第41章 あかつき市の夜 そして振り出し
こんばんは。作者のサブサンでございます。
第41章「あかつき市の夜 そして振り出し」へようこそ。この章では、あかつき市の静かな夜にそれぞれの登場人物たちが抱える葛藤や決意が交錯します。
グループチャットを通じて心を通わせる彼らの絆は、日常の中にも非日常の影を映し出しています。
この物語は「学園もの」と「007のようなスパイもの」の融合を目指しており、学園の平和な日常の裏で進行する陰謀と、それに立ち向かう若者たちの成長と絆が描かれています。
読者の皆さんが彼らの心の葛藤や微妙な変化に共感し、物語の奥深さを感じていただければ幸いです。
夜のあかつき市、霧島タウンは雨が降っていた。
雨音が窓や屋根を打つ音が響いていた。
ひなたの家の一戸建ての自室で、彼女はスマホを見つめて考え込んでいた。
京子もワンルームの一人暮らしの静かな夜にスマホを手にしており、亮も自宅兼寺の阪東寺で画面を見つめていた。
そして、虹の坂に住む大海、香菜子、冴姫もそれぞれの自宅で、アカチャのグループチャットを通じて真剣な会話を交わしていた。
かく
ひなたがメッセージを送る。
「京子?本当に見たのは、小河さんなのかな?」
しばらくして、京子が返事が表示された。
「私は確かに見たの!窓から裏庭に……」
大海も半信半疑ながら返信する。
「信じられないが、幽霊って感じでもなかったよな」
香菜子が考え込むように言う。
「証拠もあるしね……後ろ姿だけど」
グループチャットには小河佑梨の後ろ姿の画像が共有され、皆が考え込んでいた。
そんな中、香菜子は画像に1人思いを馳せていた。
(この姿……どこかで……)
そんな中、冴姫が控えめにメッセージを送る。
「みんな、心配かけてごめんなさい。話せて良かった」
大海が励ますように続ける。
「けど……冴姫?試合には出られそうなのか?」
香菜子も心配げに尋ねる。
「サキ姉……辞めるの?」
しばらく迷った後、冴姫は決意を込めて返信した。
「……やめないわ!まだわからないけど……全力で行くわ!」
仲間たちから「それでこそ冴姫だぜ!」「サキ姉!頑張って!」と応援のメッセージが続く。
京子が不安そうに呟く。
「けど、手がかりが多すぎて、何から始めればいいのか……小河さんのことも……」
ひなたも同調して続ける。
「そうだね。それにあの怪しい清掃員と転校生……」
大海も返す。
「渡瀬先生が知らないくらいだからなあ……」
香菜子が諦めたように言う。
「画像だけじゃ……ねえ……」
そこで、亮が冷静に提案する。
「明智さんにまず聞いてみればいいんじゃないかな?今、話せてるわけだし。大丈夫?」
冴姫が感謝を込めて返信する。
「大丈夫よ。亮さん、ありがとう」
すると、ひなたが亮の発言に感動したようにメッセージを送る。
「さすが亮!カッコいい!」
次の瞬間、ひなたと亮以外のメンバーから一斉にメッセージが飛んできた。
「のろけるな!」
和やかな雰囲気がスマホ越しに広がる中、ひなたが真剣な表情で質問を続けた。
「それじゃあ、明智さん……なぜ自動車が盗まれたの?」
グループチャットは、冴姫の父親に関する疑問へと展開を移した。
冴姫が答える。
「お父さん、あの日は忙しくて……車の鍵をつけっぱなしにしちゃったの」
亮が少し驚いたように返信する。
「うっかりだな……けど、そんな簡単に盗まれるものか?」
ひなたも疑問を投げかける。
「それだけじゃ何かが足りない感じ……他に何か思い当たることない?」
冴姫が一瞬考え込み、少し間を置いて返信する。
「……」
すると、京子が励ますようにメッセージを送る。
「何でもいいんです、明智さん!ちょっとしたことでも」
大海も気遣いながら続ける。
「けどさ、サキ姉の親父さんがそんなにうっかりするって?俺、そんな話聞いたことないぜ」
香菜子も同意するようにメッセージを送る。
「そうよ!いつも慎重そうな方じゃない?もしかして、思い込みってことはない?」
冴姫はその言葉に少し驚いたように返信した。
「……大海、カナ……もしかして私、思い込んでただけなのかな……?」
大海と香菜子が力強いメッセージを送る。
