第24章 Running for your life(2025年2月8日改稿)
※2025年2月8日に改稿を行いました。
こんばんは。創作初心者のサブサンでございます。
いつも「私立あかつき学園 命と絆の奏で 学園エスピオナージサーガ」をお読みいただき、ありがとうございます!
第24章「Running for your life」を公開しました。
今回の章では、のぞみが親友・真緒を救うために全力で駆け抜ける姿が描かれます。
彼女の陸上部エースとしてのスピードと、真緒への深い友情が物語を躍動感たっぷりに彩ります。
一方で、学園地下で進行中の不穏な計画が、さらなる波乱を予感させる展開となっています。
命がけの走りと謎めいた計画の対比をお楽しみください!
放課後のあかつき学園。
のぞみは息を切らせながら、校庭を駆け巡っていた。
「練習が遅くなっちゃったよ……真緒……帰ったかな?」
一方、校庭のベンチに座る真緒。
午後の柔らかな日差しが、静かにページをめくる彼女の横顔を照らしている。
「のぞみ……遅いですわね……。」
その横に、のぞみが息を切らせながらも、軽快な足取りで近づいてきた。
真緒はのぞみの走る姿に目を移すと、感心したようにつぶやく。
「やはり……私に無いものを……力強くて……美しい……」
そして、のぞみは足を止め、真緒に声をかけた。
額には汗が流れ、陽の光に反射して輝いていた。
「やっぱりここかいな!図書館におらんかったから……今日は、外で読書?」
「お待ちしてたんですが……なかなか来られなかったので……申し訳ありません」
のぞみは真緒の隣に腰を下ろし、彼女の手元の本に目をやる。
「今日は何読んどるん?」
真緒は本を少し持ち上げて表紙を見せる。
「『あさみゆめみし』ですわ。」
「浅野内匠頭?」
「……それは江戸時代の赤穂藩主です。忠臣蔵が有名で……諸説によると赤穂の塩を……。」
「そこは、真面目に解説せんでええねん!」
のぞみは慌てて手を振る。
続けて、軽く首を傾げながら尋ねた。
「で、その本は何なの?」
「これは『源氏物語』を現代語訳したもので……光源氏の恋愛模様を描いた物語ですわ。」
「さっすが真緒やな!まじめで賢いのは知っとったけど、ここまでとは思わんわ!」
のぞみは感心したようにうなずくと、茶目っ気たっぷりに付け加えた。
「なんか、私には難しそうやな~。」
「そんなことはありませんわ。むしろ、読んでいただけたらきっと楽しめると思います……。」
「そうなん?光源氏って、恋愛模様とか言うとるけど、どんなのがあるんや?」
「……少し説明が難しいのですが……光源氏という方が、多くの女性と関わりながらも、自らの弱さや孤独と向き合う物語ですの。」
「へぇ~。イケメンでモテモテちゅうことやな。うちの学校にもそれっぽいのおるけど……光源氏ってなんか別格やな!」
「……そうかもしれませんわね。」
お互いに微笑み合う二人。
「で……今度の抜き打ちテストの件やけど……」
「そうでしたね。まずは……」
「いつも、真緒には助けられてばっかりやで。」
だが、静けさの中で、ふと真緒の表情が曇る。
「……うっ。」
真緒は突然、胸元を押さえた。
顔色が青ざめ、肩が小刻みに震える。
「真緒?どないしたん?しっかりせえや!」
のぞみは驚きと焦りで真緒を抱え込むように支えたが、彼女の反応は鈍く、息遣いが荒い。
異変に気づいた周囲の生徒たちが騒ぎ始める。
「麻倉さん!大丈夫か!?」
「誰か救急車を呼べ!」
「先生!先生を呼んでこい!」
のぞみは真緒の肩を支えながら、必死で声をかけた。
「真緒!しっかり!どこか痛むんか?」
真緒は息も絶え絶えに答えた。
「胸が……薬が……ペンダントを……」
その言葉にハッとしたのぞみは、真緒の胸元を探す。
しかし、そこにあるはずのペンダントが見当たらない。
「ペンダントが……あらへん!?真緒!ペンダントはどこや!?」
真緒は震える手を伸ばしながら、か細い声で答えた。
「迂闊でしたわ……確か……図書館に……」
「図書館!?なんでそこに置いたんや!」
のぞみは焦りを隠せずに叫んだが、真緒の手から力が抜けていくのを感じると、不安が一層募る。
周囲の生徒たちも混乱を極めていた。
「電話がつながらない!」
「なんでこんな時に通信障害なんだよ!」
「先生、どうなってるの!?」
そこに一人の先生が駆け寄ってきたが、焦った様子でスマホを握りしめている。
「119に電話しているが、混雑してつながらない……他の先生方も同じだ。」
「そんな!じゃあどうすれば……」
生徒たちの動揺が広がる中、のぞみは真緒の手を強く握り、目を閉じて深呼吸した。そして、意を決したように立ち上がる。
「真緒、絶対に戻ってくるから……待っとって!」
