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魔法使いの生徒会(私立クリスティ学園シリーズ1)  作者: 月森琴美


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「ふう、やっと終わったあ」

 英司は外に出て、うーんっと伸びをした。

「予定より遅くなってしまったな」

「直樹先輩、遅すぎですよ、もう8時じゃないですか」

「ま、イベントの打ち合わせだからしょうがないよ。やっぱり多少命の危険があるもの。念入りに話しとかないとねえ、英司君」

 さらりと英司に声をかけた雅人だが、思いっきりそっぽを向かれ、しゅんとしてしまう。

 黒々した校舎を見上げると、英司は妖怪でもいそうですね、とつぶやいた。

「またまた~、そんな可愛いこと言ってくれちゃって、英司君」

「……直樹先輩、今度夏休みの生徒会好例夕涼み大会はきもだめしにしませんか。夜の校内借りて」

「そうだな。検討してみる余地はある。ところで雅人、いい加減涙ぐましい努力はやめろ。いくら振っても英司が今すぐに反応すると思うのか」

 最後の言葉は、何気に横にいた雅人につぶやく。

「だあってつまらないんだもん。英司君と遊べなくてさ」

 小さな声で答えたつもりが、しっかり聞かれていたらしい。

 英司の一睨みに合い、雅人は首をすくめた。

「くだらんこと言ってないで、早く帰るぞ」

 前方を歩いていた帝が振り向き、怒鳴る。

 いらいらしているのが傍目から見たらまるわかりだ。

 3人は、こっそりめくばせする。

『やっぱ苛立ってますよ、帝』

『そうだな。この時間まで斎から何の連絡もなかったしな』

『ていうか普通連絡する?そんなの。だってデートじゃない』

 いちいち交際相手のことまで報告してたら斎だってプライバシーの侵害でしょうが、とつぶやいた雅人の後頭部を、直樹は持っていた鞄でばしっとなぐった。

「お前には、やはりもっときついおしおきを考えた方が良さそうだな」

「うわっ、また変なのはやめてくれっ! かえるスプレーでもう十分だよ」

 雅人があわてて直樹から飛びのく。

「英司君、助けてくれーっ」

 とまたおおげさに後輩の背に隠れようとしたが、さらりとかわされてしまい、雅人はしゅんとした。

 胸元から取り出した薔薇の花も見事にしおれている。

 それを手に雅人は地面に膝をつき、お得意の悲劇のポーズを取った。

「ああ、どうしたらいいんだ。どうすれば可愛い英司君の心を、また僕の方に振り向かせられるというんだ。僕は、僕はもう絶望で動くことも出来ないよ」

「じゃ、動かないでじっとしててくださいよ。まったくもう」

 あまりにも声をかけてくれーと朝から努力し続ける雅人の行動に、ついに英司はあきれて口を利いてしまう。

 次の瞬間。

 がばっと雅人は満面の笑みを浮かべて、英司に飛びついた。

「うわっ、ちょっと、離してください」

「嫌だね、もう何があっても君を絶対に離さないよ」

「だーかーらー、そういうのが嫌なんですってば。大体、その言動と態度で誤解されるんでしょ」

 ふくれる英司に、はいはいと笑って雅人は彼を離す。

「もう、ほんとーに反省したんでしょうね」

「したってば。でも時々ならいいだろう? 英司君とスキンシップしても」

「嫌です」

「えーっ、どうして」

「どうしてもしたいってんなら、年功序列で直樹先輩からどうぞ」

「こいつ? ああ、駄目駄目。直樹は全然反応なし。昔っから僕とちっとも遊んでくれないんだ」

 つまらなそうに言う雅人に、直樹の黒メガネが光った。

「そうかな。いつも俺が遊んでやってたろう。お前のその体で」

「……」

 雅人の額から、たらたらと脂汗のようなものが流れだす。

(うわーっ、蛇ににらまれた蛙だなあ。きっと過去にも散々直樹先輩の発明品で、ひどい目にあってたんだ)

