目する魔族たちの視線を痛いほど受けながら、話を続けた。

「先ほどこのユーフォリアにエレアがデューキュア伯爵を導き、入ったようです。そして伯爵はわたしの客人であるマツリ姫を誘惑し、永遠の命を与える秘術をほどこそうとしました。幸い呪わしい秘術は未遂に終わりましたが、このことからある忌まわしき事態が推察されます」

 トノアは一旦言葉を切り、悲しそうな瞳で魔族の代表達を見回した。

「真に遺憾ながら彼が秘術を完成させたことは間違いがありません。エレアはデューキュア伯爵に新しい魔の秘術を創成し、与えてしまったのです」

 彼女の言葉に、それこそ広間全体がどよめいた。

「我々は、これからどうしたら……」

「トノア様、我々に未来をお示しください」

 皆の要請にトノアはうなずく。

「デューキュア伯爵は新たに創成した魔術を使って、全人類を不老不死の存在に変えるつもりです。もしそのようなことになれば全人類と世界は自然に定められた法を犯し、滅びの道をたどることでしょう。なんとしてもこれを阻止せねばなりません」

 トノアの言葉に、魔族たちは次々と肯定の意を表した。

「我々はトノア様と共に戦います」

「そうだそうだ、デューキュアの好きにはさせない!」

 トノアは微笑むと、手をあげて皆を制す。

「みなさんのお気持ち、嬉しく思います。これからアルツール・クリスティを総大将として、我々は一丸となってデューキュア一族の野望を止めましょう」

 歓声が広間一杯に響き渡った。

 茉理は割れんばかりの声に少々身を震わせる。

(なんか大変なことになっちゃったみたい)

 状況はよくわからないが、どうやら戦闘するようだ、というのは彼女にも理解できた。

(わたしたち、無事に元の世界に帰れるのかなあ)

 横を見ると、帝は無表情のまま熱狂する魔族たちを見ている。

 顔色一つ変えない彼に、流石だと茉理は思った。

(わたしなんて、さっきから足ががくがくだよ。なのに余裕よね、会長は)

 茉理はなんとか自分の心を落ち着けようと、何度も深呼吸する。

「終わったな」

 低い声のつぶやきに、彼女は横を見た。

 帝が鋭い目で茉理に合図する。

「出るぞ。もう俺達はここにいる必要はない」

 歩き出す彼に、茉理もあわてて椅子を立った。

 軽く壇上に礼をすると、さっさと行ってしまう帝を追って彼女も広間を出て行った。



 帝は、さっきの塔のところにやってきた。

 崩れた壁を越えて塔の内部に入る。

(またここに、どうして……)

 茉理は、おっかなびっくり彼について塔に入った。

 あいかわらず薄暗かったが、帝が呪を唱えると辺りに淡い光が立ち込める。

(魔光虫だ。会長が召還したのかな)

 光のおかげで先ほどは見えなかったものが、いろいろ見えた。

 塔の壁には星図が彫られ、右端には螺旋階段がある。

 五角形の床は黒石が敷き詰められ、太陽とその周りをまわる惑星を模した模様が刻み込まれていた。

 帝は無言で、床の中央に彫られた太陽の上に立つ。

(あ、あそこって確か)

 フランソワが最初に立っていたところだ。

 帝は両手を組み合わせ、また呪文を唱えた。

 呪文は難しすぎて茉理には聞き取れなかったが、彼の足元に魔方陣が出現する。

 そこからまぶしいばかりの光が飛び出し、帝を包んだ。

(ほえーっ、まぶしすぎる)

 茉理は顔を覆ったが、光の中に帝の姿が掻き消えるを見て、はっとする。

(やだ! もしかして、どっか行っちゃうの?)

 そうなれば自分はこの世界にただ一人、取り残されてしまう。

 彼女は中央の魔方陣に飛びついた。

 手探りで彼の腕とおぼしき物をつかまえる。

「嫌っ、どこかに行っちゃやだ」

「おいっ、離せ」

「一人にしないで。やだよーっ」

 茉理は叫び、その腕にすがる。

 彼女の叫びと同時に、体から何かのエネルギーが駆け抜けた。

 それはあふれて茉理の体から飛び出し、魔方陣の光をかき消す。

「うわっ、何をする」

 帝の狼狽の声に、茉理は顔を上げた。

 魔方陣は消え去って眩しい光も無くなり――彼女は帝の腕をしっかりつかんで震えていた。

「あのな」

「やだやだやだっ、どっかに一人で行くなんてやだ。やだからねっ」

「……」

 帝はこれ以上ないほどしぶい顔をした。

「おい、離せ」

「やだ」

「離せと言ってるだろ」

「やだやだやだ」

 駄々をこねる子どものように、茉理はしっかりと彼の腕を捕まえて離さなかった。

「怖いんだから! こんなわけわかんない世界に飛ばされて、怖くてわかんなくて、どうしたらいいか困ってるのに、会長までいなくなったらわたし、どうすればいいのよ……ぐすっ」

「泣くなよ」

「泣いてなんかいないもん。目に埃が入っただけだもん」

 強がってるのが見え見えだ。

 帝は黙って少女を見下ろす。

 ひくひく肩を動かしながら、茉理はしゃくりあげている。

 ずっと我慢していたのが止まらなくなってしまったのだ。

 彼はすっと腕を伸ばし、茉理を胸に寄り添わせた。

 そのままぎゅっと抱きしめられ、茉理ははっとする。

(これはもしかして、B君?)

