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魔法使いの生徒会(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編1)  作者: 月森琴美


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12

 下校時刻を告げる放送が、校内に響き渡った。

 茉理は読みかけの本を棚に戻し、図書室を出る。

 門の横に来ると立ち止まり、桜の木を見上げた。

 そっと幹に触れてみる。

 重なり合う葉を風が揺らしているばかり。

(やっぱりいない)

 毎日帰る前に木の上を見上げるのが、彼女の習慣になっていた。

 あの少年に会いたかった。

 わけがわからない一連の出来事は、ずべて彼と出会った日から始まっているように思える。

(聞きたいこと、たくさんあるんだけどな。どうしたら会えるのかなあ)

 ため息をつきながら茉理はあきらめて門をくぐり、下校した。




 長い影が道路に伸びる。

 駅までの道を、茉理はのんびり歩いていた。

 交差点まできたとき、彼女ははっとする。

 向こう側で信号待ちをしている少年がいた。

(あの子、確か、えーと……)

 すぐに名前が出てこなかったが、数分後にひらめいた。

(思い出した。1年E組 遠野斎君。生徒会臨時書記だっけ)

 一体いくつなんだろうと思ってしまう白髪。

 くぼんだ生気のない瞳。

 顔立ちは整っているくせに、まったく存在感を感じさせない。

(確かしゃべれないんだっけ)

 茉理は、全体集会でみんながうわさしていたことを思い出した。

 小柄でやせ細り、風のささやかな一吹きで飛んでいってしまいそうだ。

(おばあちゃんがよく言ってた、もやしっ子ってこんな感じなのかな)

 そんなことを思いながら茉理は斎を眺めた。

『あ、あぶない!』

「え?」

 茉理は突然頭の中に響いた声に驚く。

(わたしの気のせい? 何、今の声)

 キキーッ。

 向こう側――斎の目の前で、乗用車が急ブレーキをかけて停止した。

 運転手が窓から顔を覗かせて驚いている。

「おいっ、ひいたか?」

 ざわざわと人ごみが出来ていた。

「大丈夫。その子が助けてくれたみたいだ」

 あー、良かった、と運転手はつぶやき、また車をスタートさせる。

 人垣も崩れ、すぐに何もなかったように戻っていった。

 反対側から茉理は首をかしげ、目をこらして見つめる。

「あ……猫?」

 さっきまで鞄を持っていただけの斎の胸に、泥だらけの猫が抱かれていた。

(不思議だ。遠野君、そこに立ってただけのはずなのに)

 少なくとも横切ろうとした猫を助けに車道に飛び出すリアクションは見えなかった。

(まさか、魔法?)

 茉理は最近不可思議な出来事が多すぎるし、そのすべてを魔法だと思うようになっていた。

 斎も生徒会の一員なら、何らかの魔法が使えておかしくない。

(さっきの声は、わたしの気のせいかな)

 最近疲れ気味なのかも――健全な中学一年生とは思えない大仰なため息をつき、茉理は駅へと向かっていく。

 キオスクで滋養強壮剤もどきを一本買い、一気飲みしてる辺りが、もうくたびれたおばさんのようだ。

(あーあ、青春真っ盛りの乙女とは思えない状況よね)

 年相応の平凡な日常を帰せーっと、茉理はゆっくりホームに入ってきた電車に向かって心の中で叫んでしまった。

『年相応の平凡な日常か。面白いこと言うなあ、あの子』

「え!?」

 茉理は思わず振り向いた。

 また声がしたのだ。

 反対側に来た車両に乗り込む斎の後姿を見て、茉理は目を丸くする。

(また、遠野君)

 彼女は自分の方向に来た車両に乗らず、つい斎の背中を見つめてしまった。

 彼が乗った電車のドアが閉まる。

 過ぎ去っていく車体を見ながら、茉理はしばらく呆然とたたずんでいた。




 特館の屋根の上は、夕日を楽しめる絶好の場所だった。

「ふー、やっと終わった」

 英司は伸びをして、屋根の上に寝転んだ。

 頭の上の空は薄藍色に染まり、夜の訪れを感じさせる。

「何をしている」

 突然黒い頭が目の前に現れて、英司は飛びおきた。

「うっわーっ、帝。脅かさないでくださいよ」

 雅人先輩に似てきたんじゃないですか、と恨めしそうにみやる彼を、帝はじろっと睨んだ。

「書類、片付けときましたよ」

「ご苦労」

「明日はちゃんと来てくださいよ、もう」

 ぶつぶつ言う英司に、帝は少し口元をあげる。

 彼なりの微笑だったが、英司は気がつかなかった。

 彼の中の帝のイメージは冷徹冷酷、理性の塊にして感情など怒りしか持っていないように見える。

「何か、変わったことは?」

「いえ、別に」

 英司はとっさに口を瞑った。

(あのことは――茉理って子の知り合いの話は、帝には報告するなって言われてるしな)

 帝のことだから、あの茉理という少女に非がないとわかったら、今度は苛立ちまぎれに別な生徒に当たるかもしれない。茉理と因縁があるとわかれば、彼はターゲットになってしまう。

