第68章 閉ざされた日常
絶え間ない銃声と爆発が響き渡る中、遊園地はもはや地獄と化していた。
倒壊したアトラクション、燃え上がる花壇、逃げ惑う人々――。
そんな混沌の中、冴姫、大海、香菜子とは別行動を続けるひなたたちは、瀕死の真緒の命を救うため、懸命な応急処置に挑んでいた。
一方、遊園地外では、NPSOの指揮官・ローレンス足利(L)が到着。
自衛隊、警察と協力し事態の鎮圧に乗り出すが、敵は高出力EMPという新たな手を繰り出し、通信を遮断。
ヘリの墜落という最悪の事態が追い打ちをかける。
敵の冷酷さと周到さに対し、Lたちはどう立ち向かうのか。
そして、真緒は生き延びることができるのか――。
希望と絶望が交錯する中、運命の選択が迫られる。
混乱の中、さらに緊迫感が高まる遊園地では、警官隊とファウンデーションの特殊部隊が激しい銃撃戦を繰り広げていた。
「応戦しろ!囲むんだ!」
警官隊指揮官が怒声を張り上げる中、銃声と悲鳴が絶え間なく響く。
周囲には破壊されたアトラクションや炎上する屋台が散乱し、空気は煙と焼け焦げた匂いに満ちていた。
―その頃、遊園地の外側―
一方、遠くから聞こえていた重低音の轟音が次第に近づいてくる。
遊園地の入り口には装甲車が到着し、武装した自衛隊員たちが次々と降り立った。
「遊園地内部へ突入する!慎重に行動しろ!」
自衛隊隊長が冷静に指示を飛ばし、装甲車から降りた隊員たちが隊列を組んで遊園地内へと進行していく。
さらに上空には、自衛隊のヘリコプターが旋回し、周囲の状況を監視していた。
だが、それだけではなかった。
少し遅れて、数台の黒いワンボックスカーと1台の高級車が遊園地入り口に到着した。
ワンボックスカーからは黒い戦闘服を着た男たちが無言で降り立ち、すぐに警戒態勢に入る。
そして、高級車の後部座席から一人の男が姿を現した。
彼は端正な顔立ちに冷徹な表情を浮かべ、黒いロングコートを羽織っている。
「ミサイルなど……撃たせない。」
男は静かにそう呟きながら、自らの部隊に手を振り指示を出す。
その男こそ、NPSOの作戦指揮官 L だった。
Lはすぐに警官隊と自衛隊の指揮官たちへ歩み寄り、迅速に挨拶を交わす。
「NPSOのローレンス足利です。状況を確認し、直ちに作戦を立てます。」
警官隊の隊長は汗を浮かべながら答えた。
「白影署の小早川であります。応援はありがたい。しかし、敵の装備は予想以上です。火力も多く、警官隊だけでは……」
「郡真地方協力本部より派遣されてきました。弓家であります。本隊がこちらに向かっておりますが、戦力が……自衛隊も対応に限界があります。」
弓家が続ける。
Lはその言葉を聞き、眉間に皺を寄せた。
「迅速に事態を収束させるため、我々と協力していただきたい。今は被害を最小限に抑えることを最優先とする。」
「了解した。」
小早川と弓家はすぐにLと作戦会議を行おうとするが、その時だった。
「無線が通じません!」
隊員の一人が焦りを滲ませた声で報告する。
「私の通信機も……」
別の隊員も無線機を操作しながら首を振る。
Lは不審な気配を察知し、すぐに空を見上げた。
「L、上空のヘリが……」
部下が指差した先では、警察や消防、マスコミのヘリが不自然な動きを見せていた。
「おい、あの動き……なんだ……?」
弓家が驚愕の声を上げた瞬間、数機のヘリが制御を失い、次々と降下を始めた。
「退避ーっ!退避せよ!」
弓家と小早川がほぼ同時に叫び、周囲の隊員たちは一斉にその場を離れ始める。
ゴオォォォッ――!
