雷轟の朝
嫌な気配で目が覚めた。
時計を見ると既に朝だが、まだどこか薄暗かった。
蝉時雨は聞こえず、代わりに世界を埋め尽くして聞こえるほどに強く雨音が広がっている。雨どいを滴る水がまとまり、小さな滝のように零れ落ち、遠くで低く鳴る雷轟雷轟が聞こえてくる。
気配の正体はこれなのだろう。
昨日までの快晴とはうって変わった暗天を感じ、眠りながらも不安を感じたのかもしれない。まるであの日のようだった。
「天気予報ではすぐ止むってへってらっけ、もうじき上がるんでねがな」
祖母は台所の窓から空を見上げながら言った。
「そうだといいんだけど」
確かに雨は次第に弱まってきているようだったが、妙な不安感はじわじわと腹の底で汚泥のように留まったままだった。日記のせいもあるだろう。わたしは日記に強い関心を抱きながらもその一ページも開けずにいた。
怖かったのだ。
読めば何かが分かる可能性はある。
どうして兄がいなくなったのか、兄はどこへ行ったのか、何をしようとしていたのか、何を考え、想っていたのか。
しかし、それに反して、あのもの静かな兄の本当の気持ちがわたしの思うもの、望んでいる姿と異なっていた場合、まったく別の兄の姿が現われてしまうのかも知れない。それも怖かった。
結局、わたしは一晩中日記に向かっていながら、遂に触れることが出来ぬまま朝を迎えた。
正美はそんなわたしを心配しながらも、慮ってか何も言わずにいてくれた。
「お墓参りはどうしましょう?」
正美が困ったようにそう言うのを聞いて母が答えた。
「ウチのお墓はちょっと奥にあるのよ。この雨では足元も滑って危ないからせめて止んでからでないと、それでも今日は止めた方がいいわねぇ」
雨は止まなかった。
昼になっても雨脚はそのままで一向に止む気配はない。携帯で交通情報を調べてみたが電車の運行本数はかなり減っているようだった。村から出ている電車においては運行停止になっている。大雨は土砂崩れにも繋がりやすくなるから不用意に動くこともできない。
不幸中の幸いだったのは盆休みにはまだ余裕があるということだった。
外にも出られずやることも無い。わたしは部屋に戻り、トタンを叩く雨音を聞きながら束になった日記以外のノートを開いた。
そこに何かの手がかりがあるのではないかと目を通したが、何かのグラフや数式などの羅列も多く理解するには程遠かった。
わたしはその内うつらとして眠ってしまった。




