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第72章 死線突破 Part1

観覧車の悲鳴にも似た軋み音が、終末の鐘のように響き渡る。

追い詰められたひなたたちの前に立ちはだかるのは、数に勝る特殊部隊と、崩れゆく鉄の巨塔。

守りきれるのか。救えるのか。そして、逃げきれるのか。


京子の負傷、恭二と柑奈の戦線離脱、真緒の意識不明、迫る観覧車の崩壊。

次々と迫る絶望のなか、思わぬ声が戦場に響く——。


「真緒―ッ!助けにきたでーっ!」


その声は、死線に立たされた一同の心に、再び火を灯す。

魂と魂が衝突する、“突破”の刻が来た。

観覧車の軋む音が、一層大きくなっていた。


ギギギ……ギギギギ……。


巨大な鉄の塊が、ゆっくりと彼らの逃げ道を塞ごうとしている。


火花を散らしながら崩れていく遊園地の景色。

ひなた、京子、亮、恭二。

四人はテント布に乗った真緒を支えながらゆっくりと、だが必死で進んでいた……。


その先には行手を阻む特殊部隊たち。


「おじさん!援護して!」

先頭に立つ柑奈が鋭く叫んだ。

汗を拭う暇もなく、彼女は拳銃を構えて先頭を走る。


キュンッ!――


「熱っ!」

 

銃弾が柑奈のすぐ横をかすめ、頬に熱を感じた。

「おじさんっ!早く!」

柑奈の拳銃から閃光が走る。


バンッ!バンッ!―― 

 

銃弾が敵の防弾ベストを弾き、火花が散る。


そして、その背後には――。

「くそっ……!片手では狙いが定まらん!」

恭二が悪態をつきながら、右手で銃を構え、左手で真緒の重みがかかるテント布を支えているため、狙いが定まらない。

「マルサーでもこれは当たらん……」


「撃てーっ!」

特殊部隊の声が響いた。


ダダダダダダ――!


サブマシンガンの連射音が耳をつんざく。


バキンッ!――


ガラスが砕け散る音、コンクリートに弾丸が突き刺さり、土煙が舞い上がる。


「きゃっ!」

ひなたが咄嗟に頭を低くし、銃弾を避ける。


その瞬間――。


バシュッ!――


「きゃあっ!」

京子の肩が大きく揺れ、上着が裂ける。鮮血が滲み出た。

手がテント布を離れ、張りがゆるんだ。


「京子!」

「京子ちゃん!」

ひなたと亮が同時に叫ぶ。


恭二も咄嗟に叫んだ。

「布を引っ張れ!落下する!」


ひなたと亮は我に返り、咄嗟に布へ力を込めた。

「はっ!」 


ビンッ!――


「よかった……」

「麻倉さんを落とすところだったわ……」

「ところで、京子ちゃんは?」

「大丈夫?京子?」


「痛っ……! でも……大丈夫……走れる……っ!」

肩に鋭い痛みが走るたびに、息が詰まりそうになる。

 

(でも、立ち止まれない。今ここで止まったら、皆が危ない……。)

 

京子は肩を押さえながら、必死に足を動かす。

だが、震える手が痛みに耐えているのが明らかだった。


「京子ちゃん!無理するな!」

亮が声を張る。

「行くしかないでしょ!」

京子が息を切らしながら叫ぶ。


恭二は、京子の傷に気づいた瞬間、表情を変えた。

「柑奈!援護を頼む!」

そう叫ぶと、彼はテント布からゆっくりと手を放った。

テント布はスローモーションのように軟着陸する。

だが真緒は目を覚さない。


恭二は、真緒と京子へ交互に目を移した。

片手の拳銃をしっかりと握り直す。

「……もう二度と……やらせん!」


「恭二さん!?」

ひなたが驚愕の声を上げる。

「逃げるんだ!布を引きずれ!ここは俺が止める!」


そして、恭二はすでに体を翻し、特殊部隊に向かって突撃していた。


タタタタタッタッ!――

 

走りながら素早く拳銃(マルサーP99)を連射する。


バンッ! バンッ!――!


「OK! おじさん!(キターッ!)」

柑奈が叫び、次々と応戦しながら恭二を援護する。


「行くわよ、亮!」

「おうっ!京子ちゃんもしっかり!」

ひなたと亮は、京子を伴いながら、真緒の乗るテント布を地面に引きずるように動かし始めた。


ズザザッ――!


