プロローグ「出会いの旋律」2025年2月7日改稿
※2025年2月7日に大幅な改稿を行いました。
こんにちは、この作品は、過去に断筆した作品をリブートしたものです。
断筆していましたが、もう一度作品を作りたくなり、再挑戦することにしました。
この物語は、関東地方の郡真県あかつき市にある「私立あかつき学園」を舞台に繰り広げられる青春と謎が交錯する物語です。
物静かな自然の中、個性豊かな生徒たちが日常を送りながらも、次第に奇妙な出来事や隠された秘密に引き寄せられていきます。
音楽、水泳、そして謎の影――登場人物たちがどのように関わり、成長していくのか、彼らの出会いの旋律に耳を傾けていただければ幸いです。
作品のキャッチフレーズは「青春のエスピオナージとパスティーシュ」
よろしくお願いいたします。
時は2018年。4月の半ば頃。
放課後のあかつき学園は、夕暮れの陽光に包まれていた。関東地方の北に位置する郡真県あかつき市。
この地は霧島山の麓に広がり、四方を山々で囲まれた静かな環境に恵まれている。
学園はその自然へ溶け込むように佇み、都会の喧騒からは少し離れた特別な空気を纏っていた。
水泳部の練習を終えた碧唯ひなたと土師京子は、更衣室で着替えを済ませた。
クールダウンなのか、ベンチの上で開脚前屈をしている。顔は満面の笑顔だ。
「今日も頑張ったね、京子!もう2年目か……」
小柄で明るい茶髪のショートカットの少女は、明るい笑顔でタオルを首にかけ、今度は首のストレッチをする。
「痛たた……うん。ひなたが一緒だと、練習も楽しいよ。」
黒髪に白い花飾りのヘアピンをつけた少女は、開脚に苦戦しながらも控えめに微笑んだ。
二人はストレッチを終えると、部室を出て、歩きながら話し始める。
「夏練、今年は海でするって部長が……」
「遠征?まだ春なのに、気が早いわね」
「海がないからね、郡真には」
二人が話しながら廊下を進んでいると、どこからか美しいバイオリンの音色が聞こえてきた。
その旋律に誘われるように、音楽室の前で足を止めた。
「この曲、すごく綺麗……誰が弾いているのかな?」
ひなたは興味津々で扉に近づいた。そっと中を覗くと、黒髪のツインテールの少女が目を閉じてバイオリンを奏でていた。
彼女は小河佑梨、高校1年生。特別才能枠で入学した天才バイオリニストだ。身体は小柄でひなたよりも少し小さいようだ。
「小河さんだね。渡瀬先生が指導しているみたい」
京子が小声で説明した。吹奏楽部の顧問である渡瀬朱莉は、佑梨の才能に惚れ込み、熱心に指導している。
ひなたと京子が囁き合う。
「確か、先生って2年前に、学校に来たんだよね。」
「吹奏楽部を大会レベルにまで引き上げたんだったね。」
「そうそう……それに部員の光明寺さんが……」
すると、演奏が終わり、佑梨がゆっくりと目を開けた。
その瞬間、ひなたと目が合った。
「あ、聴いてたの?」
佑梨は無邪気な笑顔で二人に話しかけた。
ひなたと佑梨は目を合わせながら、微笑みとともにつぶやきを漏らした。
(この娘……小さいわね……私とほとんど変わらないみたい……)
一瞬の後、ひなたが少し照れながら佑梨に答えた。
「ごめんなさい、あまりに素敵な演奏だったからつい……」
佑梨も笑顔で答える。
「ありがとう!演奏を楽しんでもらえるのが一番嬉しいんだ」
「本当に感動しました。私たち、水泳部なんですけど、音楽には詳しくなくても心に響きました」
京子も感想を伝えた。
「それは良かった!渡瀬先生も喜んでくれると思う」
渡瀬が近づいてきて、優しく微笑んだ。
「お二人とも、小河さんの演奏を聴いてくれてありがとう。もし興味があれば、また聴きに来てね」
「はい、ぜひ!」
ひなたと京子は声を揃えて答えた。
その時、京子の視線がふと音楽室の隅に止まった。
そこには、無造作な焦茶色の髪が目に留まる男子生徒が、佑梨を見つめて立っていた。
「あ……いたんだ?気づかなかったわ……音楽に夢中だったから……」
京子が小声で言うと、ひなたも思い出したように驚きの表情を浮かべた。
「そうだ……入学式の時、理事長先生から、小河さんと一緒に紹介されてたね、もう一人の特別才能枠の入学者……」
京子もその時のことを思い出し、小さく声に出した。
「斉藤将吾くん……確か……“天才少年画家”って言われていたわよね。色んな賞を取っているって」
しかし、斉藤は二人の会話を気にすることなく、ただ静かに佑梨の演奏を聴いていたようだった。
その横顔にはどこか繊細で、佑梨の音色に完全に心を奪われているかのような、淡い情感が浮かんでいる。
その様子を見ていた渡瀬が、ひなたと京子に向けて小さく微笑んだ。
「斉藤くんもね、毎日こうして小河さんの演奏を聴きに来てるのよ」
三人は自然と斉藤に注目したが、その視線に気づいた斉藤はふと我に返ったように顔を赤らめ、恥ずかしそうに目を伏せると、何も言わずに音楽室からそっと立ち去った。
京子が不思議そうに呟く。
「なんなのかしら、あの人?」
ひなたも首をかしげながら答えた。
「わからないわね……」
渡瀬は少し意味ありげな表情で笑った。
「ちょっと変わった子みたいだから」
「ふーん……」
二人は、どこか気になるような様子で斉藤の去っていった方を見つめていたが、やがて夕暮れが照らす音楽室に再び静けさが戻ってきた。
「それじゃあ、私たちそろそろ帰るね。また明日」
