後悔の在処
真奈さんは、あの頃のままでした。
あの頃と同じように丈二さんを愛し、丈二さんを想い、丈二さんを失った苦しみに捕らえられたまま、まるで時が止まってしまったように、悲しみと後悔の海に浮かぶあの頃のままだったのです。
丈二に会えるの、と嬉しそうに笑う真奈さんの目は正気のそれではありませんでした。
そんな彼女の痛々しい姿に激しい息苦しさを覚えました。あの時、やはりあたしは向き合うことから逃げずに一緒にいるべきだったのです。あまりに大きなものを失った真奈さんの心はとても孤独に耐えられるものではなかったのだと思います。だからこそ共に悲しみに向き合える仲間をこそ真奈さんは必要としていたはずなのに。
なのに、あたしは逃げてしまった。
真奈さんを一人にしてしまったことの重大性に今更あたしは気がつきました。本当の後悔の在り処はここだったのです。
「あら、正美ちゃん何故そんなに悲しそうなの? あなたも喜んでちょうだい、丈二に会えることを。私本当に嬉しいの、うふふ」
まるで無邪気な少女のように軽やかに進んでいく背中を見ながら、あたしは何ということをしてしまったのだという罪悪感に激しく胸が痛みました。
今、目の前にいる真奈さんは本当の真奈さんを悲しみの底に閉じ込め、後悔と虚構で塗り固めた偽りの彼女なのです。
「さぁほら正美ちゃん。時間がないわ、もう丈二が来ているかもしれない。急ぎましょう。待たせてはいけないわ。そう、もう待たせてはいけないの。もう二度と」
周囲に立ち込めていた霧が薄れ始めました。風に流されているようです。
風は上流から吹いてきているようでした。きっと御滝が近いのでしょう。
ペンダントだけでは抑えきれない『波動のようなもの』と言えば分かり易いのでしょうか。それがかなり強まってきていて酷く頭が痛みました。
この先にはきっと義兄がいます。
そして、あたしたちより先に向かった誰か。
真奈さんは一人で進んでいきます。
そのまま行かせてはいけない、そう感じたあたしは真奈さんを必死で追いました。
もう日も落ちているというのに不意に周囲が明るくなってきました。
少し先で森が途切れています。
その先からは揺らめくような紫や青、赤、緑に黄色、様々な色が幻想的に折り重なったような、穏やかで幻惑的な光が溢れ出しているのでした。
あたし達はその空間へと足を踏み出しました。
暗い森に広がる妖精のような光が、景色が目の前にありました。




