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第6章 あかつき市の朝焼け。京子の場合(2025年2月8日改稿)

※2025年2月8日に改稿を行いました。


『私立あかつき学園 命と絆の奏で 学園エスピオナージサーガ』をご覧いただきありがとうございます。


この物語は、青春の一瞬一瞬に秘められた絆と、陰謀が絡み合う学園ドラマを描いた作品です。

今回の章では、主人公の一人、京子がひなたとの友情を振り返りながら、二人の出会いとその特別な瞬間に思いを馳せる描写を中心に展開しています。


学園の平和な日常と裏に隠された緊張感、友情の温かさとその裏に潜む葛藤……。本作は、そのような様々な要素が交錯する物語です。

ひなたと京子が織り成す絆の物語を通して、読者の皆様にも青春の甘酸っぱさとスリルを楽しんでいただければ幸いです。


では、物語の続きをお楽しみください。

朝の静けさに包まれた霧島タウン。窓から差し込む日差しが、京子の瞼を優しく照らした。

「いつの間にか寝ちゃったわ……」

ふと目を覚ました京子はベッドの中でしばらくぼんやりしていた。

昨夜、ひなたと交わしたメッセージのやりとりが頭に浮かび、口元に微笑みが浮かぶ。


京子はベッドを抜け出し、朝食のトーストを焼き、目玉焼きを作り始めた。

ワンルームの小さなキッチンで小さな音を立てながら、昨夜のことを静かに振り返る。

「懐かしいわ……。ひなたがいなかったら……。」


遠く離れていても、画面越しに感じるひなたの存在が温かくて、京子にとってとても大切なひとときだった。

ふたりで過ごす夜のメッセージ交換は、何気ないけれど、心が穏やかになる時間。

いつも元気で、明るい言葉を返してくれるひなたに、京子は感謝の気持ちでいっぱいだった。


ひなた:「今週もお疲れ様!」


京子:「ありがとう」


自然に気持ちが和むひなたの返事に、京子も思わず微笑んだ。そして、いつの間にかメッセージのやり取りが夜更けまで続いていった。


やがて京子は、ひなたのことを思い、少し真剣な話を切り出した。


京子:「小河さんのこと……つらいよね。でも、ひなた、私がついてるから」


ひなた:「ありがとう、京子……」


画面越しに伝わる、ひなたの静かな感謝。その言葉に、京子の胸がじんと温かくなり、勇気を出して、もっと自分の気持ちを伝えたくなった。


京子:「ひなた……本当にありがとう。友達になってくれて」


しばらくして、ひなたからの返事が画面に現れた。


ひなた:「京子こそ、あの時は……命を助けてくれて……大事な親友だよ!」


京子の胸は喜びで満たされた。

「親友」と呼んでくれたことが、彼女にとって何よりの救いだった。

メッセージが途切れても、京子の心はひなたとの友情の余韻に満たされ、夜の静寂に包まれながらいつの間にか眠りについていた。


京子は焼きたてのトーストにバターを塗り、目玉焼きを一口食べながら、ふとあの春の日を思い出していた。

 

―2017年の4月、あかつき学園―


入学式が終わり、春風に舞う桜の花びらが京子の心を揺らした日のこと。

京子は新しい制服に身を包み、校庭のベンチにひとり腰を下ろしていた。


どこか馴染めない、ひとりきりの寂しさが心を包み、彼女は小さな声で呟いた。

「やっぱり、私には友達なんてできないのかな……」


京子の頭の中には、不安が溢れていた。

彼女の心の中に、いくつもの過去への思いが交錯していた。

「丹羽牧師……」

「礼司くん……わたし……」


そのとき、遠くから京子を見つめていた一人の少女がいた。

京子と出会う前のひなただった。ひなたは何人もの生徒に取り囲まれながら歩いていた。

 生徒たちがひなたに様々な言葉をかける。

「可愛いね!友達になって!」

「女優の金森葵だ!しかも同い年?」

「似てるね!小さいけど……。」

「いい笑顔!」


ひなたは生徒たちに笑顔で応じながらも、内心辟易していた。

「なんなの?金森葵……葵、葵って……。もう、うんざり……」

そんな思いを抱くひなたの目に、ベンチで一人佇む京子の姿が飛び込んだ。

「……あの娘……なんで一人なのかな……。」


生徒たちは、そんなひなたに構わずに次々と声をかけ、勝手なやり取りが続く。

「ねえ!今度「君と時空の彼方」に出るんでしょ?」

「だから、それは本物だろ?」

「可愛いのは一緒じゃん!」


そんな声は、ひなたの耳に入らなかった。

彼女は京子を見つめながら、思いを巡らせる。

「私とは……違うのかな?」

ひなたは、一人でうなづくと、取り囲む生徒たちの間を潜り抜け、走り出した。

 

