異質な軍用車
祖母は起床がやたらと早い。
歳だからということもあるのかもしれないが、早いのは昔からだから比べようもない。部屋に朝日が射してきた頃、外にある野菜畑に歩いていく足音で目が覚めた。
じゃっじゃりと鳴る砂利音に懐かしさを覚える。都会にこの音はそうはない。時計を見ると六時を回ったところだった。窓が開け放しなので夏とはいえ少し寒いくらいだ。布団から起き上がると隣にいるはずの正美の姿はもう無かった。
ぎしぎしと鳴る板の廊下を進んでいくと、広間に大人たちが五六人雑魚寝で転がっていた。やたら酒臭いので引き戸を閉めて食堂に向かった。食堂では母と正美が何やら楽しそうに台所に向かって話しながら野菜か何かを切っている。
「おはよう」
「あら、早いのね」
「いつもはもっと遅いんですけどねぇ」
「きっと隣に正美ちゃんがいないもんだから寂しくて起きてきたのよ」
「やだおかあさんったらー。そうなの?」
からかう様にこっちを見る正美を無視して「めし」とだけ言って席に着く。
相変わらず二人は「あれは照れてんのよ。昔っからそう」などとキャッキャと騒いでいる。
食卓に掛け予定を考えていると母が食事を運んできた。自家製の梅干が出てきたので、自分の土産に分けてもらえるように頼んだ。
九時を回った頃、正美を伴って出かけた。
行き先は、遠野の家である。
沙耶ちゃんに関する話を聞く為ではない。
そんな話は彼女の家族にすべきではないことくらいは分かる。目的はあくまで彼女の霊前にお参りと、結婚の報告である。
今日は母が使っている軽自動車を借りて行くことにした。
家を出て川を渡り村の中心を過ぎていくと、田園中心の風景が徐々に変わって畑になっていく。
村の様子を説明しながら暫く走ると樹木が増えてきた。防風林も目立ってくるのは区画整理の役割もあるからだ。ビニールハウスも多くなる。
遠野の家が近くなってきた頃、一台の車と狭い道ですれ違った。
この辺りには不釣合いなハンヴィーである。一瞬目を疑った。
「こんなところに軍用車だって?」
「そうなの? 確かに大きい車よね」
「アメリカ軍で使われているってだけだけど、なんでこんな田舎に?」
あんなものそうそうお目にかかるものではない。すれ違いざまに車体に記載されたロゴに『KECP』の文字が見えた。わたしはテレビでしか見たことのなかった車の後姿をミラー越しに見送った。
防風林を右手に見ながら進むと舗装路が途切れた。そのまま轍の見える道を進んでいくと林が一箇所だけ切れた場所が見えてくる。そこを曲がり真っ直ぐ道の伸びた先に見えてくるのが遠野の家だ。
舗装されていない道なので、ごろごろと雷のように砂埃が上がる。
家の前まで行くと広く開いた前庭に車を止めた。エンジンを切って車を出ると、気配を察した柔和な顔が家の窓からこちらを覗いた。
わたしは、沙耶ちゃんのお母さんに手土産の包みをかざして微笑んだ。




