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魔法使いの生徒会(私立クリスティ学園シリーズ1)  作者: 月森琴美


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 うわさは広まりはしたが、すぐに誤解ということで収まった。

 生徒会長の校内放送は強力だったし、雅人もあれから自粛しているのか、女の子と一緒にいるところをみかけることはなかった。

(この行動は当然といえば当然であった。何しろ今の彼は、女生徒に接して悲鳴を上げさせるわけにはいかない身だったからである)

 英司は3日間、家で監禁状態にあったが、帝が理事会に出頭して責任者としてきちんと指導出来なかったと謝罪し、彼の『今後二度とこういう不肖なうわさは、流さないことを厳重に注意します』との確約の末、英司は自由の身となった。

 収まらないのは茉理だ。

(こんなことで終わっちゃうなんて)

 本当はもっとこの機会によく反省してもらいたい、そう彼女は考えていた。

 しかしあっさりうわさは消え、雅人はまた元のように元気に登校している。

 クラスメイトはただのデマだと憤慨し、雅人と英司に対して同情の声もあがる始末。

(みんな、あんないい加減男のどこがいいのかしら)

 つくづく理解が出来ない茉理であった。



「さすがに少しは慎んでるみたいだな、雅人」

 昼休みの生徒会室で、直樹は束になったプリントを整理していた。

「まあね、でも一件落着というわけには――ああっ、どうしたらいいんだ。僕の可愛い英司君ときたら、この僕とは口も利いてくれないんだよ」

「そのぐらいはしょうがないだろ。うわさが収まったことでとりあえず満足してろ」

「あいかわらず冷たいなあ、直樹君。少しは」

「同情と慰めの言葉を俺に期待する方が馬鹿だって、お前が一番よく知ってると思ったが」

 冷たく黒眼鏡が光る。

 雅人ははあああっと大仰にため息をつくと、また円卓に陥没した。

「あー、この机って冷たくて気持ちがいいなあ。ちょうど今の僕にはこの冷たさが心地よく感じるよ」

「後野茉理はどうした。ちゃんと釈明しといたんだろうな」

「うーん」

 雅人は唸り、卓から顔をあげようとしない。

(ま、むずかしいだろうな。普通の少女にこいつを理解しろってのは不可能だろう)

 直樹は聞く必要もない話題を振ってしまったと首を振り、プリントの仕分けに集中した。



(さて、もうすぐ5時間目だわ)