空から墜落してきたヘリは、遊園地内の建物や敷地に激突し、激しい爆発を起こした。
衝撃で地面が揺れ、炎と黒煙が立ち上る。
「くそっ!EMPか!」
Lが吐き捨てるように言った。
その声は、爆音と混ざり合いながらも周囲に響いた。
「敵は高出力のEMP兵器を使用している可能性が高い。」
部下が冷静に報告を続ける。
Lは歯を食いしばり、状況の厳しさを改めて認識した。
「これでは外部との通信も……支援も……望めない……だが、まだ終わりではない。我々のやるべきことは変わらない!」
Lは再び隊員たちに向き直り、冷静かつ力強く指示を出した。
「各隊は周囲の民間人を保護しながら、敵を排除する準備をしろ。通信が使えない以上、視覚と合図で連携を取るんだ!」
隊員たちは次々とLの指示に従い、それぞれの持ち場へと散っていく。
「……麻倉博士め。ここまで用意周到だったとはな。」
Lは遠くの炎を見つめながら、険しい表情で呟いた。
その時、Lの胸に去来したのは、遊園地内にいるであろう子どもたち、そして一般市民の命だった――。
火に照らされた遊園地は、かつての明るい景色とはかけ離れた、恐怖と混沌の世界へと変わり果てていく――。
―遊園地内―
一方、混乱を極めた遊園地内で、ひなたたちは倒れた真緒を目の前に、消えようとしていた命を取り戻さんと奮闘していた。
ひなた、京子、恭二、柑奈、亮 たちは焦りと混乱の中で、必死に状況を打開しようとしていた。
「麻倉さん!しっかりして!」
ひなたが涙を滲ませながら真緒に呼びかけるも、彼女の意識は戻らない。
「ダメだ……出血が酷い!このままじゃ……!」
亮が震える声で言う。真緒の腹部から流れる血は地面に赤い染みを作っていた。
「なんとかしないと……でも……どうすれば……」
京子も動揺し、今にも泣き出しそうな表情だ。
「本部からの応答は?」
恭二が冷静さを装いながらも、焦りを隠せない声で尋ねる。
「通信が妨害されてる!全然つながらないわ!」
柑奈が苛立ちを滲ませながら答えた。
「……敵はEMPを使ってるのか?」
恭二は周囲の異常な状況に疑念を抱きながらも、今は目の前の救助が最優先だと判断する。
「止血しないと!」
柑奈は冷静に指示を出しながら、手早く真緒の状態を確認する。
「助ける!絶対に!」
その時、ひなたは意を決したように自分の薄手の上着を脱ぎ、手で裂き始めた。
「ひなた……?」
亮が驚いた声を上げる。
「助けないと!麻倉さんを、このままじゃ死んじゃう!」
ひなたの声には決意がこもっていた。
「右脇腹にサブマシンガンの銃創だ……」
恭二が真緒の傷を確認しながら、険しい顔で言う。
「急所は外れているわ……でもこのまま放っておけば……」
柑奈が続ける。
「麻倉さん!麻倉さん!」
京子と亮は必死で声をかけるが、反応はない。
柑奈はひなたに視線を向け、落ち着いた声で言った。
「碧唯さん、協力して!」
「はい!」
ひなたは柑奈の指示に従い、裂いた布を真緒の傷口に当てて強く押さえる。
「強く縛れ!血を止めるんだ!」
恭二が声を荒げる。
ひなたは震える手を必死に抑えながら、柑奈とともに応急処置を施した。
「……お願い、持ちこたえて……!」
やがて、顕著な出血は一旦止まったものの、真緒の意識は戻らない。
息遣いは浅く、青ざめた顔に生気は感じられない。
恭二は腕時計を見ながら真緒の手首を触れ、脈を確認する。
「……脈が弱い。このままでは……」
その言葉に、全員の表情が一層険しくなる。
「もっと安全な場所に運ばないと……けど、敵はまだ……」
柑奈が険しい顔で言いかけた時、遠くからまた銃撃音が響き渡った。
(このままここにいるのは危険だわ……でも、助けるにはどうすればいい?)
一同の焦りは増すばかりだった――。
第68章「閉ざされた日常」では、遊園地という"日常の象徴"が完全に崩壊し、登場人物たちが極限状態へと追い詰められる様子が描かれました。
外ではL率いるNPSO部隊が決死の指揮を執り、EMPによる通信遮断という緊急事態に陥りつつも市民保護を優先。
内ではひなたたちが真緒の命を救うため、涙と決意を胸に応急処置に挑む――という二重構造が、より緊迫感とドラマ性を強調しています。
特に、ひなたの必死の行動と柑奈・恭二たちの連携は、これまでの彼らの成長と絆を強く感じさせる重要な描写となりました。
そして今回、敵が本格的にEMP兵器を用いてきたことで、NPSOとファウンデーションの戦いは、より深く、より過酷なフェーズへと突入します。
次章では、倒れた真緒の安否、香菜子が拾ったUSBメモリの謎、Lの反撃などが物語の焦点となっていきます。