生徒たちが少し驚く。

「碧唯さん!?」

「アカチャ教えてよ!」

「どこ行くの!?」


ひなたは走りながら彼らに振り返った。

笑顔で答える。

「ごめん!ちょっと気になるの!」

生徒たちを置き去りにして、ひなたは京子の座るベンチまて駆け出した。


そして、ベンチから少し離れた場所で足が止まる。

ひなたは一呼吸して、京子を見つめた。

京子は考え続けているばかりで、ひなたには気づいていないなかった。

 

ひなたはつぶやく。

「気になるわ……行ってみよう……」

そして、ゆっくりと彼女のもとへ歩み寄った。


「こんにちは!」

明るい声で話しかけるひなたに驚き、京子は顔を上げた。

彼女の無邪気な笑顔が、まるで温かい太陽のように心に差し込んだ。

「私……碧唯ひなた。あなたは?」

「……土師京子……。」


ひなたは京子にゆっくりとした口調で話しかける。

「どうして一人でいるの?」

彼女の優しい問いかけに、京子は少しうつむき、ためらいがちに答えた。

「……友達ができなくて……みんな楽しそうだけど、私には……」


「そんなことないよ!」

ひなたは力強く言った。

「私も最初は不安だったけど、みんな優しかったよ。だから、土師さんも大丈夫だよ!」


そして、一瞬の間があり、ひなたは少し苦笑しながら、自らの言葉をつなぐ。

「比べられるのは……嫌だけどね……」


京子はひなたの言葉に、疑問を感じて質問を返した。

「嫌なこと?」


ひなたは、苦笑の表情で言葉を紡ぐ。

「金森葵……葵、葵って、言われて……うんざりなの。」

 

京子は不思議な表情に変わり、ひなたを見て言った。

「金森葵……?」

「知らないの?」

「いや……知らない訳じゃないけど……有名女優だし……」

ひなたは京子の意外な反応に、戸惑いながらも、質問を返す。

「じゃあなぜ?」


京子は、ひなたの顔を見つめて言った。

「……似てないと思う……私は……」

「えっ!?」

「けど……その笑顔……うらやましい……」


ひなたは心に電流が走る様な感覚に襲われた。

入学して、初めて聞く京子からの言葉に目が醒まされる思いだった。

ひなたは京子を見つめながら、何かを確信した。

「この娘なら……」

そして、意を決し、ゆっくりと口を開いた……。

「土師さん……?」


「?」


「じゃあさ、試しに私と話してみない?」


「えっ……?」

 

そして、ひなたがにっこりと微笑んだ。

「私と友達になりませんか?」


「!」

今度は京子に電流の様な感覚が襲った。

彼女を悩ませていたものが、振り払われるようだった。

 

「土師さん……?」

そこにひなたの優しい問いかけと笑顔が重なる……。

 

京子は驚き、言葉を詰まらせながらも、小さく微笑んでうなずいた。

「……本当に、いいの?」


「もちろん!土師さんが友達になってくれたら、すごく嬉しいよ。ね、まずはお互いのことを少しずつ教え合おう?」


その言葉に京子は胸が温かくなった。

「ありがとう。よろしくね、碧唯さん」

そっと手を差し出した。

「こちらこそ!土師さん!」

ひなたは手を取り、そっとその手を握り返した。

二人に笑顔が溢れる……。


そのとき、校舎から授業開始のチャイムが鳴り響いた。

「碧唯さん!ありがとう!」

「土師さん!また後で!」

ふたりは教室へと戻った。

初めて芽生えた友情が京子の胸を満たし、あの瞬間が彼女にとってかけがえのない宝物になったのだった。


―そして、現在。京子のワンルーム―


京子は目の前のトーストに手を伸ばしながら、ひなたの存在がどれほど大切かを改めて感じていた。

そして、小さく呟いた「ありがとう、ひなた」

朝の温かな日差しに包まれた一人の食卓で、トーストの香りに包まれながら……。


だが、京子の心に拭い去れないものがあった。

「ひなた……大丈夫かな……小河さんのこと……。」



最後までお読みいただき、ありがとうございます。


今回の章では、京子の内面に焦点を当てながら、ひなたとの出会いを振り返る形で物語を進めました。

日常の静けさの中に浮かび上がる友情の温かさ、それに隠された葛藤や不安を描くことで、二人の絆がどれほど大切なものであるかをお伝えできたのではないかと思います。


物語はここからさらに深まり、京子やひなたたちが直面する試練が描かれていきます。

青春の日常に隠された「学園エスピオナージ」のスリルを、ぜひこれからも楽しんでください。


皆様の感想やご意見は、私にとって大きな励みとなります。ぜひコメント欄でお聞かせいただけると嬉しいです!


次回もお楽しみに!

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