次の瞬間、のぞみは振り返ると図書館へ向けて全力で駆け出した。
―時を同じくして、学園地下の研究所―
薄暗いコンクリートの壁に囲まれた広大な空間には、無数の端末が並んでいる。
その中央に位置する「コントロールルーム」では、緊張感が漂っていた。
「ハッキング開始。目標は人工衛星ラグナロク。」
志牟螺が冷徹な声で指示を出すと、部屋中の科学者たちが一斉に端末を操作し始めた。
「了解しました。」
短い返答とともに、モニターには複雑なコードと進行状況が表示される。
スクリーンの中で、複数の人工衛星のデータが次々と切り替わっていく。
志牟螺は一つの端末の前で腕を組み、静かに進行状況を見守っている。
その眼光は鋭く、画面の中の数値が一瞬でも変われば見逃さないという決意が込められているかのようだった。
「現在、ラグナロクの侵入ポイントを確認しました。」
別の端末の前に座る科学者が、手元のキーボードを叩きながら報告を上げる。
志牟螺はモニターに目を移しながら、口元をかすかに歪めた。
「これで……10台目……予定通りだ。」
彼の背後では、他の科学者たちが忙しく動き回っている。
「セキュリティシステム、残り3層です。」
「障害検知、ゼロ。完全にステルスモードを維持中。」
「進行状況80%。目標制御圏内に近づいています。」
モニターには、ラグナロクと呼ばれる人工衛星のイメージが表示されていた。
それは巨大な円盤型の衛星で、周囲には複雑なアンテナや通信装置が取り付けられている。
志牟螺は冷たく静かな声で命じた。
「ステルスを維持しろ。進行を中断するな。」
「はい。」
科学者たちは次々と端末に向かい、作業を再開する。
部屋全体には、キーボードを叩く音と、モニターの電子音だけが響いていた。
志牟螺は画面をじっと見つめながら、つぶやくように言った。
「これが完成すれば……後一歩だ……。」
誰も彼の言葉に反応しない。彼らはただ、自らの作業に没頭している。
しかし、この静かな空間の向こうで、誰もが予期していなかった影響が徐々に広がり始めていることに、志牟螺たちはまだ気づいていなかった。
―その頃の校舎にて―
校舎内を全力で駆け抜けるのぞみ。
その瞳には焦燥の色が浮かび、足音が廊下に響き渡る。
校舎内を全力で駆け抜けるのぞみ。
その瞳には焦燥の色が浮かび、足音が廊下に響き渡る。
「どいて!どいて!道を開けてんか!」
廊下の先にいた生徒たちが振り返り、驚いた表情を浮かべながらも脇へ避ける。
「おい、なんだあれ……?延藤さん、すごい勢いだな。」
「さすが陸上部のエース。地方大会優勝するだけあるね。」
「練習中?って感じでもなさそうだけど……」
危機感のない会話がのぞみの背後で交わされるが、彼女にはそんな声が耳に入る余裕もない。
(絶対に間に合わすんや……!)
のぞみは自分の足元を叱咤するように心の中で叫ぶ。
普段の練習よりも遥かに速いペースで走り続けると、肺が焼けるように熱くなる。それでも足を止めるわけにはいかなかった。
――これまでのぞみにとって真緒は、親友であり、頼れる存在であった。
いつも冷静で優雅で、困った時には何気なく手を差し伸べてくれる。
(今度は私が……真緒を助ける番なんや!)
のぞみの脳裏に、苦しそうな真緒の顔が蘇る。胸元を押さえ、痛みで眉間に皺を寄せたあの表情。
(間に合わなかったら……なんて、考えたらアカン!)
廊下の窓の外では、徐々に雲が広がり始めていた。
しかし、のぞみはそんな変化に気づくことなく、ただ全力で走り続ける。
廊下を曲がり切ると、目の前に図書館の扉が現れる。
その扉を勢いよく開け放つと、中にいた生徒たちが一斉に振り返った。
「延藤さん?どうしたの?」
「汗だくじゃん……」
息を荒らげながらも、のぞみは周囲の目を気にすることなく、叫んだ。
「麻倉さんのペンダント、見かけた奴はおらんか!?テーブルとか、棚とか!」
図書館内にいた数人の生徒がキョトンとした表情で顔を見合わせる。
「……」
誰も答えないことに焦りを感じたのぞみは、自分の手で探すしかないと決意した。
「頼むわ……真緒を助けたいんやーっ!」
今回は、第24章「Running for your life」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
のぞみの全力疾走は、彼女の友情と決意を象徴するものでした。
親友を助けるために駆け抜ける彼女の姿には、青春の真っ直ぐさと力強さが詰まっています。
一方で、地下研究所で進行する計画「ラグナロク」も、新たな不穏さをもたらしました。
この2つの対照的なストーリーがどのように交わり、物語を動かしていくのか、引き続きご注目ください!
ご感想やご意見をいただけると大変励みになります。次回もどうぞお楽しみに!




