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第4章、邂逅

挿絵(By みてみん)

1985年12月2日 地球低軌道 高度200km

影が見えた。背景の地球の輪郭に姿を現したそれはアメリカの航宙艦USSF Neil(ニール) Armstrong(アーム) AC-1のに向けて接近していた。その姿は航宙巡洋艦ニール・アームストロングに酷似していた。

「艦長、“ガガーリン"です」

ケビンは、目を細め窓から外を見る。

「来たか」

それは、いつか来ると知っていた瞬間だった。

同時刻、ボストーク級航宙戦闘艦ガガーリンも航宙艦ニール・アームストロングを視認していた。

「アメリカの航宙艦です...!KGB(国家保安委員会)からは聞いていましたが建造がここまで早いなんて...!」

ガガーリン艦長アンドレイ・モロゾフ大佐は驚愕する射撃員を無視して淡々と指示を出す。

「照準ポッド、アメリカ艦にロック」

それを聞いた射撃員は急いで機器を操作する。

「はい!照準完了。指示があれば何時でも撃てます。発射致しますか?」

1MWの出力のCO2(炭酸ガス)レーザー4基が照準に合わせてニール・アームストロングに向く。

「…発射は保留だ。通信員、モスクワへ中継開始。指示を仰げ」

一方その頃、ニール・アームストロングでは。

「リード艦長、ソ連航宙艦より照準ロックを受けました」

「反応あるか?」

「いえ、ただ確実に我々を狙っています...」

ケビンは、一拍だけ沈黙する。

そして命令を下す。

「こちらもロックする。照準ポッドをあれに合わせろ」

ニール・アームストロングも照準を合わせ、DF(フッ化重水素)レーザー3基をガガーリンに向ける。

「先制攻撃しますか?」

「いいや。俺たちは勝手に撃たない、地上管制に連絡を取れ」


同日、アメリカ合衆国 ケネディ宇宙センター管制室

「ニール・アームストロングAC-1より通信!」

NASA管制官が叫ぶ。定期連絡以外での通信を受けて静寂だった管制室は騒然とする。

「内容は?!」

「ソ連側の航宙艦と邂逅、照準ロックを受けているとのことです!」

「何だと!?今すぐペンタゴンと連絡を取れ!これは航空宇宙軍の管轄だ!」

ケネディ宇宙センターから転送された通信はバージニア州アーリントン郡のアメリカ国防総省ペンタゴンが受信する。

「何?ソ連の航宙艦と互いに照準してるだと?」

「CIAの報告にあったガガーリンだろう」

「撃ったら戦争だぞ...」

航空宇宙軍(USSF)の上層部は考えあぐねていた。

「先に撃たれたら終わりだぞ」

「だがこちらが先に撃っても終わりだ。向こうが照準を解除するまでこちらも狙い続ければ良い、拮抗状態を作るんだ」

ペンタゴンの決定は即座にケネディ宇宙センターを通じてニール・アームストロングに通達される。

「艦長、返答がありました。「交戦不許可、照準ロックは維持。絶対に撃つな。」とのことです」

「了解だ、良い判断だな」


同日、ソビエト連邦 バイコヌール宇宙基地

「ガガーリンより通信です。アメリカ航宙艦と邂逅、現在相互照準中とのことです」

「何...?KGBの報告だと今年いっぱいは完成しないと考えられてたはずでは...」

「いかがいたしましょう...?」

「照準はそのままに向こうから撃ってこない限りはこちらも撃たないよう指示しろ。それと、可能な限り写真を撮っておくよう伝えろ」


邂逅から20分、宇宙の静寂が全てを支配していた。

両艦の中では機器が規則正しく動作する音だけが響き、乗組員が固唾を飲んでお互いの艦を見つめ合っていた。

依然として米ソ両国の艦はお互いを狙っている。射撃員は震える手で発射ボタンを握っている。

それは、撃つ準備が整っているという事だ。

しかしどちらもそのボタンを押すことはなかった。

「モロゾフ艦長、アメリカ艦の逆スラスター起動を確認。離脱していきます」

「記録は十分行った。こちらも離脱するぞ」

モロゾフはニール・アームストロングが見えなくなるまで窓を見つめ続けた。

「向こうも離脱していきますね」

射撃員の声でケビンは肩の力を抜き、深く呼吸をする。

「…撃たなかったですね。向こうも」

後方に座る副操縦士が呟く。

「撃てなかったんだ。俺たちも、あいつらも」

「なぜだと思います?」

「もう世界大戦なんてしたくないんだろう。ソビエトもアメリカも」

後退していくガガーリンの姿を見つめながら返事をした。

無重力のその空間には、先ほどまで引き金の重さと、命令の重さが確かにあった。

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