佑梨が手を振ると、二人も手を振り返した。
ひなたと京子は音楽室を出ていった。
渡瀬がそれを確認すると、にこやかに佑梨に告げた。
「少し休憩しましょうか?」
佑梨は無邪気な笑顔を見せた。
「ティーターイム!」
―少し後の音楽室―
しばらくして、音楽室は甘い紅茶の香りが漂い始めた。
花柄の美しいティーポットとティーカップが彩を添える。
佑梨は砂糖壺からスプーンで、ティーカップに砂糖を入れていく。
「3杯……4杯……5杯!」
渡瀬がにこやかに言う。
「後でもう一回練習ね!」
「はい!先生!」
その時、一つの影が音楽室入り口の前に立った。
影は音楽室の扉を静かに半分ほど開いた。
そして、中を覗き込みながら、呟きを漏らす。
「これで……完成するのか?」
―校舎の外―
ひなたと京子は校舎を出ると、霧島山からの涼しい風が心地よく頬をなでた。
夕焼けが山々を赤く染め、景色はまるで一枚の絵画のようだ。
「小河さん、すごかったね。あんなに美しい音色、初めて聴いたよ」
ひなたは感動した様子で言った。
「うん。彼女の演奏には何か特別なものを感じた」
京子も同意した。
二人は霧島山から流れる霧島川に架かる霧島橋へと向かった。
この橋は道路橋も兼ねており、数こそ少ないが、教職員たちや学園への出入り業者の車両が行き交っている。
夕暮れの橋上には西へ帰路を急ぐ生徒たちで溢れ、にぎやかな声が響いていた。
「はぁ……なんで橋にバスがないんだよ。疲れてるのに歩くしかないなんて……」
「ほんとにね。西詰まで歩くの面倒くさいよね」
「早くバス停着かないと次のバス逃しそう!間に合うかな……」
徒歩で歩く生徒たちを横目に、軽やかに自転車で追い越していく生徒が手を振って駆け抜けていく。
「じゃあね、みんな!」
その横で、友達に振り返りながら一人がつぶやく。
「いいな、自転車。歩きより絶対早いじゃん」
「自然保護条例とかで……橋の西詰までしかバスが通ってないんだよな……」
「あ、ちょっと待って!今日の小テスト全然だったから、帰ったら勉強しなきゃ」
「そんなのよりさ、次の週末、またみんなで集まろうよ!」
生徒たちがそれぞれ西詰の「霧島橋西詰」停留所へと急ぐ中、次々と話し声やつぶやきが飛び交って橋の上は夕方の活気に包まれていた。
川のせせらぎと山の香りがひなたと京子を包んだ。
「明日も頑張ろうね、京子」
「そうだね。ひなたと一緒なら、どんな練習も乗り越えられるよ」
橋の上から見下ろすと、川の水面が夕日に照らされてキラキラと輝いていた。
「この景色、何度見ても飽きないね」
ひなたは立ち止まり、しばらく景色を眺めた。
「本当に。自然がこんなに美しい場所で過ごせるのは幸せだね」
京子も同じように景色に目を奪われていた。
二人は再び歩き出し、橋を渡り終えた。
霧島橋西詰の停留所を通り過ぎ、霧島タウンへのそれぞれの帰り道に分かれる場所へ差し掛かった。
「じゃあ、また明日!」
ひなたは元気よく手を振った。
「うん、また明日ね」
京子も静かに手を振り返した。
そして、静かな足取りで自宅へ向かっていた。
ひなたとの会話や佑梨との出会いが、彼女の心を温めていた。
一方、ひなたは夕焼けに染まる山々を背に、軽快な足取りで家路についた。
心の中には、佑梨の美しいバイオリンの音色がまだ響いていた。
「明日もきっといい日になるといいな……」
ひなたは小さくつぶやき、夕闇に包まれる街並みを見つめた。
―その頃の音楽室―
学園では、音楽室の扉が半分ほど開いていることにも気づかないまま、佑梨の演奏と、渡瀬の指導が続けていた。
近くのテーブルには冷めた紅茶が置かれ、クッキーのパッケージが開かれていたのが、時間の経過を感じさせている。
夕暮れの光が差し込む廊下、その半開きの扉の隙間から、影が身を隠すように中を覗き込んでいる。
影は長い黒髪を背に流し、大きなつばの帽子とメガネをかけた女性だったが、その姿は不気味でどこか異質だった。
女は手にスマートフォンを持っており、画面には「M 3 S」という謎のアプリケーションが立ち上がっている。
画面には、複雑な波形が動き、何かを解析しているように見えた。
佑梨の演奏に呼応するかのように、画面には怪しげな波形が表示されている。
突然、女のスマホが小刻みに震え、通知が表示される。
特殊音階に合致――
彼女は微かに口元を歪め、興味深げにスマホを見つめた。
「ほう?やはり……」
女はスマホの画面をじっと見つめていると、表示が新たなメッセージに切り替わった。
新パターンと判明――
そのメッセージに、女の目は鋭く光り、満足げに微笑んだ。
「そうか……では、Dと名付けよう……」
彼女は薄く笑いながらスマホをポケットにしまい、音楽室に向けてもう一度目をやる。
しかし、誰も女の存在に気づかないまま、佑梨の演奏は響き続けていた。
学園の外は静けさを増し、ただ夕焼けがその場を包んでいた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この章では、主人公たちの仲間との出会いや、舞台となるあかつき学園の雰囲気をお伝えできたかと思います。
今後も、それぞれのキャラクターたちがどのように絡み合い、物語が展開していくのかをぜひ楽しみにしていてください。次の章では、さらに学園生活の裏に隠された秘密が明らかになっていきます。応援、コメントお待ちしております!