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変化

オルグレンは大陸の南西にある小国だ。北には小さな山があり、南は海に面している。


「私はお姉様方に刺繍を教わるよりも、お兄様方の手で外に連れ出していただく方が好きな子供でした。魚を釣る方法。獣を捕らえる方法。様々なことを、お兄様方から教わりました。私は同年代の子供たちの中でも、とりわけ狩りが得意だったのですよ。帝国に併合されるまで。いいえ、帝国の1部となってからも。オルグレンの民は、自然を(かて)として生きてきました。帝国の方々は、あの国には何もないとおっしゃいますが。豊かな自然は、私たちの財産です。それは、帝国には無いものではありませんか?」


ソフィアはそう言って、得意げに微笑んだ。ジルヴェストは彼女を見つめて、薄笑いを浮かべる。


「おや、もうお忘れですか? オルグレンは既に帝国の属国になっています。貴女の国が持つ物は、全て帝国の……私の物となっている。貴女が誇る自然も、当然その1つですよ」


「……それは、そうですけど」


ソフィアが口を尖らせる。そんな彼女の頭を撫でて、彼は優しい声を出した。


「話はよく分かりました。貴女は活動的な方なのですね。……いいできょう。貴女に護衛の騎士を付けます。その騎士から離れないと約束できるのなら、街に出ても構いません」


それは、彼にとって初めてのことだった。他人の関心を買うために、王宮の決まりを破るなど。完璧な王として生きてきた頃の彼であれば、絶対に許さなかっただろう。彼は少しずつ、変わり始めていた。


「……ありがとうございます、陛下」


ソフィアは、彼の変化に気づかない。彼のことをよく知らないというのもあるが、何よりも。彼女はそれを、問題だとは思わなかった。だからただ、笑って。彼に礼を告げるだけ。


「…………いえ。()()()()の、事であれば」


そして、それは。彼の変貌(へんぼう)を、加速させる。完璧な王の仮面を()がす。


「……その。出来れば、陛下ではなく……ジルと呼んでいただけますか? 敬語も必要ありません」


彼は真剣な眼差しで彼女を見た。彼女はその目を見返して、強く頷く。


「分かった。ジルも私には、敬語を使わなくていいわ。私は田舎娘だから、その方がむしろ気楽なの」


「……そうか。なら遠慮はしない。……もう夜も遅い。俺はこのまま、眠るとしよう。お前も休め。俺と、共に」


「……うん。ちょっと恥ずかしいけど……私はジルの奥さんだものね。そうするわ」


彼女は目を閉じて、彼の胸に頭を預けた。彼が彼女を抱きしめて、深く息を吐く。


(可愛いソフィ。俺はお前を手放さない。絶対に)


そう心に誓って。彼もまた、眠りについた。

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