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第61章 遊園地の遭遇

読者の皆様、いつもお読みいただきありがとうございます!

今回は、物語が大きく動き出す「第61章:遊園地の遭遇」をお届けします。


休職中の渡瀬先生がなぜ、逃亡の末に二階堂ランドに辿り着いたのか。そして、死んだはずの少女・佑梨がなぜそこにいるのか。

追い詰められた状況下で、観覧車を見つめる佑梨が発した「ママ」という一言。

それは、これまでの隠された絆、そして人としての情が試される場面でもあります。


日常の中に忍び寄る非日常。そして、偶然の再会がもたらす真実の衝突。

果たして、彼らは「真実」にどう向き合うのか――。

地下研究所の監視室。薄暗い空間に、複数のモニターが青白く光っている。

画面には、高速道路を疾走する2台の黒いバンとその前方を走るオープンカーが映し出されていた。


「渡瀬め……まだ逃げるのか……?」

画面を睨みながら、天美が低い声で呟く。


その隣で、スーツ姿の志牟螺が腕を組んで立っていた。

「任せて大丈夫なんですか?ここまで手段を選ばないとなると、余計な注目を浴びますよ」


天美は冷ややかな笑みを浮かべた。

「構わん。どうせ、あと少しで全てが終わる……Dさえ手に入ればな」


志牟螺は一瞬だけ天美を睨むが、何も言わず視線を再び画面に戻した。


―その頃の高速道路―


渡瀬はオープンカーのハンドルを握りしめ、アクセルを目一杯踏み込んでいた。


「ここ!」

渡瀬が叫びながらハンドルを切り、車は分岐を通過する。

道路脇の看板には「二階堂ランド 出口」の文字が見えた。


ETC専用通路に差し掛かると、遮断機が行く手を阻む。

「ごめん!持ち合わせがないのよ!」

渡瀬はアクセルをさらに踏み込むと、遮断機を無理やり突破した。


バキッ!――


続いて2台の黒いバンも遮断機を突破し、渡瀬を追走する。


「燃料もあとわずか……この車じゃ目立つし、追いつかれる!」

渡瀬は道端に車を寄せて急停車させた。


「佑梨ちゃん、走るわよ!」

「ニゲル!ニゲル!」

渡瀬は車を捨て、佑梨の手を引いて二階堂ランドの方向へ駆け出した。

「あと少し!ここで紛れられれば……」


そして、二階堂ランドの入り口が見えてきた。

渡瀬は人混みに紛れ込みながら周囲を見渡す。


「入場料……今そんなの持ってない……」

渡瀬は焦りながらも、ちらりと視界に入った看板へ目を留めた。


「工事中?」

 

渡瀬は佑梨の手を引き、人混みから外れる。

「おばさん?どこ行くの?」

「いいから!」

フェンス沿いを歩いていると、一箇所だけ簡単なバリケードで塞がれている場所があった。


「フェンスの……取り替え工事……」

 

工事中のためフェンスの一部が壊れている箇所があった。


「こんなので営業してるなんてね……」

渡瀬は周囲を確認し、隙間を通り抜ける。

振り返って佑梨に手招きした。

「佑梨ちゃん、こっちよ!」


「わーい!楽しそう!」

佑梨は目を輝かせながら渡瀬についていった。


渡瀬が一息ついた。

「ここまでは……追って来れないわね……」

広場のベンチに佑梨と腰掛ける。

「ママ?次はどこにニゲルの?」

「そんなこと……」


その時、横を一組の親子が楽しそうに通り過ぎていく。

幼い男の子が指をさして笑顔を浮かべていた。


「ママ!見て、ジェットコースター!あれに乗りたい!」

男の子の声に、母親が微笑んで答える。

「やっと身長が足りるようになったもんね。一緒に乗りましょう」

その横で父親が笑顔で応じる。

「よし、今日は何でも好きなだけ乗ろうな!」


渡瀬と佑梨の横を親子が通り過ぎる。

佑梨の心の中で、何かが芽生えたような感覚が生まれていた。


(ママ?)


