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魔法使いの生徒会(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編1)  作者: 月森琴美


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 雅人との庭園騒ぎから2日経った。

 彼とあの時会っていたのが、もう一人の彼女候補――早川響子であると茉理は知った。

 情報源は奈々だ。

「ねえねえ、ついに3人目の候補者がエントリーされたんだって」

「そう」

「もう、なにそんな気のない声、出してんのよ。ま、そうよね、茉理に勝ち目はないものね。ほんと帝様も生徒会の皆様も何を考えてるのかしら」

「……」

「3人目は、早川響子。1年E組。ほら、斎様と同じクラスよ」

「ふーん」

「彼女は初等部から有名な人なのよ。名門グランスノア家とレティア家の血を引く、もう魔術の大天才! おまけに美人で清楚でお姫様みたいな感じだし――残念だけど茉理にはちょっとレベルが高すぎね」

(別にそんなのどうでもいいけど)

 茉理は、ひじをつきながらため息をついた。

 そんな彼女をどう思ったのか、奈々はがしっと机に乗り出してくる。

「でも茉理。わたしたちは親友よ。あなたが例え帝様の彼女に選ばれなくても――っていうか、結果はみえてるけど、最後までがんばって。わたし、応援してるからね」

 応援なんてしなくていいんだけど、と心の中で茉理は思い、はああっとまたため息を漏らした。

 5月31日にイベントは開始されるらしい。

 一体それがなんなのか、茉理は興味もないのでほうっておいた。

 実際、その日に参加する気はゼロ。

 それどころか学校に来る気すらない。

(わたしってお兄ちゃんがいるからこの学校に留まってるだけなんだもん。生徒会長の彼女なんて死んだってごめんだわ)

 そう堅く決意してはいるのだが――。

 茉理はそっと鞄に触れた。

 あの本が入っている。

 あれを読んだ時以来、茉理は夢を見るようになった。

 夢の中身は決まってお話の一部。

 素敵な騎士の誓いを受けているシーンだったり、はたまた悲惨な光景だったりした。

(でもなんだって騎士役が、生徒会長に似てるわけ?)

 昨夜の夢では黒いローブを纏った少女に跪いているのは、どことなく帝にそっくりな青年だった。

(ま、わたしの潜在意識が作り出したものなわけだから、わたしの意識の中にいる人が夢に出てきててもおかしくないんだけどね)

 深い意味はないんだろうが、不快であることは確かだった。

(せっかく乙女の妄想を掻きたてるような素敵な場面に、どうしてあの人が割り込んでくるわけ!?)

 ただでさえ学校で顔をあわせるのも嫌だというのに、夢にまで出てこられたらたまらない。

 そんなこんなで彼女は今、憂鬱だった。

(今晩も、あの夢を見るのかしら)

 そう思うと、もうため息しか出ない。

(あーあ、生徒会長の大ばか者。今夜も出てきてごらんなさい。図書室にあった【世界に伝わる呪い大全集】借りてきて、出来そうなので呪いを送ってやるわ)

 物騒なことを考えながら、茉理はこぶしを握り締めた。




「――以上でおおまかなプランはたったな」

 直樹の冷静な声が、放課後の生徒会室に響いた。

 例の円卓に集うのは、いつもの面々――いや。

 中央の椅子は空席だった。

「僕は賛成」

「俺もいいっすよ」

 二人の賛同を受け、直樹は斎に聞く。

「お前もこの案には賛成してくれるだろ? 参加できるかはともかくとして」

 斎は白い表情のまま、うなずいた。

「お前は万が一のことがある。魔力を使うことは極力避けて、後方で待機しててくれ。そのかわり」

 黒眼鏡がきらっと光る。

「今年は帝本人にワンステージをまかせようと思う。本人も了解済みだ」

「帝が?」

 英司はやや意外そうな声をあげた。

「去年は俺たちの組んだ障害コースをクリアする候補者たちを見ているだけだったが、最終決断を彼にまかせた方が理にかなっている。これは帝自身が言い出したことでね」

「去年は全部高みの見物決め込んでいた王様が動くなんて、ますます今年は期待できそうだね」

 面白そうに言う雅人に、直樹は顔をしかめる。

「その分、俺たちも気合を入れていかないとな。各自、自分の持ち場で全力をつくしてくれ」

「わかりました」

 英司はうなずき、立ち上がった。

「おや、英司君、どこ行くの?」

 のほほんと聞く雅人に、英司はこぶしを握って突き出す。

「どこ行く、ですって! 先輩のかわりに3年A組 白川恵子(しらかわけいこ)先輩のお誘いを断りにいくんじゃないですかっ。まったくもう」

「あー、そうだったっけ」

「少しは後輩を労わってくださいよ、雅人先輩。体育館の裏で放課後待ってるよ、なんて返事をするから俺が苦労するんじゃないですか。自分の体が非常時なの、ほんとにわかってます?」