『これ以上、帝の神経を逆なですることは避けたいしね。いつもはもう少し冷静なやつなんだが、彼女の件に限っては何やら拘っているしな』

 直樹の冷静な判断によって、3人だけの知る情報として当分隠されることになったのだ。

「何だ、俺に言えないことでもあったのか」

 帝は英司の気まずそうな顔をいち早く察し、鋭く突っ込んできた。

「そっ、そんなことないですよ。それより帝。直樹先輩がそろそろ例のイベントやるだろうから、俺たち全員、魔力の増強をしておくようにって」

「……」

 今度は帝が黙り込んだ。

 英司の横に座ると、黙って星を見上げる。

「帝?」

「気が進まない」

「そうですね。彼女――円城寺(えんじょうじ)さん、いい子ですもんね」

 英司の言葉に帝は顔をしかめた。

「お前は、ああいうのが好みなのか」

「え? まあいいんじゃないですか。清楚だし一途だし可愛いし」

 帝だってけっこう気に入ってたくせに、と英司は口を尖らせた。

「俺はいまいちだったな」

「またまたあ、照れちゃって。けっこう連れ回って可愛がってたじゃないですか」

「所詮期限付きだからな」

「……」

 つまらなそうな帝の口調に、英司は返す言葉を失った。

「おい、そろそろ行くぞ」

 立ち上がった帝を、英司は驚いて見る。

「行くってどこですか」

「俺の家だ。今日は夕食会の予定だろう」

 あきれた口調で答える帝に、英司は、あ、そうだった、と答えて立ち上がった。

 二人はほぼ同時に屋根から飛び立つ。

 飛空魔法は初歩の初歩だ。これだけ暗ければまず姿を見られることもないから、姿隠しの魔法までは使わなくていいだろう。

「急ぐぞ」

 帝は加速をかけ、英司はあわててその後を追う。

 二人の姿は地上からは流れ星のように見えていた。



 伊集院本家の館は、学園に隣接した広大な土地にあった。

 校舎の2倍はあるだろう白い洋館で、庭には豪華な噴水やら円柱が立ち並び、そこここに著名な彫刻たちが配置されている。

(これが全部帝先輩一人の私邸だってんだからすごいよな)

 伊集院家の財力は、英司には到底考えの及ばないほど膨大なものらしい。

 帝が生まれた年に、この邸は建てられたそうだ。

(先輩がクリスティ学園に入学するときのためだけに、赤子の時から豪邸を準備するなんて凄まじすぎるよ)

 半ばあきれながら、英司は帝と共に2階テラスに降り立った。

 テラスの向こうは食堂になっており、教室ほどの大きさのホールに大理石の円卓がすえられている。

 すでに客人は到着しており、席について二人を待ち受けていた。

「またせたな」

「すみません、遅くなりました」

 堂々とした態度の帝に対し、英司は少し萎縮しながら頭を下げる。

 卓についているのは、たったの二人――それもつい数時間前に会っていた雅人と直樹だけだというのに、こうして正式の席にいるとなんとなく緊張してしまう。

「着替えてくる。英司、お前もだ」

 帝は卓の向こう側にある扉に向かった。

 英司もあわててついていく。

 二人の前で扉の横に控えたメイド二名がうやうやしく左右に扉を開き、また優雅に礼をして閉めた。

 食卓に乗せられた花を見て、雅人はつまらなそうにぼやく。

「カーネーションより薔薇の方が綺麗なんだけどね」

「いつも同じ花に囲まれてあきないな」

 直樹はあきれたようにつぶやく。

「どうせお前は薔薇持参だろう。だからあえて別な花を置いたのかもしれない」

「何だよ、それは」

「俺たちは悪いけど見飽きてるんでね。たまには違う花を愛でたいものだよ」

 はいはい、そうですか、雅人は肩をすくめて答えた。

「ところで、もう一人は?」

「遠野斎か。一応招待状は届いているはずだが」

 直樹は眼鏡をあげた。

「今回も無断欠席か。あいかわらず失礼な男だね」

 でもそこがまた可愛いかも、と妖しく笑む雅人に、直樹は表情を緩めた。

「あまり人前に出たくないんだろう。まあ気持ちはわかるがね。あんな呪いをかけられてちゃ」

「……」

「クリスティ第5の分家、レイオスの血を持つ彼だが、その名に恥じぬ能力を持ち合わせていないんだからな。こういう席は特に敬遠されるさ」

 二人の顔がやや真剣になったそのとき――扉がまた大きく開かれた。

 黒のスーツに白いシャツ、晩餐にふさわしい正装となった帝と英司の二人が席に着く。

 4人がそろったのを確認し、帝は声をあげた。

「では、はじめよう」




 料理は洋風フルコース。一流レストランから引き抜かれたシェフによる絶品ばかりだ。

 白いエプロンに深いえんじ色の制服をまとったメイドたちが4人付き、食事はスムーズに進んでいった。

 夕食会は毎月一回。

 本家の代表と4家ある分家の代表が集い、親睦を深めるというもので、日本にクリスティ家が移住して以来かかされたことはない習慣だ。

 ただし最近はいつも一人人数がかけているが――。

 食事中はみな、ほとんど無言だった。

 一通りの料理が運ばれ、最後のデザートが来る。

(今日はチョコレートケーキか)