 茉理は軽く伸びをし、首を前後にふった。

 中学生なんだけど、肩が重く感じる今日この頃である。

『後野さん?』

 頭に響いてきた声に、茉理は瞬時に反応した。

『あ……遠野君?』

『あのさ、もしかして今日、放課後開いてる?』

『え?』

 茉理は思わず聞き返した。

『忙しいならいいんだけど、もし良かったらどこか遊びにでもいかないかと思って』

「え……ええええーっ」

 大声をあげて茉理は立ち上がってしまい、教室にいたクラスメイトたちの注目をあびてしまう。

『あの、別にいいけど、突然どうしたの?』

『いや、その……ちょっと後野さんと話したいかなって』

 声はとても一生懸命だ。

 茉理はまたきちんと椅子に座り、うーんと考え込む。

 きっとこないだの一件だろう。

 彼女が気にしていることなど、聡い彼にはお見通しなのだ。

『いいよ。じゃ授業終わったら、駅で待ってる。学校内だと目立つでしょ』

 ただでさえ自分は奇妙な目で見られているというのに、これ以上余計な目線を増やしたくなかったのだ。

『ううん、家に帰って着替えてからの方がいいな』

『そ……そう?』

 茉理は戸惑いながら、わかった、じゃああとで、と返事を返し、5時間目に使う教科書の準備をした。



 放課後になった。

「斎はどうした?」

 生徒会室に集まった面々を見て、帝が声をかける。

「ああ、彼ならデート中だよ」

「でーとだと」

 声色を変えた帝に気付き、雅人は面白そうに付け加えた。

「そうそう、後野茉理姫と。いやー、斎もけっこうやるね」

 帝は席を立つと雅人につかつかと歩み寄り、胸倉をつかみあげた。

「俺にケンカを売ってるのか? ええ?」

「わっ、ちょっとタンマ! 暴力反対!」

 あわてて雅人は、帝の手を自分から離す。

「落ち着け、帝」

 直樹が横から沈静した。

「別にお前の彼女候補を斎はどうこうしたりしないさ。雅人と英司の件をきちんと釈明しに行っただけのこと。ま、そいつを殴りたければ俺は止めないけどね」

 ほとんど諸悪の根源はこいつだし、と冷たく付け加えられ、雅人は肩をすくめる。

「ひどいなあ、直樹君。親友の僕を見捨てる気かい?」

「俺の親友になりたいなら、もう少し言葉を慎め。今のはお前が悪い。わざと帝を挑発したろ。帝、お前もこんな奴の挑発に乗るな。もう少し冷静になれ」

 唯一このメンバーの中で冷静そうな彼の発言に二人は納まり、とりあえずまた席に着いた。

 帝は腕を組み、勤めてクールさを装っているものの内心いらついてるのが、こめかみの動きでわかる。

(やれやれ。また後野茉理か)

 直樹はこそっと胸のうちでつぶやいた。

(やはり雅人じゃないけど、帝はそうとう彼女を意識してるようだな。もし円城寺や早川が男と会っていると報告されたとしても、これほどまでには熱くならんだろう)

 そしてもし帝の運命の相手が彼女なら。

(おそらく動き出すな)

 直樹はPCを叩きながら、一人静かに闘志を燃やしていた。




 茉理は連れて来られた場所を見て、目を丸くした。

 学校が終わって着替えてから、三時過ぎにこんな遠くまで――XXランドまで行くことになるとは思わなかった。

(そうよね。遠野君だって、普段は電車で通学してるみたいだけど、クリスティ一族だったわ)

 彼の親しみやすい外見に、すっかり忘れていたのだが――。

 着替えて家のすぐ近くの交差点で待っていると、それなりに目立つ高級車が颯爽と現れた。

(ちょっと待って。わたし、こんな格好で……)

 茉理は一瞬身をひいてしまう。

 少し暑くなってきたので彼女はTシャツにジーンズ、薄めの白いジャケットを羽織ったいわゆるシンプル庶民ファッション。

 足はシューズで、別におしゃれでもなんでもないスーバーのセールで買った普通のだ。

(わ、ワンピでも着てくればよかったのかしら)

 どうせその辺の公園でジュース片手にベンチでおしゃべりだと思い、こういう格好をしてきたのだが。

『どうぞ、後野さん』

 すっと斎が車から降りてきて、後頭部座席のドアを開けてくれる。

(うっ、なんかすごく気まずいんですけど)

 茉理は顔を赤らめながら座席に座った。

 かけ心地満点のシートには、滑らかなシルクのカバーがかかっている。

 斎は白と青のストライプのシャツと黒のスラックスで、足元は黒革っぽい靴で決めていた。

 さりげなく首にプラチナのチェーンが見えており、それがきらきら光ってなんともおしゃれだ。

(えーん、中一に見えないよ、この人も)

 相変わらず白くて生気のない顔をしていたが、今日はそれすらも引き立ってみえる。

 茉理はあまりにもそぐわない自分の容姿と比べて、この場から逃げ出したくなった。

(きっとこういうかっこいい男の子には、可愛いお嬢様タイプが横にいるといいのよね)

 はああっと思いっきりため息をついた茉理を、斎はけげんそうに見た。

『どうしたの?』

『えーと……あはは、ちょっと慣れない車だから緊張しちゃって』

 車に原因をなすりつけ、茉理は笑う。

「お嬢様、どちらに」

 実直そうな運転手に聞かれ、茉理は一瞬、へっと思った。

(お、お嬢様ってわたしのことなの?)

