第46章 驚愕
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今回は第46章「驚愕」をお届けします。
前回、学園内での緊張感が高まる中、突如失踪した渡瀬先生の行方が明かされます。
閉ざされた暗闇の中で目を覚ました彼女は、理事長・天美と志牟螺によって囚われ、衝撃の事実を突きつけられることに。
そして目の前に現れた“死んだはず”の小河佑梨――。
彼女の存在が示す真実とは一体何なのか?
物語が大きく動き出す、緊迫の一章をお楽しみください!
暗闇に包まれた場所で、渡瀬はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとした意識の中、周囲を見回すが、目に飛び込んでくるのは冷たいコンクリートの壁ばかり。
正面には頑丈な鉄格子が張り巡らされ、その冷たい鉄が彼女を閉じ込めている。
「ここは……?」
渡瀬は口元に手をやり、驚愕を隠せない様子でつぶやいた。
「私……どうしてここに……?」
疑問が浮かぶ間もなく、遠くから近づいてくる足音が聞こえ、次第にその音が大きくなる。
渡瀬は息を飲み、その方向に視線を向けた。
「連れてきたのか?」
低く冷たい声が響く。
「おおせの通りに……ベータ部隊が……」
応じる声も同じく冷酷だった。
足音が止み、鉄格子の向こうに人影が現れる。
渡瀬は怯えた様子で、声を震わせながら問いかけた。
「誰……?」
その瞬間、影の中から一人の女性が現れる。
冷たい表情を浮かべ、渡瀬を鋭く見据えるその人物は、理事長の天美だった。
その傍らには、静かに立つ志牟螺の姿も見える。
天美は冷ややかな笑みを浮かべながら言った。
「捕まえたぞ?これから少し、仕事をしてもらおうか?」
渡瀬は驚愕し、声を震わせた。
「理事長……?!どうして……」
天美は微かに唇を歪める。それは笑みとも言えない冷たい表情だった。
「捕まえたぞ、渡瀬。これから少し……仕事をしてもらおうか?」
「仕事……?」
渡瀬は戸惑いの表情を浮かべながら、後ずさるように壁に体を寄せた。
天美はその様子を嘲笑するように眺め、静かに命じた。
「開けてやれ。」
「了解しました。」
志牟螺が低い声で答えると、壁のパネルのスイッチを押した。
そして、重々しい音を立てながら、鉄格子が横にスライドした。
ガガガガガ――
渡瀬は息を呑みながら、背後の壁に追い詰められるような感覚に陥った。
渡瀬は咄嗟にあちこち自分の身体に触れるが、衣類以外はなにも触れることはなかった。
「ない……スマホも……何もかも……」
天美が不敵な表情を向ける。
「渡瀬、逃げようなどと思わないことだ。この場所から逃れる術はない。」
その言葉には冷酷さと確信が込められていた。渡瀬は肩を小さく震わせ、目を逸らした。
(逃げなければ……けど、どこに?八方ふさがりだわ……。)
「余計なことをされてもは困るのでな……さて……では、ついてきてもらおうか?」
志牟螺が静かに渡瀬に声をかける。
その声にはどこか嘲りが含まれているようだった。
「何をするつもりなんですか……?」
(こいつらは……何を?)
渡瀬が問い詰めるように言うと、志牟螺は胸元からメスを取り出した。
キラン!――
その鋭利な刃が、蛍光灯の光を反射して鈍く煌めく。
「これを見れば、想像くらいつくだろう?」
渡瀬が息を呑んだその瞬間、志牟螺のメスが一閃し、渡瀬の目の前で止まった。
シュッ!――
鋭利な先端が、渡瀬の眼球から数センチの距離にある。
「ひっ……!」
反射的に身を引く渡瀬。
しかし、背中は冷たい壁に押し付けられ、それ以上逃れることはできなかった。
志牟螺の手元に握られたメスが、光を反射してわずかに揺れる。
その動きには、ただの威嚇以上の危うさが感じられた。
「そいつの腕は確かだ。君に危害を加えないとは保証しないがな。」
天美が冷淡な声でそう言うと、志牟螺が口元に不気味な笑みを浮かべた。
「ただ、たまに手元が狂うこともあるがな……。」
志牟螺の言葉に、渡瀬の顔から血の気が引いていく彼女は震える声で問い返した。
「一体……私に何をさせたいんですか……?」
天美は冷たく渡瀬を見据えたまま、短く言い放った。
「それはこれからお前自身が知ることだ。」
志牟螺が笑みを深めながら、渡瀬の腕を掴む。
彼の冷たい手の感触に、渡瀬は思わず体を引いた。
「やめて……!離して……!」
「まあまあ、そんなに怯えるな。すぐに慣れるさ。」
その言葉が冷たく響く中、渡瀬は抗うすべもなく、独房の外へと連れ出されていった。
廊下には重々しい足音が響き渡り、暗い地下研究所の奥へと続いていく。
天美は冷たく微笑み、渡瀬に近づくと耳元で囁くように言った。
「この状況をどう思おうと、もう関係ない。ただ一つだけ覚えておけ……再会が待っている。」
「再会?」
(……何のことなの……?)
