第5章 あかつき市の夜の夢。ひなたの場合(2025年2月8日改稿)
※2025年2月8日に改稿を行いました。
いつも作品をご覧いただき、ありがとうございます。今回は、ひなたと京子の絆に焦点を当てた物語をお届けします。二人が共有する過去の出来事と、そこから芽生えた深い友情がどのように現在の物語に影響を与えているのかを描きました。
特に、水泳部での緊迫したシーンや、京子がひなたを救うために懸命に行動する姿は、二人の間にある特別な絆を象徴しています。この出来事が、現在のひなたにどのような力を与えているのか――その部分に注目していただければと思います。
読者の皆さまに、ひなたと京子の友情の深さや、それが物語全体に与える影響を感じ取っていただければ幸いです!
霧島タウンの静かな夜、ひなたと京子はそれぞれの部屋でスマホを手にメッセージをやり取りしていた。
ひなた:「今週もお疲れ様!」
京子:「ありがとう」
遠く離れていても、画面越しに感じる互いの存在が、ふたりにとって温かな支えだった。暗い部屋でスマホの明かりに照らされたひなたは、微笑みながらメッセージを打つ。
京子:「ひなた、今日の練習きつかったね」
ひなた:「うん、でも大丈夫!京子がいてくれるから頑張れるよ!」
学校や部活の話、日常の何気ない会話を交わしながら、ふたりは温かな時間を共有する。やがて会話は重みを帯び、ひなたの心の奥深くに触れていく。
京子:「小河さんのこと……つらいよね。でも、ひなた、私がついてるから」
ひなたは一瞬息を詰まらせ、京子のメッセージをじっと見つめた。小河さんのことを思うと胸が痛むが、京子の存在が心を支えてくれているのを感じた。
ひなた:「ありがとう、京子……」
数秒の静寂の後、京子からもう一度メッセージが届く。
京子:「ひなた……本当にありがとう。友達になってくれて」
ひなた:「京子こそ、あの時は……命を助けてくれて……大事な親友だよ!」
京子:「あの時からだね……ひなたって呼んだのは……」
ひなた:「京子もね!」
ふたりのやり取りが止まった後も、ひなたはスマホを握りしめたまま、なぜか眠れずに天井を見つめていた。
ひなた:「……一緒に頑張れる。京子と出会うまでは、こんなふうに思える日が来るなんて……」
そう呟くと、ひなたは次第にまどろみへと引き込まれていき、夢の中で京子との思い出が蘇ってきた。
―夢の中―
2017年5月、新緑の季節に活気を帯びるあかつき学園の水泳部。部長の檄が飛ぶ。
「一年生!今日はスピード練習だ!いけーっ!」
部長の掛け声を受けた一年生の部員たちは、プールサイドに並び、合図と共に次々と激しい水しぶきをあげて、プールに飛び込んでいく。
「次!碧唯さん!」
「はいっ!」
ひなたは、元気に返事すると、スタート台を蹴り上げた。小さくも激しい水しぶきが舞いあがる。
そこに部長の声が重なった。
「飛びこみは速いぞ!そのまま行けーっ!」
ひなたは、水をかき分け始め、心でつぶやく。
「やらなきゃ!」
そして、時が経ち、ひなたはプールで全力を尽くして泳ぎ続けた。
焦りに駆られていつも以上に無理を重ねていた。
「もう……20往復……碧唯さん……少し休んだほうがいいんじゃない?」
プールサイドで京子が心配そうに声をかけるが、ひなたはその声が聞こえないかのように泳ぎ続ける。
「私…もっと…もっと…」
呼吸が荒くなり、腕が疲労に悲鳴をあげるが、ひなたは構わずに泳ぎ続けた。
「スピードを…」
しかし、突然、ひなたの体が水中へと沈んでいった。
「えっ…私…」
ひなたの意識が薄れていく瞬間、周囲はまだその異変に気づいていなかった。
水中から聞こえる音は遠く、ただ静寂が彼女の耳を支配するようだった。
その様子に京子がいち早く気づき、大声を上げた。
「碧唯さん!? 誰か、助けてー!」
京子の叫びがプールサイドに響くなか、周囲の部員たちが駆けつけ、ひなたを引き上げる。
だが、ひなたの顔は青白く、唇も紫色に染まり、かすかな鼓動さえ感じられなかった。
「ひなた…お願い、目を覚ましてよ……」
