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魔法使いの生徒会(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編1)  作者: 月森琴美


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14/56

13

(今日って、13日の金曜日かあ)

 教室の窓を見ながら、茉理はぼんやりしていた。

 金曜日の6時間目はホームルームと決まっている。

 今日の議題は、来るべき球技大会の種目決めだった。

 学級委員が前に出て種目や人数を書き、決をとっている。

(別になんでもいいけどね。でもわたしと組みたい子なんていないだろうな)

 一人でコートの隅で、ぼーっとしてられるバスケがいいかな。

 茉理はそう思い、バスケットボールに名前を入れていた。

 窓辺からは暖かな陽が差し込み、穏やかな5月の午後を感じさせる。

 ちなみに奈々もバスケ部だから――というのかどうか知らないが、バスケに入っていた。

 あれから一言も口を利いてないのが、むなしかったりする。

(せめてきちんと話したいな)

 せっかく友達になれたとこだったのに。

 茉理は自分の机より3つ前に座っている奈々の背中を、悲しそうに見つめていた。




 6時間目が終わると、茉理は立ち上がった。

 今日はトイレの掃除当番だ。

 他の生徒たちと一緒に掃除を済ませ、彼女はまた教室に戻ってくる。

 何やら教室が騒がしかった。

(どうしたのかな)

 茉理が入っていくと、しーんと静まり返る。

 クラスメイトが集まっている中心に、見知らぬ女生徒がいた。

 彼女は茉理を見つけると、にっこりと笑む。

「こんにちは。後野茉理さん」

「あ……こんにちは」

 茉理は目を瞬かせながら答えた。

「自己紹介がまだでしたわね。わたし、2年E組 円城寺美奈子(えんじょうじみなこ)です。どうぞよろしく」

 手を差し出され、茉理は困惑しながら握手した。

「今日はご挨拶に来ました。わたしの好敵手となるあなたの顔も見たかったし」

「は?」

 茉理は聞き返す。好敵手って何だ。

 わかっていない彼女に、美奈子は人差し指を突き出した。

「最初に宣言しますけど、わたし、絶対あなたに負けませんから」

「一体何のこと?」

「まあ、知らない振りしてもだめよ。あなた、ちゃんと申し込みを受けたんでしょ?」

「は? 申し込み?」

「花を受け取ったでしょ。しらばっくれてもだめ。ちゃんとわかってるんだから」

「花って……」

 茉理は首をかしげ、あっと小さくつぶやいた。

 かばんを開け、中からつぶれかかった野薔薇を出す。

「ほら、ちゃんと受け取ってるじゃない」

 勝ち誇った美奈子の声に、おおーっとクラスメイトのざわめきが広がる。

「本当だ」

「美奈子姫の言うとおりだぜ」

「まさか帝様が」

「どうして後野さんが」

 信じられない、とみな、口々に言う。

「ちょっと待って。わたしには何がなんだかわかんないよ」

 茉理はざわめきに負けないように叫んだ。

「この花、昨日の夜、突然部屋の窓から飛び込んできたのよ。机の上に置いといたはずなんだけど、今朝学校に来てみたら、ちゃんとかばんの中に入ってたし。どうなってるのか誰か説明してよ。何なの、これ」

「それは、この学園最大の生徒会イベントへの参加招待状だよ」

 ざわめきの背後から、穏やかな声が聞こえた。

 皆、唖然と声の主をみつめる。

「嘘……雅人様!?」

 奈々の黄色い声が、教室中に響き渡った。

 瞬間移動したかのように雅人がにこやかに立っている。

「はあーい、後野茉理姫」

 ごきげんよう、と笑顔で言われ、茉理は目を瞬かせた。

「美奈子姫、君も一緒かい? 敵の視察ってとこかな」

「当然です」

 美奈子の小さな唇から、震える声が漏れた。

「帝様はどうして……どうして私を捨てたりするのですか。あんなに優しくしてくださったのに」

「それは君が一年という期限付きの相手だったからだよ」

「本気になってくださらなかったんですね」

「そのようだね」

 美奈子の顔が青白くなる。

「だからって――だからってどうしてこんな魔力ゼロ、何のとりえもない普通の女生徒と帝様の愛を競って戦わねばならないんですの? ひどい侮辱ですわ!」

「……」

「相手がこれではわたしが勝つのは当然としても、やっぱり後味が悪いです。帝様にお会いして抗議してきます!」

 美奈子はぼろぼろ泣きながら、教室を飛び出していった。

(な、何なの……)

