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魔法使いの生徒会(私立クリスティ学園シリーズ1)  作者: 月森琴美


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「なんだ、これは!」

 大きく『号外』と見出しをつけられた校内新聞を、ビリリッと帝は引き裂いた。

「み……帝、落ち着いてくれよ」

 本気で困った顔の雅人が、彼をなだめに入る。

 さすがの彼も今日は憂鬱そうだ。

「何が悲しくてクリスティ筆頭のお前と英司が、くだらん週刊誌のスキャンダル扱い記事を書かれねばならんのだ。お前の日ごろの行いが悪いから、こういうことになるんだぞ」

「今回は僕もほんとに反省してるよ、参ったね、こうなるなんて」

 ふうっと息消沈しつつ、雅人は円卓に突っ伏した。

 いつもの甘いセリフや悲劇に酔いしれた言葉は、まったくない。

「まあ、出たものはしょうがないだろう。帝、少しは冷静になれ」

 直樹の言葉が、沈静剤のように帝の心を静めていく。

 不機嫌そうに彼は新聞を足で踏みにじると、どかっと椅子に腰掛けた。

 斎はため息をつき、手に持つ新聞を改めて見る。

『禁断の恋! 麗しき魔族の貴公子二人が許されざる関係に!』

 見出しには、でかでかと飾り文字と真っ赤な色でそう書かれていた。

「二人は共に幼馴染。一体いつ友情が恋愛感情に変わったのかはわからないが、校内で二人が想いを交し合っているのを発見した目撃者も多数――おいおい、この写真なんて去年の体育祭で英司がリレーのアンカーで1位になって、お前が喜びで抱きついてるのじゃないか」

 横から直樹が新聞記事を読み上げ、あきれて声をあげる。

「それは素直に喜びを表現しただけだっ」

「一度色眼鏡をかけてみられたら、なんでもそうなるだろうよ。これにこりて少しは慎め」

「直樹君、君の心には同情の文字はないのかい?」

「悪いが俺は忠告したはずだぞ、この前。それを無視してこのざまだ。同情の余地がどこにある」

「きっついなあ、事実だから何も言えないけど」

 しゅんと沈み込んでしまった彼を、やれやれと直樹は見た。

「英司はどうしてる?」

 低い声で、帝が聞いた。

「あまりのショックで、家に篭ってるよ。ま、良い判断だ」

 直樹はにやりと笑った。

「今日、学校になんて出てきてみろ。どんな目で見られるかわかったもんじゃないからな。あいつは雅人と違って、そういうスキャンダラスなことの対処に弱いから、きっとどうにも出来なくておたおたしたあげく空に逃避行するのでせいいっぱいだろう」

「ああっ、なんてことだ! 僕はもう永久に彼に口を聞いてもらえそうもないよ。昨日、怒りに怒って体育館裏から戻ってきて、僕の胸倉をつかんで本気でなぐってきたんだ。いやあ、彼があんなに怒ったら怖い奴だったなんて思いもしなかったな」

「刺されなかっただけましと思え。一応事情は聞いたけど――ほとんど雅人、お前の軽率な行動が巻いた種だった。参考までに聞きたいが、お前は後野茉理に何を言ったんだ? あんなに誤解されるほど、すごいことをしたのか」

「いや……ただ単に彼女が超生真面目で融通が利かない思考の持ち主だっただけで、別に……ああああっ、そんなこと、今更気付いてどうする!」

 雅人は直樹の言葉を受け、とどめを刺された男のように円卓にどさっとうつ伏せになった。

 顔をあげもしない雅人を、斎は胸痛く見つめる。

 そこにいるのは普段の麗しく誇り高い雅人ではなくて、完全な抜け殻だ。

 横で見ているこっちがみじめに思えてくる。

 斎はしばらく逡巡したが、やがてその辺に置いてあったプリントをひっくり返して鉛筆で書いた。

[今日、僕が英司先輩の所に行ってみます]