 何も答えられないでいる茉理に、斎はくすっと笑った。

『僕の我がままで誘っちゃったからね。後野さんの行きたい所に連れていってあげるよ』

『え? そ、そんなあ』

『遠慮しなくてもいいって――あ、でも日帰り出来る所にしてね』

 さらりと言われ、茉理はますます困惑する。

(スケールが違いすぎるよーっ)

 頭を抱えて悩んでいる茉理に、斎は考え込んだ。

『じゃ、もし良かったらどんなところがいいか教えてくれない? こっちで考えてみるから』

『どんな所って言われても――楽しくて面白くて、えーと景色なんかも綺麗で……あ、でも話をするのなら静かな所もあったほうがいいかなあ』

『うん、わかった』

 斎はそれだけ聞いて二つ返事で答え、運転手にメモを書いて渡す。

(わかったって、結局どこになったんだろ)

 走り出した車の中で、茉理は胸がどきどきしていた。




『遠野さん、チケット買ったよ』

「え……あ、うん」

 XXランドの大きな門を見上げ、呆然としていた茉理は声をかけられ、振り向いた。

 渡されたチケットを見て、それが『一日フリーパス』だとわかり、更にぐえっとかえるのような悲鳴をあげる。

(けっこうするよ、このチケット)

 自分たちの住んでる市の隣にある海に面したアトラクションとテーマパークの集合体。

 まだ出来て10年にもならないが、最先端の乗り物の数は豊富で植物園や小動物園、海に面したホテルに水上レジャー施設など――とにかく豪華で人気のある場所なのだ。

 自分の一月分のおこずかいをはたいても買えないチケットを握り締め、めまいがしそうになる頭を抱えて茉理は斎と門をくぐった。

『ごめん。もしかしてここ、嫌いだった?』

「え、そんなことないよ。ただびっくりして」

 心配そうな斎の声に、茉理は首をぶんぶん横にふった。

 来たいとあこがれていたことは事実だ。

 まさか同年代の男の子と二人で来ることになるとは思わなかったが。

『僕、遊園地って初めてなんだ。楽しくて面白いって、さっき君が言ったとき真っ先に思いついたんだよ』

 斎は嬉しそうに笑う。

『あと静かで話せる場所がついてるとしたら――ほら、ここ、あっちのハーブ園とかなら中でお茶も飲めるし、静かに話せるって雑誌に載ってたんだ。全部条件を満たしてるだろ?』

『う……うん、そうだね』

 茉理は思いがけない彼の笑顔に、一瞬どきっとした。

(こういう顔してると、ほんとうにクラスメイトたちと変わらない中一男子に見えるんだけどなあ)

 普段の沈んだどこか遠くを見ている表情では、なんか少しだけ存在が違うように感じてしまう。

『さ、行こう。遠野さん、どれに乗る?』

 すごく嬉しそうに斎は茉理の手を引いて、アトラクションに向かっていった。




「あー、疲れた」

『けっこう人いるね。平日なのに』

 二人はホラーハウスの前にあるベンチに腰掛け、ぐったりしていた。

 あれから一体どれだけアトラクションを回ったのか覚えていない。

 初めて来た、と嬉しそうに喜ぶ斎はどんどん茉理の手を引っ張ると、手当たり次第に見つけたアトラクションに入っていった。

(ジョットコースター系に10回も乗っちゃったよーっ、ふうっ、しんどい)

 嫌いではないのだが、さすがに連続で乗ると頭がぐらぐらする。

 茉理が目を回しているのに気付き、斎はベンチに座って休憩することにした。

『あと、乗ってないのは――』

「ていうか今日一日で乗り切れないよ、遠野君」

 茉理はあえぎながらつぶやく。

 何しろ日本最大級のアトラクションの数を誇っているのだ、このXXランドは。

 朝一で来ても全部乗るなんてことは出来ないのに。午後から入ってどう効率良くまわったとしても半分乗れればいいほうだ。

 茉理は腕時計を見る。

 大分日が長くなってきていたから気付かなかったが、もう5時半だ。

(そろそろ帰らないといけないかな)