「そう怒るなよ、英司君。君はほんとに可愛いね」

 雅人はにこやかに笑むと立ち上がり、彼の背後にまわった。

 すっと英司が動きを変える。

「いつもいつも! もう後ろは取らせませんよ」

「おおっ、さすが英司君。少しは成長したみたいだね。お兄ちゃんは嬉しいよ」

 さらりとかわす雅人を睨み殺しそうな視線で見つめながら、英司は低い声でつぶやいた。

「人の気も知らないで……いいですか。これ以上面倒な事を引き受けないでください。イベントまでに、俺だって体調と魔力は整えておかないといけないんです。余計な魔力の浪費はごめんです。わかりましたね」

「わかったよ、ごめん」

 あっさりあやまられ、英司ははああっとため息をついた。

「俺、本気で言ってるんですけど」

「僕も本気だよ」

「そうは見えないんですけどね」

「心外だなあ。英司君、僕ってそんなに信用出来ない?」

「はい」

 きっぱりと肯定され、今度は雅人が無言になった。

「二人ともそのくらいにしておけ」

 直樹が割って入る。

「英司、さっさと片付けてこい。こいつには俺からよく言ってきかせるから」

 まだ言い足りなさそうな英司だったが、もう一人の信頼出来そうな先輩には逆らえず、踵を返して、生徒会室を出て行った。

「サンキュー、心の友、直樹君」

「別にお前をけりつきそうもない言い争いから、救ったわけではないからな」

 直樹は冷たい口調で言った。

「ただ今回は俺にも一応責任があるからな」

「おっ、めずらしく自覚してるじゃない」

 ふふっと薔薇を弄びながら、雅人は笑う。

「お前も真面目な話、少し自重しろ。あまりやりすぎるなよ」

 直樹の忠告に、ふっと雅人は表情を変える。

「そういえば、あの子にあったよ」

 彼の口調が少し変わったので、直樹はPCを打つ手を止めた。

「早川響子嬢。一筋縄じゃいかないね」

「……」

「彼女、茉理姫に個人的な感情を抱いているようだ。再三の規則違反を犯してまでも、彼女にちょっかいを出すのはやめられない。そうだろう、斎」

 急に振られて、斎は少々驚く。

(雅人先輩、気付いてたんだ)

 誰にも気付かれないように最新の注意を払って、仕掛けられる嫌がらせの数々。

 自分だって同じクラスにいるのに、校門前の風浮遊事件だけで終わったと思っていたのだ。

 あの『死んだごきぶり』が出なかったら、わからなかった。

 直樹は少し間を置いて言った。

「お前は知ってるよな。あの小娘がよく初等部のとき、俺とつるんでたのを」

 自分が推薦した少女のことを吐き捨てるように言った直樹に、またまた斎は驚く。

(直樹先輩と仲良かったんだ、早川さん)

「まあね。この僕を差し置いて君にだけ興味を示すなんて、あの子も男を見る目がなってないよね」

「いや、むしろそれに関しては見る目があると思うんだがな」

 直樹は冷たく言い放つと、話を横にそらすな、とつぶやいた。

「はいはい、で?」

「彼女は別に俺を気に入って側にひっついてたわけじゃない。目的があったんだ」

「ふーん、めずらしく君がしてやられたわけか」

「ああ。まあこっちにも気付かなかったというまぬけな点があるから、彼女ばかりを責めるわけにはいかないが」

 直樹はめずらしくため息を漏らす。

「で? 彼女を帝の候補に押し上げた理由がそこにあるわけ?」

「別に帝の彼女になんて俺ははなから考えていなかった。むしろ願い下げだ。あんな女、帝の足元にも近寄らせたくはない」

(じゃ、どうして推薦なんて……)

 心の中で斎は思った。

「チャンスだと思ったんだ。後野茉理に彼女を近づける良い機会だと」

「は? 後野茉理と彼女を接触させたかったわけ?」

 やや間の抜けた声で、雅人は聞き返す。

 斎も首をかしげた。

(別にイベントに推薦しなくたって――)

 いくらでも早川響子と後野茉理を接触させる手はあるはず。

「生半可な接触じゃ駄目だ。二人が対立するように仕向けたかった。そうすることで俺の過去の過ちが明るみに出て、修正出来るかもしれないと考えた。むしの良すぎる話だがな」

 辛そうに告白する直樹を、雅人はいつになく優しい瞳で見た。

「君はそのことでずっと自分を責めていたんだね。まったく直樹君、君の律儀さには敬服するよ」

 そっと微笑むと雅人は親友に歩み寄り、ぽんと肩を叩く。

「心配しなくても大丈夫。きっとうまく行くさ」

 その温かみのある言葉が、直樹の心に染み渡り、癒しているのを斎は感じた。

(雅人先輩って普段は人のことをからかってばかりなんだけどな)

 そういう人が、突然真剣に言う言葉には重みがある。

 斎は目を閉じ、二人が互いに信頼しあってる空気を感じた。

 自分の心にも何か暖かいものが広がっていく。

 それは俗にいう仲間意識とか同士とか、そういう心のつながりに共通して流れる心地よい感情。

『直樹先輩の犯した過ちって何だろうか。僕にも何か力になれないだろうか』

 斎は胸の奥でそう思った。




 雅人に変身した英司は、体育館の裏に来ていた。

(ここだな……お、いるいる)

