整理への期待
あの石、麻奈さんに貰ったあの水晶はペンダントトップにして今も首からかけています。
石の効果を期待するというのではなく、あの時の自分の弱さを、後悔を忘れないようにする為でした。
その石に触れる度に自己を見つめ直し、逃げてはいけないものに向き合う勇気を得る為に。
その時も、不安を紛らわす為に石を握り締めていました。
彼の実家に行くことになった夜です。
彼の話では、実家の村で亡くなったはずの人を見たという話が上がったのだそうです。
あたしだって他の人には見えないものを見ます。だから、ありえない事ではないと思いました。
ただ、あたしと違うのは、『死人』が見えた、ということです。
結婚式の準備もタイトなスケジュールの中、そんなことに時間を割いてはいられないのですが、彼は無視できない様子でした。詳しく話を聞いてはいません。変に深入りして彼を失いたくはありませんでした。
麻奈さんがいなくなってしまったように彼もあたしの前から消えてしまうかもしれない、と思うと彼の願いを受け入れるしかあたしには選択肢がありませんでした。
彼の家には、お兄さんが失踪しているという複雑な事情があります。
理由は分からないそうですが、だからといって神隠しのような失踪とも違っているようでした。生きているのか死んでいるのかも分かってはいないようでしたが、少なくとも彼は生存を信じていました。彼にとってのお兄さんは尊敬などというものを遥かに凌駕した存在のように思います。
姿を消した理由を誰も知らないと言ってはいますが、彼の家族一同なにか思うものがあるのだろうと思います。口には出しませんが僅かに表情に出ているのをあたしは見逃してはいません。だからといってそれを聞きだすつもりも毛頭ありませんでした。
彼が結婚式の席順を決めるだけのことに時間が掛かっている理由は、そのお兄さんにあります。彼はきっとお兄さんに出席して欲しいと思っているのでしょう。でも、連絡一つとれない兄の席を用意するか、失くしてしまうか、彼は答えを出せないでいるのです。
一つ席を余分に準備すればいい、ということだけでは解決できない何かが彼の中にはあるのだと思います。
だから 彼が実家に戻りたい、そう口に出したときはすぐに重要なことだと感じました。その表情には影がありました。彼の家族が一様に抱える影。
だからあたしは不安を感じながらも反対はしませんでした。
彼の求めるものが見つかるか、そうでなくとも気持ちに整理がつくことを信じたのです。