 茉理は唖然とその姿を見送った。

「やれやれ、彼女もあきらめがわるいね」

 雅人は肩をすくめる。

「雅人先輩、本当なんですか。後野さんのエントリーの話」

 奈々が甘えた声で雅人に聞いた。

「うん、そうだね。そういうことになったみたいだ」

 雅人の声に、奈々は驚きのまなざしを茉理に投げる。

「ちょっと待ってください。何かの間違いじゃ」

「間違いじゃないよ。彼女はちゃんとエントリーされてる。帝も知ってるよ」

 ざわざわと困惑の声があがった。

「でも副会長、これはあんまりじゃ」

「帝様は何をお考えなのですか」

「そうですよ、よりによって彼女は」

 雅人は微笑み、茉理に近づいた。

「本人がよくわかっていないようだから説明しないと。彼女を借りるよ」

「え!?」

 雅人は問答無用で茉理の腕を掴み、廊下へと連れ出す。

 あとには疑惑と困惑の渦中に投げ込まれたクラスメイトたちが残された。




「あの、ちょっと」

「黙ってついておいで」

(黙ってって言われても……)

 ただでさえ目立つ先輩に腕をつかまれ、引きずられているのだ。

 当然廊下では衆目の的になる。

 みんなの視線に困惑しながら、茉理は屋上に連れていかれた。

 風が気持ちよく感じられる、この校舎で一番空に近い場所。

 風に髪をなぶられながら、茉理は少し屋上の景色を見つめた。

 よく奈々とお昼を食べた指定席がある。

 この間は帝と対峙した。

 そして今度は――。

「ここは見晴らしがいいね」

「そうですね」

「教室の閉じた空間と違い、世界が開けている。どこまでも続く青い空。宇宙にまで続いている無限の場所。そう思わないかい?」

「……そうですね」

 両手を広げ、お芝居でもするかのように体いっぱい叫ぶ雅人に、茉理はあいずちを打った。

「ふふっ、君にはまだこの開放感は実感できないようだね。大空を力強く飛ぶ鳥をうらやましいと思ったことはないかい? 彼らは」

「あの、先輩。わたし、もう教室に帰ってもいいですか」

 いつまでも続きそうな芝居ががった言葉を、茉理はぶすっとしてさえぎった。

「せっかちなお嬢さんだね。そう急がなくてもいいじゃないか」

 くすくす笑いながら、雅人は茉理を見る。

「でもわたし、早く帰りたいんですけど――また何かが起こる前に」

 最後の方を強調しながら、茉理は雅人を睨んだ。

「大丈夫、僕と一緒にいる間は君は安全だ。仮に誰かが君を害そうとしたら、必ず僕が守ってあげるよ」

「……」

 茉理は沈黙した。

 本音は、思いっきりけっこうです! と叫んで、屋上を走り去りたかったのだが――。

「だからこれ、一体何なんですか。招待状って、わたしは何に招待されたんですか」

 茉理の質問に、雅人は微笑んだ。

「まず君には知っておいてほしいことがいくつかある。僕たち魔族について」

 真剣な口調に、茉理も少々緊張する。

「クリスティについて君も少しは知ってるんだろう? その昔、僕たちのご先祖アルツール・クリスティとその一族が不当な嫌疑をかけられ、住んでいた土地を追われた。そしてこの日本という島国に逃れ、定住した」

「はい、聞きました」

「魔族というのは自分の持つ魔力をすべて子孫まで遺伝させるためには、特定の相手と婚姻して子どもを作らねばならないんだ。その特定の相手は血筋や家柄に関係なく、本人の直感によって選ばれる。ま、むずかしく言ったけど、要は恋愛と同じようなものだ。ただ世間一般の結婚と違い、間違った相手と結婚したら、子どもに魔力は少ししか遺伝しない」

