結婚式
村はかつてない騒ぎの中心となった。
桐崎ECPの代表取締役の失踪、また失踪に関連する村での奇怪な幽霊話、そしてクリスタルレイン。
それらの話が相まって伝説化し世間の関心、といえば聞こえはいいが野次馬根性に火をつけた。
噂を聞きつけた輩が増えたのもそうだが失踪に関する警察の調査や、奇怪な現象に関心を持った数多くの研究者達もこぞって村に押しかけてきて、それはもう大変な騒ぎとなった。
兄と桐崎の行方は依然として知れなかった。
トップを失った桐崎ECPは頭をすげ替えての再出発となったが、桐崎が半ば強引に推し進めてきた研究が引き継がれることはなかった。施設においてもあの時のエネルギー増大に耐え切れなかったらしい水晶柱は破砕したようで実験そのものがお蔵入りとなった。
幽霊事件の混乱もあり施設は現在停止・閉鎖状態で再開の見込みは無いとのことだった。
因みに情報源は財前医師だ。
わたし達は桐崎失踪について、直前まで一緒だったということで幾度か取調べを受けたが、兄と特殊な状況を抜きにして語ったものの、証拠となるものも何もないということで全員あっという間にお役御免となった。
一部のゴシップ誌では兄に関することや桐崎の家族についての話など含め、ある事ない事が掲載されたりもした。気持ちの良いものでもなかったし、わたし達は極力それらを目にしないようにした。
そんな騒ぎがひと段落した頃、わたしと正美は延期していた結婚式を挙げた。
兄の席は空席として用意し、その隣には沙耶ちゃんの席も用意することにした。
二人はきっとどこかで一緒だという願いも込めてのことだった。
波紋を広げたのは島野さんの参加だった。
沙耶ちゃんに瓜二つの彼女の存在が明らかになると会場は騒然となった。
それを島野さんは友人代表のスピーチを行うことで収めた。
「私は島野真奈と申します。
まず、わたくしのこの容姿から祝いの席を騒がせることになり申し訳ございません。
遠野沙耶さんとは残念ながら面識もないまったくの別人ではありますが、こうしてこの場に新婦・正美さんの古くからの友人として出席させて頂いたご縁は、きっと故人・沙耶さんの見えぬお導きもあってのことと存知ます。この不思議なご縁の繋がりから皆様にお会いできたことに心よりの喜びと感謝を申し上げます。
そして何よりも新郎新婦のお二人、ご結婚、誠におめでとうございます。末永くお幸せに」
そして、島野さんは歌を歌った。
異国の歌だった。
透き通った彼女の歌はあたたかさと寂しさとどこか懐かしさを湛えて聴くものの心を打った。遠野の両親も娘に再会したような郷愁に目頭を押さえ、正美もまたぼろぼろに泣いた。歌が終わると正美は島野さんと抱き合って泣いていた。
わたしは兄と沙耶ちゃんの席を眺めていた。
きっと兄は沙耶ちゃんと一緒にいる、そう思えてならなかった。
仮説ではあるのだが、沙耶ちゃんはきっと落雷の瞬間に魂だけをあちら側に飛ばしてしまったのではないかと思う。遠野沙耶としての記憶を持ったままだったことがその証明なのではないだろうか。
その魂は行き場を失いあちら側の赤子に宿って成長したのではないだろうか。
だとしたら、あの最後の瞬間もしかしたら兄と桐崎もまた大きな力の奔流に飲まれてあちら側に行ったという可能性も考えられるのではないだろうかと思うのだ。
それが楽観に過ぎるのは理解していたが、亡くなったという痕跡も無ければそう思いたかった。
だがそれはあまりに非現実なものを見すぎた故の願望なのかもしれない、そう思うとわたしはつい苦笑した。
「どうしたの?」
「あぁ、ちょっとね」
そこで司会の章正が声を上げた。
「さぁ、それでは新たな門出を迎える二人を祝しまして、最後にこちらを贈りたいと思います。皆様、天井をご覧ください!」
照明が落ち、暗闇になる。
直後に投影された数多の光の粒はまるであの夜のようだった。
――おめでとう。
そう言われた気がして声のした方を向いた。
クリスタルレインの再現の中
兄と沙耶ちゃんが手を繋いで、座っていたように見えた。
終




