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第51章 美術部の困惑

読者の皆さん、こんばんは!

作者のサブサンです。


今回は第51章「美術部の困惑」をお届けします。

こののエピソードでは、香菜子と斉藤将吾の関係が大きく動きます。

香菜子のストレートな感情と、何かを隠し続ける斉藤――二人の距離感が交差する場面を丁寧に描きました。

また、斉藤のキャンバスに描かれた"未完成の少女"の意味、そして彼が持つ"USBメモリ"の謎……物語はさらに奥深くなっていきます。

青春と陰謀が交差するこの章、ぜひお楽しみください!

翌日の昼下がりの校内。

窓から差し込む柔らかな日差しが廊下を照らし、生徒たちの談笑や足音が反響する。

香菜子は、少し汗ばむ手でスマホを握りしめながら、美術部の部室へと向かっていた。


途中、友達のレナとマキが廊下の向こうから現れる。

「あら?カナじゃない?」

「カナ!ちぃーす!」

香菜子は少し驚いていたが、平静を装っていた。

「ちぃ……す……。」

彼女たちは香菜子の態度を見ると、そろって怪しむような視線を向けた。

レナが目を細めてにやりと笑う。

「カナ、怪しいなぁ?最近、美術部ばっかり行ってるらしいじゃん?……もしかして……?」

 

マキがすかさず口を挟む。

「いやいや、カナが絵なんて描けるはずないしね。」

 

香菜子は驚いたように振り返り、慌てて否定する。

「ち、違うってば!ただ……何ていうか……ちょっとした好奇心なんだよね!」


その反応に、二人はさらに疑いの目を向ける。

「ふーん、興味ねぇ……」

「でもカナ、美術とか全然興味なかったよね?」


「そ、それは……」

香菜子はどう答えていいかわからず、視線を泳がせる。


その言葉に、レナとマキは更に意味深な笑みを浮かべた。

「カナ?絵なんか見に行ってるフリして……どうせイケメン目当てでしょ?レナには分かるんだから!」

「美術部で集中するつもりが、途中でお菓子食べたくなるに100円賭けるわ。」


気恥ずかしさに顔を赤らめながら、香菜子は笑顔を作る。

「……違うんだってば!……ほんと……違うからね!」


そこに、ナナが軽やかに近づいてくる。

「カナ、チケット割引の件、ちゃんとパパに言っといたから安心して。」

「さすがナナ!助かる!そう言えば、ニカランって工事中じゃなかったっけ?」


ナナがにこやかに答える。

「フェンスの取り替え工事だよ。アトラクションはいつも通り!」

「なるほどね……。」


少し間が空き、ナナがにやけて言う。

「……今度教えなさいよ!お・あ・い・て!」

「今度ね……サンキュー!」

香菜子はナナに感謝しつつ、再び歩き出す。だが、ふと足を止め、視線を廊下の先に向けた。


(ショーゴ君……いるかな。)


美術部の部室が近づくにつれ、香菜子の心臓が高鳴るのを感じる。

廊下を歩く他の生徒たちの喧騒が遠ざかり、自分の鼓動だけが耳に響くようだった。


(……心臓が、どんどん早くなっていく。このまま部室の前で帰っちゃおうかな……。でも、顔だけでも見たい……。)


香菜子は部室前に到着すると、ドアの隙間から、中を覗った。

「いた!ショーゴくん!」

すると、アトリエの中で、斉藤将吾が一枚のキャンバスに向き合っている。

「……ここは……当たって砕けろ……!って、ほんとに砕けちゃうかも……」

香菜子は意を決して、ドアに手をかけた。


一方、斉藤はキャンバスを前に悩んでいた。

描かれているのは、バイオリンを弾く少女の後ろ姿。

しかし、人物の顔や細かい輪郭はまだ描かれておらず、全体にぼやけた印象を与える。

斉藤は筆を握りしめたまま、迷いの表情を浮かべている。

(君を描こうとすればするほど……僕には、この絵を完成させる資格がないんだろうか……?)