 プリントを差し出され、雅人は読むと顔を輝かせた。

「斎~、嬉しいよ~、ああっ、こんな身近に僕の味方がいるなんて。天はまだ僕を見放していないというわけだね」

 斎は微笑むと更に書き足す。

[後野さんにも僕が説明してみます。先輩と英司先輩のことは誤解だって]

「本当かい? サンキュー、斎君」

 ハートマークを散らす勢いで雅人は斎に飛びかかり、抱きついた。

 直樹が顔をしかめる。

「おいおい、自粛しろと言ったはずだぞ、雅人。言ってるそばからこれだ」

「なんだよ、喜びをスキンシップで表現して何が悪い」

 かしっと斎を抱きしめながら雅人は反論した。

「そして今度は新聞に【愛のもつれのさんかく関係! 雅人様の本命は誰?】とか書かれるわけか。まったく付き合いきれないな」

 直樹の言葉に、雅人は名残惜しげに斎を離す。

「雅人、お前はしばらく教室と生徒会室以外は立ち入り禁止だ。その辺をうろうろして揉め事を増やすな」

「えーっ、トイレはどうすんのさ、帝」

 口を尖らせて叫ぶ雅人を、帝はぎろりと睨んだ。

「今まで以上に休み時間の他人との行動は慎め。必ず別な生徒の姿で行くこと」

「わかったよ」

 雅人はにっこりうなずいた。

「まだ昼休みは終わってないから、これから俺が昼の特別放送を流して誤解だと釈明しておく。もう二度とこんな馬鹿なうわさを流されるようなことはするな」

 そう言うと、帝は席を立った。

 斎の前で立ち止まると、ふっと表情を緩める。

「あいつを――英司を頼むぞ」

 斎は静かに微笑んでうなずいた。



 すべての生徒会業務を終え、斎は学校を出た。

 その足で山下家を訪ねる。

 英司の家は新興住宅地に建つ、こじんまりとした民家。

 5人の中では一番規模が小さく、まさしく庶民的な一軒家だった。

 インターフォンを押そうとして、斎は一瞬ためらった。

 誰かの声がかかっても自分は返事が出来ない。

 カメラのたぐいも見あたらず、玄関に立つ斎を中からチェックしてくれそうなものもない。

 困ってぼーっとしていると、背後から声がかかった。

「あら、うちに何か御用?」

 振り向くと、小柄な女性がにこにこしている。

「その制服――あなた、クリスティの生徒ね」

 目を細めて微笑むと女性は、いらっしゃい、と彼を中に入れてくれた。

『お邪魔します』

 心の中でそう言うと、斎はリビングにあがる。

 中は洋風で、客間はなく居間件ダイニングに通された。

「英司のお友達? ああ、でもあなた一年生ね」

 胸につけられた記章の色を見て、女性はつぶやいた。

「はい、どうぞ」

 良い香りの紅茶が運ばれ、斎は軽く頭を下げてカップを受け取った。

 先ほどから一言も話さない斎に不信がる様子もみせず、彼女は向かいに座り、一緒にお茶を飲む。

「それで、英司の様子を見に来たの?」

 斎は静かにうなずいた。

「あの子、昨日、帰ってきてから、ずっと部屋に篭ってるわ。お父さんまで帰ってきて、あの子の部屋で何か怒鳴ってた。わたしはくわしいことは知らないけど、あの子、学校でとんでもないことをしたみたいね。あのお父さんから謹慎を言い渡されてしまったから」

 斎は驚いた。

『英司先輩が、謹慎?』

 確か英司の父親は、本業は医者だがクリスティ学園の理事の一人だ。

『理事会にまでうわさがたっちゃったのか』

 斎は思いっきりため息をついた。

 世間的には今時同性愛など珍しくもないかもしれない。

 だが魔族の間では、実はある理由から絶対にご法度であった。

 暗い顔をして考え込んだ彼を見て、女性はああ、と笑んで言った。

「そういえば自己紹介がまだだったわね。わたしは山下香(やましたかおり)。英司の姉よ。よろしく」

 斎は小さくお辞儀をして、鞄からノートと鉛筆を取り出す。

[僕は遠野斎です。初めまして]