 近所ならともかく、ここからだったら電車で乗り継いで軽く2時間はかかる。

 茉理が時計を見たのに気付き、斎が聞いた。

『そろそろお腹すいたんじゃない?』

「あ……そうだね、じゃ、そろそろ」

 茉理は立ち上がった。

 もう今日はこのくらいで帰宅した方がいいだろう。

 話はまたの機会になるが、別に校内だってかまわないし。

『じゃ、夕ご飯食べに行こうか』

「は?」

『そこのハーブ園の中にね、美味しいレストランがあるんだって。予約入れといたんだ』

「ええーっ!」

 茉理はぶっとんで叫んだ。

『どうしたの、遠野さん。あ、ひょっとして洋食、嫌いだった?』

 じゃ予約は取り消して、ゲートの方にあるレストラン街に行こうかなどと、頭の中でぶつぶつ言ってる斎を、茉理はくらくらする思いで眺める。

(チケットだけでもかなりお金使ってるのに、その上夕食までなんて)

 しかも斎が言ってるレストランは、雑誌によく紹介されてる一流シェフの高級料理店。それもハーブを使った健康に良いおしゃれな料理と窓辺から見える海の景色が最高で、カップルの間で大人気なのだ。

(そんなとこを予約した、ですって!? ……世界が違いすぎるわ)

 本当に目の前の彼は、同じ年齢で同じ学校なのだろうか。

 ついていけない茉理だったが、ふっと顔をあげると斎の心配そうな目とぶつかった。

 少し不安の入り混じった瞳に、茉理の中で力が抜ける。

「そこでいいよ。でも、あのその前に、家に電話させて」

 ぱっと嬉しそうな顔をする斎にはああっとため息をつき、茉理はポケットから携帯電話を取り出した。



「いらっしゃいませ」

 夕方のこととて、少しライトアップされたおしゃれなレストランは空気がひんやりして気持ちよかった。

 ハーブの香りだろう。店内を自然の落ち着いた香りが包み、一流ホテルのロビーを思わせるようなシャンデリアに高級ソファが並んだ待合室がある。

 二人がソファに通され、座って待っていると、ビシッと決めた制服に身を包んだボーイがやってきて、礼をした。

「お待たせしました。ご予約の遠野様でございますね」

「あ……はい」

 茉理はあわてて返事をする。

 斎が声を出せないから自分が代わりに言うしかないのだが、それにしても緊張することこのうえない。

「こちらへ」

 案内された席は他の席より一段高く、舞台のピアノ演奏がよく見えるようになっている場所だった。

(うっわーっ)

 茉理はどきどきしながら腰掛ける。

 横は一面ガラスになっていて、遠くに海が見えていた。

 ボーイは、メニューを聞くこともなく去っていく。

 茉理は外の景色が綺麗なのに驚き、ガラスのテーブルに置かれた可愛い花の生け鉢に喜び、あちこちに飾られたハーブに目を丸くした。

(すごく可愛くて、おしゃれだわ)

 ふとまわりの席を見ると、顔から火が出そうになった。

 やはり大人のカップルが多い。

 遊園地だからか女の子はカジュアルな服装が多いが、さりげなく髪や小物などにおしゃれを取り入れて大人の女の可愛さを演出している。

 きちんとお化粧もしていて、アクセやバッグもブランド物っぽい。

(遠野君はあんまり違和感ないんだけど、わたしはちょっとなあ)

 着古したバーゲンセールのTシャツにジーンズ、足元は運動靴という有様。

 鞄だって小さなショルダーポーチ。(これは以前、誕生日に友達がくれた物で、どこのファンシーショップにも置いてありそうな品だった)