心の中で呟きながらも、筆を置くことも、描き進めることもできない。

(この弦を弾く指先、肩越しに見える髪……すべてがぼやけていく……僕の記憶からも、消えかけているのかな……)


その時、勢いよくドアが開いた。

斉藤は驚きながら、音の方に振り返る。

「誰?!」

すると部室に香菜子が入ってくる。

「こんちゃ!ショーゴ君!カナだよ!」


斉藤が難しい顔をしながら、振り向く。

「羽柴さんか……また来たんだね。」


香菜子はフランクな口調ながらも、少し照れながら話しかける。

「その絵……また、描いてるの?なんかはっきりしないんだけど?誰?」


斉藤は視線をそらし、キャンバスに向き直った。筆先を軽く動かしながら、短く答える。

「……ただのイメージだよ。」


香菜子は感心したように言う。

「イメージから作るなんて……きっと大事なものなのかな?カナ……妬けちゃうな……」

「……で、今日は何か用?邪魔するなら帰って欲しいんだけど?」


香菜子は微笑みながら提案する。

「実は……今度の日曜日、みんなで二階堂ランドに行くんだよね。ショーゴくんもどう?気分転換になるかもよ?」


斉藤は訝しげな顔で答える。

「気分転換?」

香菜子が少し真剣な眼差しになる。

「その絵も完成するかもよ?……どうかな?」

斉藤は一瞬考える素振りを見せるが、すぐに首を横に振る。

「……悪いけど、一人で集中したいんだ。」

「そうなの……残念……。」


斉藤は香菜子の反応を一瞥すると、迷いながらも筆を動かし始める。

香菜子は描きかけの絵に視線を向け、胸の奥がざわつくような感覚を覚えた。

「……誰かの後ろ姿?……けど、顔がないの、怖いよ。」


香菜子の声に、斉藤は一瞬だけ視線を動かした。その瞳には何かを隠そうとする色が浮かぶ。

「怖い……?」

斉藤は筆を止め、香菜子をじっと見つめた。 


「うん……なんか、これが完成したら……」

香菜子は言葉を探すように目を泳がせた。

「ショーゴ君がどこかに行っちゃう気がして……ただの勘だけど……。」


斉藤は香菜子の言葉を受け止めるように視線を落としたが、すぐに再びキャンバスに目を戻した。

(……無理だよ。だって……小河さんは……。)


香菜子はその後ろ姿を見つめながら、心の中で叫んだ。

(やだよ……ショーゴ君。この絵が完成したら、ショーゴ君の大事なものがカナじゃないって、分かっちゃうかもしれない……。)


斉藤は答えず、少し俯きながらキャンバスを見つめる。

その顔には、迷いや苦悩が見てとれた。

すると、香菜子は力強く言う。

「カナは負けないよ!ショーゴ君がそんな顔するなら、私が絶対に笑顔にしてみせるから!だって……その方が似合うもん!」


香菜子は斉藤に背を向けながら、自分でも分からない感覚に襲われていた。

斉藤の中に、誰か別の人がいるような気がするからだ。

(ショーゴくん……)


「じゃ!またね!」

香菜子の足音が遠ざかる。

部室には再び静寂が訪れた。斉藤はその音を耳で追いながら、胸の中に残った僅かな温かさに戸惑う自分を感じていた。

  

香菜子が去った後、斉藤は再びキャンバスに目を戻した。

(完成なんて……君は……もういないんだから。)


彼の手元で、少女の輪郭が少しずつ滲むように見えた。


部室の静けさが耳に刺さるようだった。斉藤は視線を落としながら、ゆっくりとポケットに手を伸ばす。

そこから取り出した小さなUSBメモリが、彼の手の中で冷たく硬い感触を伝えた。

「これが……小河さんが……残したもの……」


斉藤はポケットから手を出し、その手に握られているUSBメモリを見つめていた。

(渡瀬先生は、これを僕に渡しながら言ったっけ……。)


短いフラッシュバックが脳裏をよぎる。

「小河さんが残したものなの。斉藤くんなら……分かるはず……毎日演奏を……。」

渡瀬の疲れ切った声が、耳の奥に蘇る。


「分かるわけがない……どうして僕なんだ……。」

斉藤は静かにUSBメモリを握りしめ、再びポケットにしまい込んだ。


そして、静かに独白する。

「たまには、別の風景を……」

第51章「美術部の困惑」、いかがでしたか?

今回のポイントは、香菜子と斉藤の"すれ違い"と"交錯"です。

お互いの気持ちがすれ違いながらも、香菜子の明るさが、斉藤の閉ざされた世界に微かな光を差し込むような構成を意識しました。

また、USBメモリという新たな要素が登場し、物語の陰謀部分にも深みを加えています。

このデータには一体何が記録されているのか? 斉藤はこれをどうするのか?

次回以降の展開にもご期待ください!

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