 香はノートを見て、声をあげる。

「あら、あなたって遠野家の方だったの? まあ、ごめんなさい。普通の後輩とばかり思ってたわ」

 驚く彼女に斎はうなずき、また書いた。

[おかまいなく。本当に後輩ですから]

「でもクリスティ家の一族の方でしょ。わたしったらお話だけ聞くばかりで、あまり魔族のことは知らないから……ごめんなさいね」

 柔らかな声が、すまなそうに謝る。

「わたしは養女なの。山下先生の患者だったんだけど――両親と一緒に交通事故にあってね。病院の救急に運び込まれて、山下先生が見てくださったの。両親は残念ながら逝ってしまったけど、身寄りのないわたしを先生が養女にしてくれたのよ。だからわたしは普通の人間。魔族のことはよくわからないのよね」

『そういえば、昔、父さんたちが騒いでたっけ』

 幼い頃のおぼろげな記憶を斎は思い出した。

 確か5つか6つの頃だ。

 他の魔族の家ならともかく、伝統と血筋を重んじるクリスティ家第3の分家である山下家に魔族でない普通の少女を養女に迎え入れるということは、一族の間では考えられないことであった。

 斎の両親もとても反対していた。

 でも英司の父親――山下隆司(やましたたかし)は、一族の反対を押し切って少女を引き取ったとか。

(この人がそうなんだ)

 斎は改めて目の前の女性を見た。

 歳は20代前半ぐらい。

 もう社会人の風格を身に着けている彼女は、やっと子どもから学生の域になりつつある彼から見たら、十分に立派な大人の女性にみえた。

 斎の目線に気付くと、香は臆することなく微笑む。

「そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫。魔族のことはあまり知らないけど、別にあなたたたち魔族を異常な生命体のように思ってるわけじゃないわよ、わたし。弟の英司からしてまったく普通の子だもの――一般の子たちとは違う力を少し持っているだけ。気味悪くもないし怖くもないわ」

 落ち着いた彼女の優しい言葉に、斎は知らずに自分が緊張していたことに気付いた。

 ふっと肩の力を抜く。

 香はそんな斎の様子を見て、やさしく笑むと立ち上がった。

「英司の所へ行ってあげて。こっちよ」




 2階にあがると階段すぐのドアに、『英司』と書かれた木製のプレートが下がったドアがあった。

 斎はそのドアは見て、顔をしかめる。

「さすがにわかるわね、斎君。そう、このドア、お父様が『封錠』の呪をかけてしまったの。おかげでわたしもこの中には入れない。英司がどうしてるのかわからないのよ」

 斎はうなずくと、ドアに触れる。

 薄い木製のドアだが、呪のせいで簡単には開きそうもない。

「あなたならこれぐらい何とか出来るんじゃない? お父さんもクリスティ分家の人が呪を解くことを、きっと怒ったりしないと思うわ」

 そう言うと香は、じゃ、と階下に下りていった。

 斎は深く深呼吸し、ドアに手をかける。

(呪は解けそうだけど――でもそのあとは)

 あとのことを思うと一瞬ためらい、直樹か帝を呼ぼうと考えた。

 でも。

(でも一度英司先輩と会って話したい)

 斎はそう心に思うと、迷いを消した。

 手はなくはないのだ。相手が英司なら。

 彼は静かに集中し、魔力を高める。

 右手のひらをドアにぴったり押し付けると、そこに自分の体内にある全魔力を注ぎ込んだ。

『風の風圧により戒められた扉よ。大地の息吹に息づく力に屈せよ!』

 次の瞬間。

 目も眩む閃光が右手のひらからほとばしり、ドアを包み込んだ。

 ガチャッとドアの鍵が動く音。

 そして。

 キイイッと鈍い音を立て、ドアは静かに開いた。




(何だ?)

