海辺の少年
あたし達は光に包まれました。
不思議な感覚でした。その場から動いたわけでもないし重力もしっかり感じています。なのに、まるで空中に浮かんでゆらゆらと漂っているようでした。
辺りを見回すと幾筋もの光の河とでも言いましょうか、言い表せないほどの美しい何色もの光の流れが上下左右、果てしないほどの遠くまで広がっているのが見えました。
そこにいた時間は一瞬のようであり長久のようでもありました。気がつくと、あたし達は晴天の空の下、海の見える原っぱに座っていました。
「海…?」
「正美ちゃん……あれ…」
真奈さんが小刻みに震える指で指示す方に振り向きました。
そこには見たこともないほど巨大な、箱のような建造物のようなものが建っていたのです。
ようなものと言ったのには理由がありました。確信が持てなかったのです。
人の手でこれほど大きなものが作れるとは到底思えませんでした。どれだけの高さがあるのか、天辺は雲に隠れて見えません。また、どこまで続くのか分からない壁はずっと遠くまで伸びているようでした。
「ここは一体……?」
そう言って真奈さんが立ち上がります。
「あたしにも分かりません。もしかしてここが隣のページ、なんでしょうか?」
「仮にそうだとして、本当にそうだったら私たち…」
巨大な建物を除けば周囲の風景はとりわけ普段目にするものと違わないような気がします。
その時、海から何かが飛び出してきました。犬のように水を振り払う少年の姿がそこにありました。少年はそのまま真っ直ぐあたし達の方へと歩いてきます。手にはモリのようなものを握り、魚でも獲っていたようです。
「ねぇ、君。ここはどこ?」
問いかけてみましたが、少年は答えず、まるであたし達に気付いていないように通り過ぎようとしていました。あたしは少年の肩に手をかけようとしましたが、その手は空を掻いただけでした。
「すり抜けた。これってもしかして」
あたし達はこの場所に実在していないのだと思いました。
幻覚か幻か、または『彼ら』のように投影された存在なのかもしれません。ただ違うのは、こちらから認識できているということでした。
「あの子、幾つくらいかしら?」
真奈さんが少年の後ろ姿を眺めながら言いました。
「さあどうでしょう? 何となくですけど、十歳くらいですか?」
「十歳、そうよね。きっとそれくらい」
そう言って微笑む真奈さんの表情は本当に穏やかで慈愛に満ちたものでした。
その表情と少年の後ろ姿を見比べてあたしは真奈さんの気持ちに気がつきました。
「愛してる」
囁いた真奈さんに少年が振り返ったような気がしました。
直後、周囲の風景が歪み少年の姿は見えなくなりました。
次第に景色は霧散して、あたし達は元の場所に立っていたのです。
周囲に浮かんでいた波紋も光も無くなっていました。
ただ、カテドラルの水晶塊だけは全てを取り込んだように奥深くで、強く複雑な光を抱きかかえていました。
まるで激しく燃えるマグマを包み込むように。
その張り詰めるエネルギーには危うい何かがありました。




