パワーストーン
「正美、今日ちょっと付き合ってよ。行きたいお店があるの」
HRが終わるなり優希はあたしの席に駆け寄ってにっこり笑いました。
「うん、いいけど」
ノートやファイルを鞄にしまいながらセーラー姿のあたしは頷きました。
大学受験を控えた高校三年の初夏の放課後です。
学校を出て、家のある方向とは逆のバスに乗って市街に出ます。バスから降りるとあたし達は商店の並ぶアーケードへと入り込みました。
優希はあたしの手を引き、細い横道にそれた場所にある店に向かっているようです。手を引かれ促されるまま入ったのはパワーストーンのお店でした。
店にはガラスケースに丁寧に並べられた結晶や、テーブルに並ぶ丸い玉、乱雑に籠に盛られた水晶の欠片などが所狭しとひしめいていました。
入口のすぐ横にある籠に置かれた欠片を一つ摘まんで透かして見ます。小さな欠片は透明な部分と白く曇った部分が斑になっています。質の低いジャンク品なのでしょう。ひょいと欠片を戻してガラスケースの前で腕を組んでいる優希の隣に立ちました。
「優希ってこういうのに興味あるの?」
「うん、なんか神秘的じゃない? それにさ、石って人間にすごく影響を与えるんだってさ。もうすぐ受験だしね」
「ふーん、金運とか勉強運とかそういうの?」
「違う違う、そういうのじゃなくてね。例えばさ、石の中には電気を発するものとか磁力があるのとかがあるじゃない? そういう石の力って目に見えないけど多分人間に影響するでしょ。だから科学的に解明はされてなくても効果ってあるような気がするのよ。昔の人たちって、例えば南米の方ではこういうのが神聖視されていたりするじゃない。精霊信仰っていうかな? 精霊そのものはともかく、何か目に見えない効果を無意識のうちに古代の人達は活用してきたんじゃないかってさ」
「へぇ、意外。今まで全然そういう話したことなかったのに」
「えへへ、実はね私も最近なのよ。今の話だって受け売りで、あ、麻奈さん、こんにちわ!」
優希が店の奥に手を振ります。従業員らしい女性が店の奥のカーテンをくぐって出てきたところでした。
「あら、優希ちゃんいらっしゃい。今日はお友達も一緒なのね、ゆっくりしていって頂戴」
麻奈さんと呼ばれた女性は柔らかくそう言って、カウンターの席にふわっと腰掛けました。
独特な雰囲気の女性でした。
長い黒髪を全部後ろで束ね、きれいなおでこには赤い石が金のチェーンでぶら下がっています。まるでインドかどこかの占い師か踊り子というのがよく似合いそうでしたが、肌は真っ白でキャミソールにスリムなジーンズというカジュアルなスタイルでした。ただ、胸元には様々な色の石が付いた大きめなのに軽やかなネックレスを下げ、腕には石の付いたリングを幾重にもしているので、カジュアルな中にオリエンタルな印象がある不思議な女性でした。
「あの人が店長さんなのよ。綺麗でしょ」
そう言われて麻奈さんを見ると目が合ってしまい、ドキリとして目を背けてしまいました。
女性の目から見ても綺麗な女性だったのです。
「優希はなにが欲しいの?」
あたしは照れ隠しするように訊きながら、ケースの中のトゲトゲした結晶を見ました。
「んとね、やっぱり集中力アップかなぁ、そうするとトルコ石? とかなのかな」
優希は壁に貼られた表のようなものを眺めながらつぶやきます。
隣に並んで表を見ると色々な効能のような項目があって、集中力の欄にはトルコ石と書いてあります。しかし、それ以外にも色々な石の名前があってどれを選んだら良いのかよく分かりません。
「麻奈さん。集中力アップってどれがいいんですか~?」
優希は本を読み始めた店長に甘えるように情けない声を出しました。
本を閉じた麻奈さんはそうねぇと左上を見上げた。
「集中力ならスモーキークウォーツとかオニキスとかもお薦めね。スモーキークウォーツは不注意のミスを無くしてくれるし、オニキスなら意志力を強めてくれるわ。タイガーアイなんかもいいわね。あぁ、それからこれなんかもどう? フローライト。天才の石とも言われていて思考力を上げてくれるの」
紫の石がカウンターに置かれ、吸い寄せられるように優希は近づくと何やら麻奈さんと話しだしました。あたしはそれを横目に、ぶらぶらと店内を散策することにしました。
それにしても、一言で石と言っても色々な形のものがあります。
一般的な水晶玉のようなものや棒状になったもの、針が寄り集まって触れれば壊れてしまいそうなウニのようなものもあるし、石の中に結晶が群れているようなものもあります。
色も無色からピンクや緑、青黄茶紫と多彩です。値段は様々ですが、ショーケースの中のものは軒並み一万円を越えていました。
それらを眺めながら、こんな小さなものにそんなお金を払う気には到底なれないな、とあたしは思っていました。