 英司は、突然ドアの向こう側に高まった魔力の気配に身をこわばらせた。

(おやじのか? いや……違う)

 彼も体に魔力を張り詰めさせ、最悪の事態に備えて窓辺に退避する。

 すると一瞬、魔力の高まりを感じ、それがドアの隙間から閃光となって漏れてきた。

(破呪の呪文か)

 ドアは静かに開いた。

 英司は開いたドアを凝視する。

 しかしそこには誰もいない。

(え?)

 英司は目を瞬かせる。

 ドアが今度はすっと閉まった。

 誰もいないはずなのに、まるで誰かが閉めたかのように――。

(いや……違う。誰かいる!)

 姿は見えないが、確かに何かの気配を感じる。

 英司は険しい表情で、気配が感じられる方を睨んだ。

 それはすっと近寄ってくると、彼の目の前で留まる。

『英司先輩』

 小さな思念が送られてきて、英司はふっと緊張を解いた。

「なんだ、斎かあ」

 脅かすなよ、と笑むと、思念はすまなそうに言った。

『すみません。ドアに呪がかけられてて、それをはずすのにほとんど体中の魔力を使ってしまったんです』

「まったく無茶するなあ。ま、おやじの呪を破るんだったら俺でもけっこうきついけどな」

 英司は笑顔を見せると、窓辺から離れてベッドの上に腰掛けた。

 英司の部屋は思ったより広い。

 帝の私邸や雅人のマンションよりは小さいが、それでも学生個人の部屋としてはまあ広いほうだろう。

(ていうか、余計な家具が一切ないってのが正解かな)

 勉強机、椅子、ベッド。

 この3点がすべてだ。

 本棚とかタンスの類はどこにもなく、机に面した壁の部分が押入れになっている。

 壁は淡いクリーム色で、窓には薄青いカーテン。

 ポスター一つ、カレンダー一枚、壁にはかかっていない。

 良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景。

(でも英司先輩らしいや)

 部屋の観察をやめ、斎は英司の横に腰を下ろす。

 もっとも英司には見えなかったが。

「おい、お前、今、どこにいる?」

『英司先輩の横に座らせてもらってますよ』

「そっか。じゃ、こっち向いた方がいいな」

 英司は少し体を動かし、斎と向かい合わせになるようにした。

『あの、もし良かったら、そこの椅子にかかってるジャケット貸してもらえませんか。僕のは同化して消えちゃうんですよ』

「お、そうだな。気がつかなかったぜ」

 英司は椅子からジャケットを取ると、横に差し出す。

 ジャケットが動いて、宙に浮いた。

 体に纏われた形になったジャケットを見て、英司は、あー、これならわかる、と嬉しそうにうなずいた。

『大丈夫ですか。先輩』

「ん? 俺?」

 肩をすくめて英司はためいきをついた。

「どうもこうもこのざまだよ。おやじには思いっきり怒鳴られるし、部屋にこめられるし――外はこんなに良い天気だってのに、俺、もう体がうずうずしちゃってさ、参ったね、ほんと」

 わざと明るく振舞う英司に、斎は悲しげな目を向ける。

『無理しないでもいいんですよ』

「無理ってなんだよ……ああ、雅人先輩のこと?」

 英司はそう言うと、やれやれと肩をすくめた。

「雅人先輩、どうしてる? 俺より落ち込んでるだろ」

『はい、まあ……今日一日、円卓で陥没してました』

 いつもと違う様子だった雅人を思い浮かべ、斎は返事をした。

「そうだろうなあ。あの人、見かけによらず、実はこういうのに弱いんだよね。身内に嫌われるのとかそういうの」

 きっと見た目より更に落ち込んでるはずだぜ、と言われ、斎は目を丸くした。

『もっと怒ってるかと思ってました』

「怒ったってしょうがないじゃん。いつかはこうなるかなーなんてちょっと不安だったけどね。あの先輩、けっこう図にのっちゃって余計なリアクションが多いんだよね。みかけより中身はほんと子どもだったりして」