 この時を逃すまいと、茉理は必死に彼にしがみついた。

 涙が止まらず声を殺して泣き続ける彼女の背を、大きな手が優しく撫でる。

「この馬鹿……俺がお前一人を残して、どこかに行くわけないだろうが」

 少々照れくさそうな声は、いつもの帝のもので茉理は驚いた。

(えっ、B君じゃなくて、A君のほうなの?)

 A君もこういうことをしてくれるのだろうか。

 茉理は腕の温かさに、ゆっくりと心が落ち着いていった。

「お前を向こうに連れ帰らないと面倒なことになるんだ。ちゃんと帰してやるから心配するな」

「……」

 茉理は涙を止め、帝の胸に顔をうずめながら胸が高鳴るのを感じていた。

(A君とB君が一緒になったみたいな感じ――これがもしかして本当の帝先輩なのかな)

 そんなことを思ってしまう。

 彼の中に存在する二つの心。

 でも大元は、たった一つの魂なのだ。

 いつか二つの心は互いを認識しあって、調和することが出来るのだろうか。

 帝の腕にすがりながら、茉理は密かにそんなことを考えていた。




 落ち着いた茉理を、帝は塔から外に連れ出した。

 二人は無言で黙々と歩き、噴水の前までやってくる。

 ガゼボの椅子に彼女を座らせると、彼は先ほどの行動について説明をした。

「時空の扉?」

「ああ、そうだ」

 帝は顔をしかめて言葉を捜す。

 何しろ目の前にいるのは魔族や魔法についての知識をまったく持たない人間で、でもわかるように説明しないと納得しないという面倒な存在だ。

 出来るだけわかりやすくと思うと、その分言葉を選ぶしかない。

「さっきも言ったが、ここは聖魔巫女の力で空間制御している世界。つまり聖魔巫女の許可なくして、いかなる者も外部への行き来は出来ない」

「あのデューキュア伯爵って人も?」

「そうだ。だが彼は現に侵入してお前と接触してきた。つまり何らかの力で制御された空間に隙間を開けて入り込んだということになる」

「無理やり穴を開けちゃったんだね」

「そうなるな」

 帝はそこで一瞬言葉を止めて、茉理を見た。

「トノアに聞いたが、あのデューキュア伯爵からの申し出を拒否した時、彼は執拗にトノアにせまり、彼女を誘惑し、さらおうとさえしたんだ。幸いトノアには、あのアルツールがいたから誘惑にも屈することはなかったし、誘拐も阻止されたそうだ」

「じゃ、エレアさんって人は?」

「トノアが落ちなかったので、エレアにデューキュアの魔の手がせまった。エレアにも実は自ら選んだ騎士がいたんだが、彼女はあのフランソワとかいう男の魅力に屈し、監視の目を盗んで時々密会していたらしい」

「で、行方不明……要するに駆け落ちしちゃったんだ」

「おそらくな。エレアの聖魔騎士は死体で見つかったそうだ。殺ったのは手口からしてデューキュアだろうとアルツールは考えている」

 帝は険しい表情になり、茉理に問うた。

「お前をあのデューキュアに会わせたのが、エレアなんだろう?」

「うん。本当にトノアさんにそっくりな人だった。双子かあ、それで納得だわ」

 妖しげな光を宿した黒曜石の瞳を思い出し、茉理はぞくっとする。

「どこの世界にも馬鹿な女はいるってことだな」

「ちょっと、それ、どういう意味よ」

 茉理はぷっと膨れた。

「どうせ元の世界での馬鹿は、わたしっていうことでしょ。失礼しちゃうわね」

 ふん、とそっぽを向いた茉理に、帝はため息をつく。

「勝手にそうやって思い込むところが、馬鹿の証拠だ」

「何よ何よ、どうせ、わたしは何も知らない馬鹿ですよーだ」

 すねた茉理の背後で、帝は少し可笑しくなった。

(本当にこいつって、何考えてるのかわからん奴だ)

 こんなことですねるとは、帝の思考範疇では予想もつかない。

 それがとても新鮮で可笑しい。

 彼は自分でも気付かなかったが、少し笑みを浮かべて茉理を見つめていた。

「話を続けるぞ。デューキュアをこのユーフォリアに導いたのがエレアだとしたら、あの塔のどこかに時空の扉を開いたんじゃないかと思ったんだ。トノアに感知されずに結界を貼るとしても、広範囲に渡っては無理だろう。エレアが時空の扉を開けられた場所なら、もしかして俺も時空の扉を開けるのではないかと思ってな」

「それってトノアさんに気付かれずに、この世界から出れるってこと?」

「そういうことだ」

(それでさっき確かめてたんだ)

 茉理は怖くなってしがみついてしまった自分を思い出し、顔から火の出る思いがした。

(会長、どう思ったかな)

 泣き虫で弱虫、どうしようもないお荷物だとでも思ったに違いない。

 これ以上馬鹿にされる要素は、極力増やしたくなかったのに――。

「でも甘かった。すでにあそこは封鎖されていた。お前からエレアのことを聞いたトノアが更に警戒し、この空間すべてを閉じてしまったんだろう。時空の扉を開いた跡はあったが、もう厳重に閉じられていた」

「結局、この世界からは出れないってこと?」

「そういうことになるな」

 帝はつぶやくと、悔しそうに噴水を睨む。

 力があるのにそれを使うことも出来ず、もどかしい限りだ。

 茉理は、そんな彼のいらついた背中を、ただ黙って心配そうに見つめていた。



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