「くそっ……京子ちゃん、大丈夫か!?」

亮が息を切らしながら問いかける。


「大丈夫……! でも、早くしないと……!」

京子は肩の痛みをこらえながら、必死に足を動かした。

観覧車が更に少し傾いた。

闇のような巨大な影が、まるで捕食者のようにじわじわと彼らを包み込もうとしていた。


一方、恭二は敵陣に向かって猛然と突っ込む。

「くらえっ!」


バンッ! バンッ! バンッ!――!


特殊部隊の一人が銃撃に倒れる。

「敵だ!応戦しろ!」

「一般人じゃないぞ!」

しかし、その背後には次々と増援が現れる。

恭二と柑奈は悪態をつく。

「くそっ!多すぎる!」

「近接戦に持ち込んで!」


恭二は腕時計のベゼルを回すと、時計から小さな鍵爪が出現した。

そして、時計をしている左手を上空に突き出す。

「行くぞ!」


キュルルル……ガチン!


時計からワイヤーが射出され、先端の鉤爪が街灯の柱にひっかかる。

急速な勢いでワイヤーが巻き上げられ、恭二は宙を飛ぶ。

「相手してやる!」


その後、恭二は空中で身を翻し、特殊部隊たちのいる場所の真ん中に着地した。

「な……なんだこいつは……!」

特殊部隊の一人が、思わぬ突然の接近に一瞬身を固くし、呟いた。

続いて特殊部隊たちが、一斉に恭二へ振り返る。

「近すぎる!接近戦に切り替えろ!」

 

恭二はニヤリと笑い、拳銃を構えた。

「持ち込んだぞ!柑奈!援護射撃をくれ!」

「OK!援護するわ!おじさん!」

柑奈が即座に応じ、銃撃を開始する。

「おじさんじゃない!任務中だ!」

「はいよ!」


特殊部隊たちに怒号が飛び交う。

「同士討ちになる!迫撃砲は使うな!」

「素人じゃないぞ!NPSO(国家保安機構)か!」

「遊園地で謎の二人組と交戦中!相手は拳銃を持っている!」

「ベータ部隊の応援がこっちに向かっている!クローンを何とでも確保しろ!」


バンッ!バンッ!――

 

遊園地に銃撃音が再びこだまし始めた。


そして、観覧車の軋み音はますます大きくなっていった。


ガキンッ!――


観覧車から大きなボルトが数本落下し、コンクリートを砕いた。

それは銃撃音や混乱の声に紛れ、誰にも気づかれる事はなかった。


そして、恭二と柑奈から徐々に離れていくひなたたち。

京子が肩を押さえながら、震えた声で叫んだ。

「ひなた、早く!」


(逃げないと……逃げなきゃ……! でも、みんなや……麻倉さんを置いて……そんなの嫌だ!)

真緒の意識は戻らず、ただうわごとを繰り返していた。


「叔母さまの……過ちを……叔母さまの……」


その時、観覧車が大きく揺れた。


ギギギギギギギ……!


さらに大きく傾き、鉄骨の軋む音が鼓膜を揺さぶる。

「倒れるっ……!」

「京子ちゃん!ひなた!」

「まずい!」


鋭い叫びが響く中、観覧車の支柱が折れ、ゆっくりと迫る鉄の輪。光を遮り、影が彼らを呑み込もうとする。

鉄骨の軋む音が耳をつんざき、逃げる彼らの背後に巨大な影が覆いかぶさってきた――。


「真緒―ッ!助けにきたでーっ!」


その声に全員が驚き、振り返ると、必死で向かってくるのぞみの姿があった。

彼女は、真緒を見捨てることができずに一人で戻ってきたのだ。


「速っ!」

京子が思わず叫ぶ。


「延藤さん?」

亮が信じられない表情を浮かべる。


ひなたの目は大きく見開かれた。

「嘘っ……」

本章は、シリーズ屈指の緊張感と密度を誇る、**「逃走のクライマックス前編」**です。

敵の銃弾だけでなく、倒壊する観覧車という“物理的終末”が迫る中で、それでも前に進もうとする仲間たち。

この場面で描かれるのは、体力でも戦術でもなく「心の耐久力」でした。


特に、


恭二の覚悟ある“離脱と戦線投入”


柑奈の支援射撃による立場の暴露


京子の傷を抱えての奮闘


真緒のうわごとが語る、過去と“D”の謎


そして、のぞみの劇的な帰還


誰一人欠けても成り立たない構成で、まさに「命と絆」が試される章となりました。


次章「Part.2」では、物理的な限界と心理的な突破の双方にさらなる山場が訪れます。のぞみの決意と行動、そして“観覧車の運命”が、物語に新たな局面をもたらすでしょう。

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