第29章 裏庭の憂鬱(2025年2月8日改稿)
※2025年2月8日に改稿を行いました。
いつも「私立あかつき学園 命と絆の奏で」をお読みいただきありがとうございます!
第29章「裏庭の憂鬱」を公開しました。
この章では、サッカー部での亮と大海の練習風景や、香菜子と斉藤将吾のすれ違いが描かれています。
裏庭での不思議な遭遇や、香菜子の複雑な感情が交錯する様子を通じて、物語の中に漂う不安感がさらに強調されています。
また、各キャラクターの視点から少しずつ物語の核心に近づいていく展開が描かれています。
次の章では、学食に集まったメンバーたちが、小河佑梨にまつわる謎に迫る場面が描かれる予定です。
どうぞお楽しみに!
感想やコメントをいただけると励みになりますので、ぜひお気軽にお寄せください!
日が傾き始めた夕方前。部活終わりの空気が漂うサッカーコートには、練習を終えたサッカー部員たちの声が響いていた。
「おい!今日はこれで解散!」
「おっす!」
片付けを進める部員たちの間で、亮と大海がまだフィールドに残り、パス交換を続けている。
「片付け、頼んだぞー!」
部長の声に部員たちが一斉に動き出す中、亮はまだボールを足元に置いていた。
大海がゴールポストにもたれかかり、亮に声をかける。
「おいおい、もう終わりだろ?引き上げようぜ?ミートソースパスタでも食って……。」
亮は少し不満そうな顔でボールを蹴り返す。
「すまん、もう少しだけ。どうも感触が悪いんだ……」
そう言いながら、亮はボールを前に出し、ゴールに向かってシュートを放つ。
「てぃっ!……しまった!」
しかし、ボールは大きく軌道を外れ、ポストにも当たらずゴールの遥か上を通り過ぎていった。
「おいおい、どうした亮?」
大海が苦笑いしながらボールの行方を目で追う。
ボールは勢いよく飛んでいき、サッカーコートを越えて校舎裏の方へ転がっていく。
「すまん、大海。俺が取ってくる」
亮は息を整え、裏庭の方へと歩き出した。
「これで終わりにしようぜ、亮!俺はここで待ってるよ」
大海はゴールポストを片付けながら、亮の背中に声をかける。
普段はあまり人が寄り付かない校舎裏。
夕方の静寂に包まれた裏庭には、微かな風が木々を揺らす音が響いている。
茂った草木が足元を覆い、日中でも人目が届かないこの場所には、不思議な閉塞感が漂っていた。
亮が裏庭に足を踏み入れると、木々の影が一層濃く感じられる。
「ボールは……どこだ?」
草むらをかき分けながら、亮は目を凝らして探す。
すると、不意に一人の女子生徒がすれ違っていった。
派手なギャルメイクをした彼女は、スマホを片手に画面へ集中し、亮の存在には気付いていないようだった。
「今日はサボっちゃった……授業ウザいし……」
彼女は小さな声で独り言をつぶやき、そのまま校舎裏を抜けていく。
女子生徒はつぶやきを続けていたが、それは風の音に紛れ、かき消された。
「見ちゃった……カナの言う……。」
「誰だ……?」
亮は一瞬、その後ろ姿に目を奪われた。
派手な外見とは裏腹に、彼女の表情にはどこか影があり、不自然なほど周囲を警戒しているように見えた。
だが、亮はすぐにボールを見つける。草の中から拾い上げ、軽く汚れを払った。
「なんだ……珍しいな、こんなところで誰かに会うなんて」
亮はつぶやきながら、再びサッカーコートの方へ戻り始めた。
「よっ、戻ったな?」
大海が軽く手を挙げ、亮を迎える。
「ひなたちゃんから連絡だぜ。学食にいるってさ」
亮は頷きながらボールを大海に渡す。
「小河さんの件だな?」
「ああ。それに、カナも呼んでるってよ。どうする?行くか?」
亮は少し考えた後、大海に向かって軽く笑ってみせた。
「行くか」
夕日が西の空に沈み始める中、二人はサッカーコートを後にし、学食へと向かって歩き出した。
―その頃、学園の美術部部室―
香菜子は学園の美術部にいた。
夕暮れの赤い光が窓から差し込み、美術部前の廊下を静かに照らしていた。
その空気を切り裂くように、扉の向こうから怒声が響いた。
「いい加減にしてくれ!邪魔しないでくれ!」
斉藤の怒号だった。
廊下に立っていた香菜子は目を伏せ、悲しげな顔で美術部室を後にする。
背後で扉が無情にも閉じられる音が響いた。
ピシャッ――
香菜子は扉を一瞥し、小さく呟いた。
「ショーゴくん……どうして……」
彼女の表情は悲しげだった。
香菜子が廊下を歩いていると、ポケットの中のスマホが震えた。
画面を見ると、「カナ友」とつけられたグループチャットが通知を送っている。
マキ: カナ?今日はカラオケ行かないの?
レナ: 返事遅いよ?
香菜子は眉をひそめながら画面を開き、メッセージの受信時間を確認した。
「30分前……?そんなはず……」
香菜子は心の中で首をかしげたが、とりあえず返信を打つ。
香菜子: ゴメン、見逃してたみたい。
その送信を終えた瞬間、再び通知が鳴った。
香菜子: ナナは?返事ないけど?
レナ: 授業サボって、そのまま裏庭に入り浸ってるみたい。
マキ: あそこ電波悪いしな……カナ。どっか行ってた?
香菜子は少し間を置いてから返信を打つ。
香菜子: ……なんでもない。気が乗らないだけ。
その瞬間、別のスマホの震える音がした。
カバンからそれを取り出す。
「メッセージ着信通知:ひなた」
画面には表示されている。
ひなた: 香菜子ちゃん?まだ学校?小河さんの件で……学食で待ってるね。
香菜子は息をつき、グループチャットに返信を送る。
香菜子: ゴメン。ちょっと用事できた。また後で。
マキ:残念……。
レナ:じゃ、またね!
カバンにスマホをしまい、香菜子は軽く頭を振って気を取り直した。
「ひなたちゃんたちが待ってる。まずはそっちに行かなきゃ……」
香菜子は学食へ向かう足を速めた。
夕日の光が廊下を赤く染め、彼女の背中を静かに押し出していた。
第29章「裏庭の憂鬱」を最後までお読みいただきありがとうございました!
今回の章では、亮や大海の友情、香菜子と斉藤将吾の関係性が少しずつ描かれています。
また、裏庭という閉塞的な空間が持つ独特の雰囲気が、物語の不穏さを引き立てています。香菜子の複雑な感情や、斉藤の怒号の裏に隠された真意は、今後の展開の鍵となるかもしれません。
学食での再会がどのような新たな進展をもたらすのか、そして小河佑梨に関する謎がどのように解き明かされていくのか――次章以降の展開にもぜひご注目ください!
作品に関する感想やコメントはいつでも歓迎です。
皆さまの声が物語の糧となりますので、ぜひお寄せください!