楽しげな会話を耳にした佑梨は、じっとその様子を見つめていた。


そして突然、渡瀬を見上げて言った。

「ママ!ジェットコースター乗りたい!」


「……!」

渡瀬は思わず立ち止まり、佑梨を見つめた。


「今、何て……?」

渡瀬の胸が不意に締め付けられる。


佑梨は無邪気な目を輝かせながら言葉を続けた。

「ママ!あのジェットコースター、楽しそう!」


渡瀬は言葉を失い、目を逸らして深く息を吐いた。

「佑梨ちゃん……ママって……」


一瞬、遠い記憶が頭をよぎったが、すぐに首を横に振る。

「今はそれどころじゃないの!行くわよ!」


「えーどうして?ママーッ!」

佑梨は少し不満げな表情を見せたが、渡瀬に手を引かれてしぶしぶ歩き出す。


―二階堂ランドから3キロ手前の道路―


時を同じくして、二階堂ランドを目の前にして、特殊部隊たちの黒いバンは、渋滞に巻き込まれていた。

「くそっ、これ以上進めない!」

特殊部隊員が苛立ちながら叫ぶ。


「吹き飛ばすか?」

一人がロケットランチャーを取り出そうとするが、部隊長が即座に止めた。

「待て!周囲の人数を見ろ!こんな場所で目立てば、すぐに警察に嗅ぎつかれるぞ」

「クローンを確保してからだ!」


部隊長は部下たちに指示を飛ばした。

「バンを捨てる。ここからは徒歩で行くぞ」

「了解!」

「装備は整えておけ!」

「迫撃砲。グレネード……準備しております!」

「行くぞ!」


特殊部隊員たちは装備を整え、黒い服のまま客の行列に紛れ込む。

「なんだ?今日はイベントか?」

「スタッフかな?」

「へえ、レジデントハザードのモブキャラだよ」

「カメラ!カメラ!」

周囲の人々は不審がるどころか、彼らを「イベントスタッフ」か「コスプレイヤー」と思い込み、写真を撮る者までいた。


―そして、二階堂ランド―


場所は戻り、遊園地の中で渡瀬と佑梨は、周囲の目を気にしながら人混みを歩いていた。

佑梨の目は、観覧車の頂上を見上げたままだ。

「ねえ、ママ!観覧車!乗りたいーっ!」

彼女は指を差し、楽しげに笑みを浮かべる。


「佑梨ちゃん、静かにしてってば!」

渡瀬が困ったように彼女の腕を引くが、佑梨はゴネるのをやめなかった。

「だって、あれ絶対楽しいよ!ママと一緒に乗りたい!」


周囲の視線が集まっているのが、渡瀬にはわかっていた。人々の囁きが耳に届く。

「あれ……あの子、高校生くらいだよね?」

「ママって……ちょっと変じゃない?」


渡瀬は視線を逸らし、俯きながら佑梨を説得する。

「お願い、今はダメ……周りに注目されちゃうから、静かにして!」

「やだ!ママーッ!」

無邪気な声が周囲の人々の注意をさらに引き寄せた。


「先生?」

聞き覚えのある声に、渡瀬が振り返ると、そこにはひなたたち6人が立っていた。

観覧車から降りたばかりのようだ。


「渡瀬先生、休職してるんじゃ……?」

亮が驚きの表情で声を上げる。


「渡瀬先生!」

ひなたも駆け寄り、目を丸くして佑梨を見つめた。

京子も愕然とつぶやく。

「えっ……その子、小河さん……?」


「嘘やーん!こんな偶然あるん?」

のぞみは声を上げ、両手を頭に置いて仰け反った。


真緒も驚きながら佑梨に目を移す。

「驚きですわ……こんなところで……」


「……この娘が小河佑梨……?」

恭二が眉をひそめて佑梨を観察する。


「間違いありません!恭二さん、この子は小河さんです!」

京子が興奮気味に叫ぶと、恭二の表情が険しさを増した。

「……どういうことだ……死んだ人間が?ここにいるなんて……」


渡瀬はハッとして恭二に尋ねる。

「そう言えば……あなたは……」

「今はそれどころじゃない。まずはこの状況を……」

そして、渡瀬が京子に視線を泳がせた時、佑梨が無邪気な声を上げた。

「ママーッ、この人たち誰?」


「ママ!?」

全員の声が揃って響いた。


「どういうことだよ……先生、一体何が……?」

亮が混乱した様子で尋ねる。


渡瀬は視線を逸らし、肩をすくめた。

「……長い話になるわ……」


ひなたがその場の空気を察して提案する。

「ここじゃ落ち着かない。少し場所を変えましょう」


亮がひなたを見つめる。

「ひなた、でも……」


ひなたは毅然とした表情で頷いた。

「みんなが話したいこと、そして聞きたいことがあるみたいだし……ここじゃ人が多すぎるわ」


「賛成ですわ。この状況、長居すべきではありません」

真緒が冷静に話し、全員を促す。


「行きましょう……」

渡瀬が佑梨の手を引き、一行は人混みを抜けるようにして歩き出した。


しかし、佑梨は振り返り、再び観覧車を指差した。

「ねえ、ママ、あれも絶対楽しいよね!」


のぞみが佑梨の頭を軽く撫で、笑いながら言った。

「ええ娘やからな、次の楽しみにとっとこ!」


佑梨は少し不満げだったが、のぞみの言葉に少し笑顔を見せた。

その様子を見て、渡瀬は小さく息を吐いた――。


ひなたは決意をこめて言った。

「行こう……」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


今回の「遊園地の遭遇」では、緊迫した逃亡劇と、束の間の安らぎ、そして衝撃の再会を描きました。

遊園地という場所は、子どもたちの笑顔や家族の絆が象徴的に描かれる空間。そんな中で、佑梨の「ママ!」という呼びかけが、渡瀬の心を揺さぶり、読み手の胸にも何かを残せたなら嬉しいです。


次回以降、彼女たちの関係性、そしてこの一行が直面する「敵の存在」についても、さらに掘り下げていきます。どうぞお楽しみに!

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