 目を輝かせている英司とは反対に、直樹は顔をしかめた。

 一口か二口で終わってしまいそうな高級ケーキを食べ終わり、ナプキンで口を拭く。

 大体同じぐらいに全員食べ終わる。

 一人だけ先に食べてしまっても、だらだらと遅くなってしまってもいけない。

「ご馳走様。今日もなかなか美味しかったよ」

 雅人の明るい声に、場の雰囲気が一気になごんだ。

「やだなあ、みんな。まるで葬儀場で食事してるみたいじゃないか。神妙な顔しちゃって」

 せっかくの夕食会なのに、と茶化す雅人に、直樹は薄く笑った。

「食事時ぐらい静かに楽しみたいからね。いつも顔をあわせてるから話題も出尽くしてるってとこかな」

「というか、こういう食事の席ってどういう話題がいいんですか。俺、よくわかんないや」

 いわゆる当たり障りのない世間話ってのですよね、とつぶやく英司に、直樹はうなずいた。

「世間話ねえ。そんなのこの面子で出来るかな」

「愚問だ」

 帝のつまらなさそうな声に、雅人は優雅に笑んだ。

「じゃあ、こういう話はどうだ。次のイベントの候補者について」

「いいですね」

「面白そうじゃない。こら、帝、逃げるんじゃないよ」

 直樹の提示に、英司と雅人はにこにこ同意する。

「俺のいないところでやれ」

「そんなあ、本人のいない場所で勝手にお見合いの席を整えちゃまずいでしょ、やっぱ」

 ダンッ。

 雅人の言葉に、帝は卓をこぶしで叩いた。

「何が見合いだ」

「まあまあ、似たようなものじゃない」

「俺は女なんかいらん」

「そうもいかないだろう? 帝」

 直樹の眼鏡がきらりと光った。

「クリスティ本家直系の跡取りである君には、必須の義務だ」

「まあ、王様の傍には麗しきお妃様って、相場が決まっているからね」

「そうなんですか」

「英司君、そこで突っ込むんじゃないよ。可愛くないなあ」

 雅人は英司に口を尖らせる。

「まあ、なんにせよ、帝、お前に拒否権はない。どうして今年はききわけがないんだ。去年は割り切ってやったじゃないか。今年も同じことだろう」

「……」

 帝は直樹を睨むと、勝手にしろ、とつぶやいて、食堂を出て行ってしまった。

「最近の帝はおかしいな」

 直樹が首をかしげる。

「以前だったら、本気でこのイベントをとらえるような奴じゃなかった。ただの遊びのようなものだと、むしろ楽しんでいたのにな」

「彼を本気にさせるものが、今年はあるんじゃないのかな」

 雅人の発言に、英司が勢いよく手をあげた。

「はいはーい、やっぱり俺は円城寺さんだと思います」

「帝の元カノか。円城寺美奈子(えんじょうじみなこ)がどうかしたのか」

「元カノになってるとこが悲しいよね。一応任期が終わってるけど」

 苦笑いしながらつぶやく雅人に、英司は確信と共に叫んだ。

「それですよ、それ。円城寺さんと別れるの辛いんじゃないかな。本気で好きになっちゃって」

「うーん、そういう線もありか」

 直樹は、可能性はあるなと腕組みをした。

「ともかく帝が意思をはっきりさせてない限り、このイベントは行われる。もし円城寺美奈子が運命の相手なら、彼の方ではっきり宣言するだろう。それまで準備は怠るな」

「はい」

「俺たちは魔力の増強、そして帝の次の彼女となる女生徒候補者を探すこと。いいな」

「僕はもう、推薦しといたけどね」

 雅人が、優雅に微笑んだ。

「早いな」

「えっ、もう見つけたんですか」

「まあね」

 意味ありげに微笑みながら、雅人は野薔薇を取り出す。

「それ、なんですか、雅人先輩」

「これも薔薇だよ。野に咲く野生の薔薇だ」

「えっ、それも薔薇?」

 あまりにも温室咲きの整った花とは違うのに、英司は驚いた。

 いつも雅人が愛でている大きく華やかな花弁を持つタイプと違い、小さな花びらが幾重にもついていて、少々カーネーションに似ている気がする。

「僕が推薦した少女はちょうどこんな感じかな。意外性のある子でね。そして温室咲きと違って、たくさん棘をつけている。刺されるとけっこう痛いよ」

 雅人は微笑むと立ち上がり、大窓を開けてテラスに出た。

 暗い夜空に向かって、ポーズを決めながら花を投げる。

 小さい野薔薇はくるくる回りながら、夜空に吸い込まれて消えていった。

 それを真剣に見送りながら彼はつぶやく。

「今年は本気になれそうだ。そうだろう? 帝」

 彼自身が生涯仕えると決めた、孤高不況の魔王。

 彼の姿を思い描きながら、雅人は静かに夜空を見つめた。



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