『くわしいんですね』

「つきあい長いじゃん、俺たち。だからさあ、その辺のとこってわかっちゃうんだよね」

『そうですか』

 斎はほっとした。

「なんだ、お前、ひょっとして俺が雅人先輩を呪い殺そうとでもしてるかと思ったのか」

 いたずらっぽく聞く英司に、斎は見えないながらもうなずく。

「まあね、普通そうなるかもしれないけどさ、やっぱなんだかんだと憎めない人だしね」

 大仰にため息をつくと、英司はそのままベッドに横たわった。

 天井を見ながら、ぼそぼそ続ける。

「お前が何言いにきたのかは、大体想像つくけどさ。ま、その程度のことなら俺も了解済みだから心配するな」

『……』

「雅人先輩のオーバーリアクションのことだろ? あれって一応理由があるわけで、もうあの先輩の日常習慣になっちゃってるから今更やめろなんて言えないしね。大体、あの大げさかつ人の心を揺さぶって弄んでるような態度こそが、雅人先輩を変身魔法のスペシャリストにしてるわけだし」

『わかってたんですか』

「お前が気付いて俺が気付かないはずないだろ。お前より付き合い長いんだぜ、俺は」

 英司は、ゴロンとベッドに背中から寝転んだ。

「あの先輩、おそらく校内中の人間全員のくせや特徴を理解しているぜ。俺もよく変身させられるけど、雅人先輩みたいな柔軟性も演技力も観察力もないもんだから、なかなかうまくいかないんだよな」

『変身ってむずかしいですからね』

「そうそう、魔力があれば外見はそっくりに出来るんだけど、中身までは――その辺、雅人先輩は普段からあちこちで人と絡んで、いろんな言葉を投げては相手の反応やくせを観察し、記憶してる。人って怒ったり意外なこと言われたりしたら、けっこう自分の本性が出るもので、そこが見たくて雅人先輩は仕掛けてるってわけ。もう条件反射になっちゃってる部分もあるけどね」

『そうみたいですね』

「ま、今回の件はしゃーないな。帝あたりが俺に同情して、なんとか校内を押さえてくれるだろうし、うわさなんて無責任なものに、いちいち関わってるほどみんな暇じゃないだろうし。深く気にしなくてもいいってことかな」

 英司はそう言うと、またよいしょっと起き上がった。

「でもさ、やっぱ俺にも男としてのプライドっつうか何つうか――とにかく雅人先輩、殴りでもしなかったら格好がつかないというか何というかでさ、そうあっさりと仲直りってわけにもいかないよな、ここまできたら」

『……そうですね』

「ま、当分口聞いてやらないかも。意地はっててもしかたないから、適当なところで終わらせるけどね」

 心配するな、と片目をつぶる英司に、斎は胸をなでおろした。

(良かった。僕が心配する必要なんてなかったな)

「それより問題はあっちだよ、あっち」

 口調の変わった英司に、斎は首をかしげる。

「俺より後野さんの方が誤解を解くの、大変そうじゃん? 思ったより生真面目で純粋でさ。雅人先輩のこと『変態ホモ我侭ナルシスト』だと思いこんでるしなあ。思われるのはしょうがなくても、また水ぶっかけられるのはごめんだよな」

『彼女には僕が説明してみます』

「そうだな、そうしてくれると助かるよ」

 英司は嬉しそうに言った。

「俺たちじゃあんまり信じてもらえないかもしれないしな。彼女のこと、まかせていいか?」

『はい』

「実は雅人先輩からさ、何気に彼女に気をつけとくように言われてたんだよね。何かあったらすぐに報告するようにって」

『え? 後野さんをですか』

 驚く斎に英司は続けた。

「俺もよくわからないんだけど、後野さんってやっぱり何かいわく付きらしい。直樹先輩や雅人先輩がやたら絡むのはそのせいさ」

『そうだったんですか』

「なんかやばそうな感じなんだよね。お前も気をつけろよ。何しろ俺たちクリスティの宿命に関わりがあるみたいだから」

 その言葉に、斎は内心驚きながらも深くうなずいた。



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