 当然スッピンだし、アクセサリーなんてせいぜい髪を二つに分けて結んでる髪ゴムにプラステックで出来たお花がついてるぐらい。

(ううっ、帰りたいよーっ)

 こんなんで食事なんて出来るかなあ、と顔を青ざめさせている彼女に、斎はけげんそうな顔をした。

『どうしたの、後野さん?』

「いや、その……わたし、こういうとこって初めてで、緊張するというかなんというか……ははは」

 最後は笑ってごまかすと、斎は微笑む。

『うん、僕も初めてなんだ。でもいいよね、こういうところも』

「え、遠野君も初めてなの?」

 茉理は驚く。なんか来慣れているような感じがしていたのだが。

『だって僕はあんまり外に出たりしなかったんだ。今回が初めてなんだよ。こうして同じ歳の人と一緒にどこかに遊びに行ったり、食事をしたりするのなんて』

「あ……そうか」

 茉理は納得した。

「ごめんね、なんか嫌なこと言わせちゃったかな」

 小声で聞くと、斎は気にしないで、と頭の中に返してくる。

『これからいろんな所に行ってみたいと思うんだけど、また後野さん、つきあってくれる?』

「え?」

 茉理はどきっとして顔をあげた。

 斎の真剣な瞳はにくらしいくらい彼女をしっかり見つめていて、正直胸の鼓動が止まらなくなってしまう。

(や、やだなあ、そういう目で見られちゃうと、なんか困っちゃうんだけどな)

 茉理はもじもじした。

「わ、わたしで良かったら、別にいいけど」

『本当?』

 ぱっと顔を輝かせた斎に、また茉理の胸が激しく高鳴る。

(ば……バカッ! わたしのばかっ、こんなとこで時めいてどうすんのよっ)

 彼は別に深い意味があって誘ってるわけではないのであって。

 そういうことを連想してしまう自分の方が、大ばかなのは確かなわけで。

 茉理はおたおたしながら、必死に自分の気持ちを落ち着けようとした。




 予約の時にメニューも頼んでおいたのだろう。

 すぐにも料理が運ばれてきた。

 オードブルからスープ、メインにデザートまで一通り運ばれてきて、茉理は一生懸命食べた。

(でもなんか食べた気がしない)

 ピカピカ光る銀色のカトラリーを使って、とにかく見た目に粗相のないよう気を張って口に運んだが、どうにもこうにも窮屈この上ない。

 斎はいともたやすくナイフで肉料理を切り分け、口元に運ぶ。

 その綺麗なしぐさに思わず見とれてしまう自分が悲しくて――茉理は使い慣れていないナイフとフォークにあたふたしながら皿からこぼさず食べるのに必死だった。

 なんとか食事を終えると斎はレストランを出て、ハーブ園を見て歩こうと提案する。

 茉理はほっとしながら彼についていった。

 良い香りのするハーブを楽しみながら夕暮れに染まった庭園を歩いていると、本当に気持ちが落ち着いてくる。

 小さな広場のような所に出ると、白いおしゃれなベンチがいくつか並んでいた。

(ここって雑誌に載ってた告白に最高の場所だとかってとこよね)

 茉理がそんな事を思い出していると、斎は少し座ろう、と手近なベンチに歩いていく。

『ちょっと待ってて』

 彼はそう言うと、向こうにあるしゃれたスタンドに駆けていった。

 茉理はまわりに咲く綺麗な花や、ハーブを見ながら一息つく。

(なんかすごい一日だったなあ。まだ終わってないけど)

 土日や祭日はきっとここもカップルに占領されるだろうけど、今は人が少なかった。

(あれ?)

 茉理は向かいのベンチに座った少年を見て、目を大きく見開く。

 彼は足を組んですわり、雑誌をめくっていた。

 その横顔はまさしく――。

「お……お兄ちゃん!?」

 茉理は叫んで立ち上がった。

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