背後に残る冷たい空気の中、天美は一人微かに笑みを浮かべた。
その笑みは、人間性を完全に排した冷酷なものだった。
(期待しているよ、渡瀬……お前がこれから成し遂げるものにな。)
研究所の奥から響く鉄の扉の向こうから響く音が、渡瀬の運命が決して逃れられないものであることを示していた。
そして、重厚な鉄の扉の前に立つ天美、渡瀬、そして志牟螺。
扉の中央には黒いプレートが取り付けられ、そこには白い文字で「生成室004」と記されている。
渡瀬の眉が僅かに動く。
「……生成室……?」
天美は冷たい微笑みを浮かべ、渡瀬を一瞥した。
「さて……感動のご対面といこうか。」
志牟螺が静かに扉の横にあるパネルを操作すると、低い機械音が響き、分厚い扉がゆっくりと開き始める。
中から漂う冷気が渡瀬の肌を刺し、彼女は無意識に身をすくめた。
「何を見せるつもりですか……?」
渡瀬の声には恐怖と困惑が入り混じっていた。
天美は何も答えず、手で促すように渡瀬を部屋の中へ導く。
「さあ、確かめてみるといい。」
渡瀬は怯えながらも一歩を踏み出し、部屋の奥へと視線を向けた。
そこには、ぼんやりと蛍光灯に照らされた影が一つ。
「……誰?」
渡瀬が呟いたその瞬間、影が僅かに動き、顔が光の下に現れる。
渡瀬の顔が凍りついた。
「……小河さん……?」
そこに立っていたのは、死んだはずの小河佑梨だった。
無表情の彼女は、渡瀬に向けてただ静かに立っている。
渡瀬は足を踏み出そうとしたが、全身が硬直して動けない。
「小河さん……?どうして……そんな……。」
(どうして?死んだはずよ……私の希望……)
彼女は震える声で振り返り、天美に問い詰める。
「理事長……これは……一体何なんですか……?」
天美は渡瀬の怯えた表情を楽しむかのように口角を上げると、冷たく言い放った。
「さあ……君の想像通りかもしれないし、それ以上かもしれない。」
志牟螺も不気味な笑みを浮かべながら、低く呟くように言う。
「小河佑梨……彼女は、計画の最後の礎だ。」
天美は表情を崩さずに言い放つ。
「我らが……ファウンデーションのな……。」
「ファウンデーション?」
渡瀬の心に恐怖と混乱が押し寄せる中、生成室の奥から低い機械音が響き渡る。
「小河さん……本当にあなたなの……?」
(まさか……けど……この娘は……)
渡瀬が絞り出すように問いかけると、小河はゆっくりと渡瀬の方へ歩み寄り、微かに笑みを浮かべた。
その笑顔がかすかに崩れ、冷たさを含んだ声が部屋に響いた。
「……おばさんは?…誰?」
無邪気な問いかけを投げる。
そして、その笑みはすぐに消えた。
「小河さん?」
渡瀬の胸を刺すような寒気が走る。
その瞬間、天美が薄く笑いながら囁いた。
「さあ、渡瀬……早速初めてもらおうか?。」
「何を?」
天美は鋭い視線を向けて言った。
「こいつを、育てろ。ミュージシャン崩れにはちょうどいいだろう?」
「!」
生成室の闇に潜む真実とは?小河佑梨の姿が意味するものは何か――。
第46章「驚愕」をお読みいただき、ありがとうございました!
今回、物語はさらにシリアスな局面を迎えました。
渡瀬先生が囚われた地下研究所、理事長・天美と志牟螺の暗躍、そして小河佑梨の“再会”。
この展開が、ひなたたちの物語にどのような影響を与えていくのか、次章ではさらに真相が明かされる予定です。
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