屏風絵の示すもの
あたしは舞台の上にある屏風に目がいきました。
少し大きめの屏風です。その絵柄が変わっていたのです。
「あの、あそこの屏風の絵って」
「ん? あぁ、あれはの、大昔この神社にいた神主が書いたものだって聞いてるけどもの。気味のいい絵ではないけども、それでも古いものだはんで貴重なんだべの。もし近くで見るんだば行ぐが?」
はっちんさんが神楽堂で準備していた責任者に話してくれたので、あたしは彼について神楽堂に登りました。
正方形の舞台は五メートル四方くらいでしょうか、それほど大きい印象はありません。舞台の脇には鼓などの準備がされています。
あたしは屏風の前に立ちました。
九十九折りというのでしょうか、ジグザグに折れる一般的な屏風とその辺りは違いませんが、やや一枚ごとの幅は狭いような印象です。決して煌びやかな屏風ではありません。むしろ色もだいぶ落ちてしまっていて幽霊画のような不気味さを感じる絵なのです。
屏風に描かれているのは滝の絵でした。
滝の周りには白い靄のような煙のようなもの、そして、なにか顔色の悪い人々が沢山書き込まれています。それとは離れた場所には肌が明るめの人たちも描かれているようでした。
あたしには、どう見ても死者が甦った様子を描いた宗教画の一種のように思えて仕方がありませんでした。
神楽の責任者の方がやってきました。恰幅のよいその方は一ノ木さんといいました。
「これはな、生霧川の伝承ではねがって言われてるのさ」
「伝承ってが」
「先代がなも伝えねんで亡くなったもんだから、本当のところは分からねけどもな。ほれ、よく見ると川からも霧が出てるべ、しかし殆どはこの御滝から出とるように見える。つまりの、滝は地獄というかの、あの世のようなものと繋がってるという意味でねがと思うのさ」
「あの世…」
一ノ木さんは顎をさすりながら絵を眺めています。
あたしはあの世という言葉に妙な引っ掛かりを感じていました。
「あの、この辺りには昔から幽霊が出るような話があるんですか?」
二人はこちらを見ると、一拍置いて笑った。
「なもなも、わも五十過ぎてそった話は聞いたことはねぇのせ」
「最近たまたまそった噂もあったりはするけどもの、噂だはんで。正美さんはオバケだの苦手だべがな?」
「えぇ、まぁそんなところです」
オバケが怖いなどということはあたしに限ってありません。これまで一度たりともそんなものを見たことが無いのですから。あたしが見るのは幽霊ではなく、『彼ら』なのです。
それよりもあたしが気になったのは、死者が甦っているように見えるこの絵の内容そのものなのでした。この絵がどれほど前のものかも分かりませんが、滝は御滝といって皆が知っているようですし恐らくこの村のことを描いているのでしょう。だとしたら、過去これに近い状況はあったのではないかと思ったのです。
例えば、これを描いた神主さんがあたしのような『彼ら』の姿が見える人だったとしたならどうでしょう。この土地ではそれらの姿が見易いような状況があるとしたら。少なくともあたしがこの土地で『彼ら』の姿を見る回数は多いのです。もしかしたらこの土地には何かしらの条件がそろっているのかも知れません。
――それが証明できるのはもうじきです。
そう言っていた義兄の言葉が過ぎりました。
義兄の持っている能力、何かしらの力が働いている環境、それらを条件に義兄が一体なにをしようとしているのか想像も出来ませんが、何かが起こりそうな奇妙な胸騒ぎを、この時あたしは感じたのです。