 これだけは雅人に同情する気持ちになり、英司はため息をついた。

 空を見上げると、星がちらちらと瞬いている。

(明日も天気だなあ)

 などとのんきに考えていたとき。

『――えい、じせん、ぱ、い』

「!」

 突然、頭に響いてきた声に英司の足が止まった。

「ん? どしたの? 英司君」

 真っ先に雅人が彼の様子がおかしいのに気付く。

『――英司先輩! どこですか』

「斎!」

 英司の叫びにすばやく雅人と直樹、それに帝が側に寄ってきた。

「お前こそ今、どこだ? どうした、何かあったのか?」

『先輩は、今、どこに……』

「まだ学校だよ。校門前の道のとこ」

 斎の声が変なのに気付き、英司は顔を曇らせる。

 シュッと空間が歪み、英司の前に何かが出現した。

「斎!」

 英司は現れた体を受け止める。

 座って自分に顔をもたせかけると、ぐったりした生気のない瞳が弱弱しく開いた。

『英司先輩……よかった、会えて』

「おいっ、しっかりしろ! 何があった」

『力を、使い、すぎました……もう、体を少ししか維持できない……』

 斎は薄く笑みを浮かべ、心配そうに自分を囲む先輩たちを見た。

 その目が、険しい顔をして自分を見下ろす帝に止まる。

『……帝先輩、すみません、僕……』

「斎、何があったのか、説明してみろ!」

 英司が彼の体をゆさぶる。

『英司先輩、僕、我慢出来なくて、つい……ごめんなさい』

 閉じた瞼から、きらりと雫が光る。

『このまま消えちゃったら、先輩たちに迷惑がかかります。どうしても事情を説明したくて……でも……』

「斎、俺の声が聞こえるな」

 直樹が静かに斎の耳にささやく。

 こくんとうなずく斎に、直樹は言った。

「お前に何があったのか説明しに来たんだろ? でももう言葉を英司に送る力も残ってないようだな」

『そう、です……もう……』

「言葉を送るな。魔力を少しだけ集中し、体の維持に専念しろ。あと3分ぐらいは我慢できるな」

『はい』

「俺がお前の記憶を探る。そうすれば何があったのか、お前のことがすべてわかる。それでいいな」

 斎はうなずいた。

『お願いします……』

 目を閉じ、斎が魔力を体の維持に集中させているのを見て、直樹は静かに両手のひらを斎の額に持っていく。

 こないだ明人にしたように彼は呪文を唱え、斎の意識の中に入った。

「くっ」

 直樹の口元が歪む。

 どうやらあまり良いものを見なかったらしい。

 しばらくして彼はまた手のひらを戻し、斎に笑いかけた。

「もういいぞ。斎、よくがんばった」

 大きな手で斎の頭を撫でる。

「あとのことは心配するな。俺たちでちゃんとしといてやる。お前はよくやったよ。お前の中のクリスティの誇りを守ったんだからな」

『僕は……僕は……』

「ゆっくり休め。また目覚めたら連絡してくれよ」

『は……い……』

 斎は嬉しそうに微笑むと、すっと体の力を抜いた。

 足元から順に彼の体が消えていく。

「斎」

 英司はどんどん実体のなくなる彼に、最後まで名前を呼んでやった。

「斎、早く戻ってこいよ。待ってるからな」

 その声を聞くことができたかどうか――斎はさらさらと空間に溶け込み、消えてしまった。




 夜風が、すっと4人の間を通り過ぎた。

「大丈夫だってわかってるけど、あんな風に行かれると心配ですね」

 英司は先ほどまで斎を支えていた手を握りしめ、つぶやく。

「どうやら残業決定だね。どうする? 帝」

 雅人の声に帝は言った。

「生徒会室は閉めたし、この時間だ。全員、俺の家に来い」

「今夜は長くなりそうだ。帝、俺たちは今夜、本家に泊めてもらうぞ」

「わかった」

 帝は3人をうながす。

「行くぞ」

 先頭に立って歩き出す帝に続き、3人は早足で本家に向かっていった。

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