 茉理は首をかしげた。

「魔族の結婚というか、相手を選ぶっていうのはわかりましたけど」

 それと自分に何の関係があるというのだろう。

「わかってくれて嬉しいよ。話を進めるけど、アルツール・クリスティには5人の息子がいた。そのうち長男イジュールの子孫が本家ということで、帝なんだ」

「じゃ、あと4人の弟の子孫が分家?」

「正解。ちなみに僕はアルツールの次男ファンライトの子孫でね。第二の分家ということになる」

「森崎先輩と山下先輩、それから遠野君も?」

「直樹は三男デルス、英司は四男アルス、遠野斎は五男レイオスの子孫だ」

「そうですか」

 本家と分家のことが、なんとなくわかってきた。

「でも、それとこのイベントっていうのに、どういう関係が」

「あせらないで。さっきも言ったけど、僕達魔族には子孫繁栄のために『運命の相手』が必要だ。それも直感なんて不安定なものだけしか手がかりがない。更に真剣に求めないと、相手には生涯めぐりあえないかもしれない。だからそれなりのお付き合いが出来る年齢になった時から候補者を探して、一定期間のお試しをするんだよ」

「は?」

「平たく言えば、正式に結婚する前にいろんな少女とつきあってみる。とまあ、こういうわけでね」

「……」

「僕たち分家はそんなに厳しくないけど、本家は深刻な問題としている。だから本家跡取りの帝は12歳になった年から義務として、それなりの魔力と資質を持ったレディとお付き合いすることになってるんだ」

「何ですか、それ」

 茉理は開いた口がふさがらなかった。

「つまり12歳から本人の意思に関係なく、誰かを彼女にしないといけないってことですか」

「そうだよ」

 雅人は重々しくうなずいた。

「少し接したぐらいでは運命の相手かどうかわからないだろう? だから選ばれた少女とは、1年間という期限付きでお付き合いすることになる。一年間、帝も全力をかけて少女を自分の本当の相手として付き合うんだ」

(あっきれた。何よそれ)

 茉理は、なんと言っていいかわからず唇をかんだ。

「もし一年の間に彼女を帝が本気で好きになったとしたら――運命の相手だと彼が認めたら、そこで終了。その少女は帝の恋人として、皆に認められることになる」

「じゃ、もし一年付き合って、本気になれなかったら?」

「もちろん別れて、別な少女と付き合う」

「それって恋愛っていうんですか」

 すごくひどい気がする、と茉理はつぶやいた。

「でもこれが本家に生まれた者の定めでね。帝もわかっているよ。クリスティの魔力を帝の代で絶えさせるわけにはいかないんだから」

「今時の日本には、魔力なんて必要ないと思うんですけど」

 容赦のない茉理の言葉に、雅人は寂しげに微笑み、そうかもね、とつぶやいた。

「で、その話と君に何の関係があるかというと、新入生も入って落ち着いたこの時期に、帝の彼女を選抜するイベントが行われる。去年の彼女と、それから分家4家がこれはと思う少女を推薦する。選ばれた少女達は、帝の彼女の座をかけて選抜試験に臨んでもらう」

「あの、まさか」

 茉理は嫌な予感がして、恐る恐る聞いてみる。

「そう、今年は君が推薦されたんだ。おめでとう、茉理姫」

 茉理は、頭が真っ白になってしまった。

(な……なんだって、わたしが!)

 一体どこの馬鹿が自分を推薦なんかしたんだろう。

 大体、自分が帝の彼女の座をかけてバトルなんて出来るはずもない。

「何かの間違いじゃ――大体会長、知ってるんですか。わたしが推薦されたってこと」

「もちろん」

「えええええーっ、あれだけ嫌われてるのに、よくO.Kしましたね」

 雅人はその問いには答えず、優雅に微笑んでみせただけだった。

(冗談じゃないわ。わたし、そんなのお断りよ)

 茉理は顔をあげ、きっと雅人を睨んだ。

「わたし、絶対に出ませんから」

「逃げるのかい?」

「逃げる逃げないの問題じゃないでしょ。そんなの勝手にそっちの都合で決めたことじゃない。どうしてわたしが付き合わなきゃいけないのよ」

 吐き捨てるように叫ぶと、茉理はこぶしを握り締めて雅人に怒鳴った。

「とにかくわたし、絶対絶対絶対ぜえったい参加なんかしませんから。じゃ」

 叫ぶだけ叫び、彼女は雅人に背を向けて屋上から駆け下りていった。


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