 制服の胸リボンを必死に整え、髪を撫で付けながらそわそわしている美少女がいた。

(まったくもう! 俺はこういうシチュエーションは、苦手なんだってのに)

 一体どうやって断ればいいんだ――それも雅人らしく。

 英司は頭がパニックになりかけたが、早く済ませてしまおうと彼女に近づいた。

 案の定、白川恵子は頬を染め、彼の前でもじもじする。

「あ……あの、雅人様、わたし、わたし……」

(ええい、まだるっこしい)

 英司は機嫌の悪さも手伝って、手に持つ薔薇をぐしゃあっと握りつぶした。

「あの、その、もし良かったら、わたしと……今度の日曜日……」

 彼女は顔を真っ赤にしながら言葉を続ける。

「わたし、前からあなたのこと……雅人様……」

 恋する女の子に特有のはじらいモードで彼女は俯き、両手を握り締めて雅人の返事を待った。

(えーと、雅人先輩らしくだと……)

 英司は必死に台詞を考える。

 思いつくのは口にするのもおぞましいものばかりだったが、しょうがない。

 早く済ませてしまおうと、彼は頭をからっぽにして自分を捨てた。

「か、可愛いレディ。き、君の気持ちは、とっても嬉しいよ。その、僕は、き、君のようなレディに思われて、光栄だよ」

「ま、雅人様、嬉しい」

 白川恵子は、目を潤ませて彼を見つめる。

 その視線に一瞬ひるんだ英司だが、ここでお誘いを受けるわけにはいかない。

 断ろうと口を開きかけたそのとき――。

 バシャアアアーッ。

 勢いよく背後から水が降ってきた。

 水は雅人姿の英司を直撃し、彼は思いっきりずぶぬれになる。

「な……」

 驚きで振り向くと、今度はプラスチックのバケツが飛んできた。

「うわっ」

 あわてて受け止めた英司は、目を点にする。

 そこには、怒り沸騰して仁王立ちになる茉理の姿があった。




「きゃああっ、雅人様っ、大丈夫ですか」

 白川恵子の奇声が、体育館の裏に響いた。

「ちょっと、あなたは何よ。わたしの雅人様になんてことを」

 せっかくの告白場面を台無しにされ、恵子は怒って茉理につかみかかる。

 でも茉理はそれ以上に興奮し、腹を立てていた。

「雅人先輩っ。またこんなとこで女の子をたぶらかすなんて」

「え……あの、おい」

 雅人姿の英司は、あまりの勢いに言葉を失ってしまう。

「一人でふらふら人目を避けてどこ行くのかと思ったら、またこんなことをして。人の気持ちを弄ぶのはやめてくださいって言ったでしょ」

 思いっきり叫ぶと、彼女は恵子に向き直った。

「騙されちゃ駄目ですよ。こいつは外見だけしかいいとこない超変態最低男なんですから」

「え?」

「雅人先輩にはちゃんと付き合ってる人がいるんです。本命が! それなのに二股かけようとするなんて最悪だわ」

「ふ……二股? 雅人様に本命が……そんな……」

 恵子は衝撃でへなへなと崩れ落ちる。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。俺に本命?」

 思わず口調を本来の自分に戻してしまったが、雅人姿の英司はなんとか釈明しようと試みた。

(ていうか一体どういう展開になってんですかっ。雅人先輩っ)

 英司は心の中で、雅人に思いっきり悪態をつく。

「そうですよ。昼間っから堂々といちゃいちゃしてるくせに、他の女の子を誘惑するなんて、最低! この節操なしっ」

(雅人先輩、一体どこの誰にそんな行為を……)

 英司は絶句しながら自分の立場を呪った。

 この場の収集を、もうどうつけてよいかわからない。

 茉理は手を腰に当て、雅人姿の英司をはったと睨んで叫んだ。

「ちゃんと本命の山下先輩を大事にしてあげないとかわいそうじゃないですか。山下先輩だって悲しみますよ。相手のことは浮気してないかちゃんと監視に来るくせに、自分は見境なしなんて最悪だわ」

「なっ」

 今度こそ本当に英司は頭が昇天した。

「うっ、嘘……雅人様が、英司君と……?」

「ち、違うっ。それは誤解だ、誤解っ!」

 あわてて英司は取り繕うが、もう恵子の目は先ほどの恋する乙女ではなかった。

 そう、まるでそれは見てはいけないものを見てしまったような――。

「そうだったのねっ、雅人様ってそちら側の方だったのね! そんなこと知らずにわたし……わたしは……バカアアアッ」

「あーっ、おい、ちょっと」

 最後は絶望に涙しながら、白川恵子は走り去っていく。

 呆然と後姿を見送る英司に、茉理は追い討ちをかけた。

「これに懲りたら、もう二股なんて馬鹿なまねはやめてください。いいですね、副会長」

 そして彼女も体育館の裏から立ち去っていく。

 あとには、どうしてよいかわからなくなった英司だけが取り残された。



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