大海:「いや、親父さんと冴姫は二人で頑張ってきたんだろ?」
香菜子:「サキ姉!お母さんの言葉、覚えてる?いつも言ってたじゃない!」
冴姫の脳裏には、母・未姫の葬儀がフラッシュバックした。
冴姫と大海が中学生、香菜子はまだ幼かったあの日、葬儀会場で冴姫と父・雄三郎は気丈に振る舞い、参列者を迎えていた。
大海と香菜子の両親、熊五郎と美穂子も駆けつけ、会場には自動車関連の社員たちや、あかつきタクシーの関係者たちもいた。
雄三郎が未姫との別れを惜しむように呟く。
「やっと……軌道に乗り始めたのに……」
あかつきタクシーの社長・上杉陽三も悲しげに言葉をかけた。
「この度は、ご契約いただいた矢先に……本当に、残念です……」
熊五郎も友人として励ましの言葉を忘れなかった。
「明智の旦那、気を落としなさんなよ。きっと未姫さんは、見守ってくれてるぜ?」
参列する大人たちの励ましの中、香菜子は冴姫のそばに寄り添い、小さな声で囁いた。
「サキ姉……」
大海も冴姫を気にかけるように尋ねる。
「どうだった?冴姫?」
冴姫は母・未姫の最期の姿を思い出し、静かに答えた。
「穏やかだったわ……最後には、『おきばりやす』って……」
その言葉を聞いた雄三郎も遠くを見つめながら呟く。
「未姫……京都からこっちに来てから……ずっと、苦労をかけてきたな……」
冴姫は母との別れを胸に秘め、小さく呟いた。
「お母さん……」
現実に戻った冴姫は、グループチャットを見つめながら、心に抱えてきた不安が少しずつ解き放たれるのを感じていた。
冴姫はグループチャットにメッセージを打ち込んだ。
「みんな、今日はこれで……また。お父さんと話してみるわ。」
メッセージが送信されると、しばしの沈黙がチャットに広がったが、すぐに仲間たちから温かい言葉が続いた。
大海:「冴姫、無理すんなよ」
香菜子:「お父さんにも私たちのこと伝えてね」
亮:「話せるときに、ゆっくりでいいよ」
京子:「みんな応援してるから」
ひなた:「私も! 何かあればすぐ言って!」
冴姫はスマホの画面を見つめながら、仲間の支えに勇気づけられ、父としっかり向き合う決意を新たにした。
グループチャットにしばしの静寂が訪れ、夜のあかつき市にそれぞれが思いを巡らせていた。
ひなたがふと、メッセージを送る。
「振り出しね」
亮が同調するように続ける。
「明日、また学校で」
京子が少し不安げに書き込む。
「渡瀬先生と……もう一度……話してみよう」
大海が思い出したように返す。
「それと、あの怪しい二人な……」
香菜子も冗談めかして一言。
「忘れちゃいけないよ、幽霊もね」
それに対して、一同が即座にメッセージを打ち込む。
「違うだろ!」
そのツッコミに、スマホ越しに笑い声が聞こえてきそうだった。
どこか重苦しい話題が続いていたチャットにも、彼ららしい軽妙なやりとりが戻ってきて、緊張が少しほぐれた。
しかし、その軽い空気の中でも、解決されない謎が彼らの心に残っているのは否めなかった。
なぜ佑梨が姿を現したのか、清掃員や転校生の正体、そして冴姫の父が絡む事件の真相……次々に浮かぶ疑問の数々が、夜の闇に溶け込んでいくようだった。
ひなたは再びスマホを手に取り、ふと最後にメッセージを打ち込む。
「それじゃ、明日また学校で。きっと手がかりを見つけようね」
他のメンバーも次々に「おやすみ」と返信を送って、会話は静かに終わりを迎えた。
暗い夜空にぽつりぽつりと浮かぶ星たちが、彼らの行く先を静かに見守っているかのようだった。
次の日、何が彼らを待ち受けているのか——まだ誰も知らなかった。
第41章をお読みいただき、ありがとうございました。今回の章では、仲間たちのグループチャットを通じて、それぞれの思いが交錯し、再び物語が振り出しに戻るような感覚を描きました。特に冴姫の過去と家族への思い、そして仲間たちとの温かい絆が浮き彫りになりました。
謎が深まる一方で、日常の中にも確かなつながりが存在することを示すことで、読者の皆さんにも心温まる瞬間を感じていただけたのではないでしょうか。
次章では、さらに新たな展開と驚きが待っていますので、どうぞお楽しみに!




