第75章 死線の邂逅 Part.1
この章では、戦火に包まれた遊園地での極限状態が描かれます。
爆発音や銃声が響き渡る中、渡瀬と佑梨が必死で逃走する様子を軸に、複数のキャラクターたちの運命が交錯します。
笑顔を絶やさない佑梨、冷静に状況を判断する冴姫、仲間を守るために奔走する大海と香菜子、そして謎めいた斎藤の存在――。
それぞれの思いと行動が危機的状況の中でぶつかり合い、物語は新たな展開を迎えます。
爆発音と銃声が、焼け焦げた空気と共に遊園地を包み込んでいた。
瓦礫と煙が立ち込める中、渡瀬は必死に佑梨の手を引き、走り続けていた。
「延藤さん……麻倉さんを助けに行ったけど……大丈夫なのかしら?」
走りながら、渡瀬の頭には真緒の姿が焼き付いて離れなかった。
「本当に……良かったのかしら……」
しかし今は振り返る余裕すらない。
背後から銃声が次々と追ってくる。
ダダダダダッ!――
サブマシンガンの乾いた音が響き、弾丸が足元に着弾する。
土煙が舞い上がり、コンクリートが弾けた。
「バンバン! バンバン!」
佑梨は無邪気な声で叫び、足元の火花を面白がるように跳ねる。
「佑梨ちゃん、ふざけてる場合じゃないの!」
渡瀬は叫びながらも、必死でその小さな手を握り締めた。
心臓が早鐘を打つ。振り返る暇もなく、ただ前へ、前へと足を動かす。
(どうして……こんな状況で……笑ってるの?これも……)
渡瀬は心の中で叫びながら、最初に遊園地へ侵入した工事中のフェンスを思い出していた。
「フェンスまで逃げられたら……!」
だが、運命は非情だった。
キュンキュン!――
再び弾丸が足元に降り注ぎ、火花と共に進路を阻んだ。
ドーンッ!――
爆音と衝撃に体が跳ねる。
「くっ……!」
渡瀬と佑梨は進路を変えざるを得なかった。
「別のルートを……」
その瞬間——
ズパッ!——
佑梨の右足首を弾丸がかすめた。
血が噴き出し、地面に赤い飛沫が広がる。
「佑梨ちゃん!」
渡瀬は振り返り、絶望的な叫び声を上げた。
しかし——。
「ん?」
佑梨は首を傾け、不思議そうに自分の足を見下ろした。
出血しているのに、痛みはない。そのまま平然と走り続けた。
(痛くないの……?)
渡瀬は愕然としながらも、再び佑梨の手を引き、逃げ続けた。
血が地面に点々と残るが、佑梨の表情は無邪気なままだ。
後方から怒号が飛ぶ。
「バカモノ! クローンを撃つな!ちゃんと追い詰めろ!」
「了解!」
その言葉が渡瀬の耳に刺さった。
(クローン……を撃つな?)
走りながら考える余裕などないはずだった。
それでも、渡瀬の脳裏に不穏な予感が広がっていく。
(……やはり……Dを?)
炎や瓦礫の中を駆け巡り、出口を求めて走る。
すると、その先に小さな倉庫らしき建物が現われた。
渡瀬は少しホッとし、呟きを漏らす。
「隠れられるかも……」
佑梨を引く手に力が入る。
そして、足を更に速めた。
「ここっ!」
ズシャ!——
そして、角を曲がった瞬間、前方に見慣れた顔が現れた。
渡瀬は驚きの声を上げた。
「えっ!?」
「渡瀬先生!小河さん?」
冴姫の鋭い声。
「明智さんに、羽柴さん!」
渡瀬は驚きの声を上げた。
佑梨は無邪気な声を上げる。
「わーい!ニゲルニゲル!タノシイ!タノシイ!」
渡瀬と佑梨の目の前には冴姫と香菜子、大海がいた。
そして、大海の背には斎藤が抱えられていた。
斉藤は抱えられたままで、ぐったりとしていた。
意識が無いのは明らかだった。
渡瀬はさらに驚く。
「斎藤くん?どうして一緒なの?」
大海が斎藤を抱えながら言う。
「事件に巻きこまれたみたいなんだ。俺たちと同様にな。」
冴姫は鋭い目で状況を一瞬で把握する。
「追われているんですか?」
香菜子が物陰から顔を出し、そして振り返る。
「カナたちも逃げてる最中なんだよ。それに……」
すると、重い足音が複数近づいてくる。
ザッ!ザッ!ザッ!——
渡瀬が強く言う。
「逃げないと!」
香菜子が言う。
「あいつらね!」
冴姫は冷静な口調で言った。
「小河さんもケガをしているし……斎藤くんも……ここはまずは身の安全を確保しないと……」
渡瀬は周囲を見渡しながら、心の中で思う。
(麻倉さん……延藤さん……私たちは、まだ走り続けなきゃいけないのね。)
「こっちです!急いで!」
大海が叫ぶ。
渡瀬は頷き、力を振り絞って佑梨を引き寄せ、仲間たちの元へと駆け寄った。
炎と煙に包まれ、銃声が響き渡る遊園地。
渡瀬たちは瓦礫の間を必死に駆け抜けながら、息を切らしていた。
「皆はどうしているの?」
渡瀬が不安げに問いかける。
「わからないんです。みんなはぐれてしまって……」
冴姫が険しい表情で答える。
「俺たちも必死で逃げてて……」
大海が斎藤を背負いながら呟く。
その背中には重みと責任がのしかかっていた。
「キャハハ!ニゲル!ニゲルーッ!」
佑梨は無邪気に笑い、状況の深刻さをまるで感じていない。
香菜子はふと大海に背負われている斎藤の顔を見つめながら、囁くように呟く。
「ショーゴ君……なぜ遊園地に……」
冴姫は周囲の状況を確認しながら答える。
「絵を描いてたのは間違いないみたいだけど……」
大海は斎藤の重みを感じながら、苦しげに言う。
「けどさ、なぜあんなものを?」
香菜子はポケットから小さなUSBメモリを取り出し、それを見つめながら呟く。
「ショーゴの……USBメモリ……なんでだろう?」
渡瀬は斎藤の顔とUSBメモリを交互に見つめ、確信めいた声で呟く。
「斎藤くん……持っていたのね……」
その言葉に、一同が一斉に佑梨を見つめる。
「えっ?」
「キャハハ!キャハハ!」
無邪気な笑顔を浮かべる佑梨の存在が、再び沈黙の中で浮き上がっていった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
第75章では、追い詰められた中での人間模様や、キャラクターの強さ・脆さを描くことを意識しました。
佑梨の無邪気さや、香菜子たちの葛藤、そして渡瀬の母性的な一面が浮き彫りになったかと思います。
また、斎藤のUSBメモリや“クローン”というワードも、本章以降の大きな伏線となります。読者の皆さまの予想や想像が膨らむような章であったなら幸いです。今後の展開もぜひご期待ください。




