第一章 一話 前作の秩序
人を駄目にするクッションに沈んで、ダラダラとテレビを眺める。
私は“光陽 柊“ 女子中学生 名前が男子みたいってよく言われてたけど自分じゃ結構気に入っている。
訳あって学校には行ってない。今の職業は学生じゃなく家事手伝いである。自宅警備と言おうと思ったが、そう名乗れるほど体力がないのでやめておいた。
リモコンを手でもてあそびながら、テレビに見入る。
今放送中の番組はギリシャ神話の特集である。
別に厨二病とかいうわけではない。断じてないが。母親が適当に借りてきた書籍にギリシャの神々が出てきていてそれが絶妙に面白いのだ。
神々というとすごく神聖で滅多にお目にかかれない、まさに偉大な存在。っと感じるだろうが、ギリシャ神話の神々と言ったらものすごく人間味があるのだ。
浮気をするし、戦争もする。苛立つし、悲しむし、嫉妬する。
みていてとても面白い。
今日の特集は、太陽神“アポロン“が主役だ。
彼は、全知全能の神と名高いゼウスの息子。若い男性の姿で、竪琴を弾いている姿がよく知られている。音楽や芸術の神としての役割も担い、明るく理知的なギリシャ精神を代表する神とされている。
こういえばすごく権威がありそうな知的キャラに見える。けれど実際には、勘違いを起こすし、女難の相がある。容姿端麗青年が必ずしも物凄実力者とは限らない。
クッションの横に設置していたサイドテーブル。卓上からジュースをとって飲んだ。アセロラジュース(^^)
一応言っておくが、家事手伝いのサボりをしているわけではない。
洗濯物はもう取り入れて畳んであるし、飼ってるインコの餌だって適量で美味しいものをあげているし、部屋の掃除もした。何よりすすんでやっているし。母親の苦手科目をやっているだけだ。いわば協力してテストを解いているようなもの。
柊がなぜ引きこもるようになったかというT…
「ただいま 柊 ちょっと手伝って!」
玄関から母親がよぶ。購入品を運び込むのを手伝って欲しいらしい。
柊はすばやく特集の録画を開始し、クッションから思い腰を上げる。この“人を駄目にするクッション“効果が凄まじく強い。
「おかえり〜 貰うよー」
母親から買い物袋を二つ受け取り、素早くキッチンへ持っていく。
たくさんの食べ物やなんやらを正しい場所へ入れていく。
あっという間に冷蔵庫がいっぱいになる。
私には2人の兄がいて一番上は大学二年、二番目は高校三年生。さらに父親も入れて5人家族である。
母親は毎週金曜日に買い出しに行く。
「ありがとう助かるよ柊」
どういたしましてと言って私はジュース類を片付けに行く。
「今日ハンバーグでいい?」
「いいよー」
母親は料理が得意だ。柊の何倍もうまい。
柊は母親が好きだった。
母親は、柊が登校を拒否したり、部屋から出てこない日があったりしても何も聞かずにそっとしておいてくれた。父親とは違い、無理に聞き出そうとせず、柊が自分から何かをいうのを待ってくれてる。
柊が家から逃げ出さないのも、母親の存在が大きい。
引きこもってから柊は変化を恐れるようになった。
大抵の人間は無意識に変化を恐れ、保つために変化していく。
だが柊は目に見えてわかるほどに変化を恐れている。慣れ親しんだ環境や行動パターンに安らぎを覚えている。
柊は毎日家事を繰り返し、母親にお礼を言われて、安心してを繰り返している。
“不変は居場所を奪う。 変動するもののみが真の世界を知る“
(どこの誰だか知らないけれど、嘘は教えちゃいけない)
変化しなくても生きていける。五年前からそうしてきた。
不変である柊だからこそ言えた。
“変化は不要。変化を強制する場所からは逃げてしまえばいい。“
私の居場所は家にある
15歳 引きこもり“光陽 柊“は不変のものである