必死で揺さぶる京子の震える声が、プールサイドにいる全員の胸を打つ。
「心臓が動いてない!」
「早く救急車を呼んで!」
「救命措置を続けろ!」
教職員も駆けつけ、周囲が慌ただしくなるが、ひなたの小さな体は冷たく、どれほど呼びかけても反応が戻らない。
「もうダメだ……」
「どうするんだよ……」
「すぐに親御さんに連絡!」
「救急車が遅れてる!」
誰もが絶望を感じ始めたその時、京子が震えた声で叫んだ。
「私がやるから、みんな下がって……!」
京子は泣きそうな目をしながら、ひなたの胸に手を置き、涙に濡れた顔で必死に蘇生処置を始めた。
涙がひなたの顔に一粒ずつ落ちていく。
「お願い……戻ってきて……」
京子は胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返し、何度も何度もひなたに呼びかける。
「碧唯さん!しっかりして!」
ひなたの顔は蒼白のままだ。心臓まで止まっている状態で救急車も遅れる中、ひなたが戻る確率は限りなく低い。
「戻って……戻ってよ!碧唯さん!」
京子の呼びかけが大きくなる。必死で胸部を圧迫し続ける。
「手が……震える……」
京子の体力が限界を迎えようとしていた。
ひなたの意識は戻らない……。
『もう無理なの……』
そんなことが頭をよぎる。
「あきらめない!あきらめちゃダメ!私の……最初の友達なの!」
彼女は歯を食いしばり、さらに力を込めてひなたの胸を押し続けた。
「ひなた……絶対に、行かせないからーっ!」
京子は絶叫した。
思いを込めて拳を振り上げた。
部員たちが刮目する。
「碧唯さん!戻れーっ!」
「土師さん!」
最後の力を込めた一撃をひなたの胸に放った。
ひなたの体が僅かに震えた。
「……あ……」
ほんのかすかな息が漏れ、ひなたの指先がわずかに動いた。
「ひなた?」
青ざめた顔に微かな赤みが戻り始める。
京子は、必死にひなたの身体を揺さぶり、あらんばかりの声を上げた。
「ひなた!聞こえる?私よ、京子!」
その声に応じるように、ひなたがかすかに目を開けた。
ぼんやりとした視線で京子を見つめる。
「…京子…?」
ひなたの小さな声に、京子は驚きと喜びの入り混じった表情でひなたを抱きしめ、安堵の涙を流す。
「ひなた…本当に…本当によかった……!」
部員たちは、息を呑んで見守りながら、二人の再会を目の当たりにしていた。
誰もが京子の必死の蘇生に心を打たれ、目に涙を浮かべている。
「ありがとう…京子…私、ずっと一緒にいようね…」
京子は力強く頷き、ひなたをしっかりと支えながら静香に囁いた。
「大丈夫、ずっと一緒だよ」
その瞬間、救急車のサイレンがようやく響き渡り、春の陽光がプールサイドに柔らかく差し込む。
ひなたはベッドの中で目を閉じ、京子との記憶に心を温められていた。
「京子……ずっと親友だよ……」
―そして、現在。朝のあかつき市―
そう小さく呟いた瞬間、窓から差し込む朝の光がカーテンの隙間から漏れ出し、ひなたの顔を優しく照らした。
ひなたはゆっくりと身を起こし、心に新たな決意を感じながらベッドから立ち上がった。
「もう朝ねっ!」
そう呟きながら部屋を出る姿は、未来へと一歩踏み出すように力強く、希望に満ちていた。
だが、ただひとつのことが彼女の心を曇らせていた。
「小河さん……やはり、あれは……」
そして、暗い表情でつぶやく。
「今日も……警察に行かないと……。」
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ひなたと京子の友情の原点ともいえるエピソードを描きましたが、いかがだったでしょうか?彼女たちの絆は、過去の困難を乗り越えることで築かれたものです。このエピソードが二人の現在の関係や、物語全体にどのように繋がっていくのか、これからも楽しみにしていただければと思います。
次回は、小河佑梨の事件についてひなたがどのように向き合うのか、さらに物語が展開していく予定です。読者の皆さまの応援や感想が、執筆の励みとなっていますので、ぜひコメントをお寄せください!