夜(前編)
部屋に1人残されたソフィアは、ふかふかのベッドに飛び込んで仰向けになった。
「あー、ビックリした」
オルグレンには、何もない。資源も特産物も、特別な物は何も。
「それでもここまで気を使ってくださるんだから、ありがたいことよね。感謝しなくちゃ」
帝国への恭順を示すための人質。それが、今の彼女の役割だ。
(まあ、悪いことばかりでもないわ。政略結婚だとしても、皇帝陛下は優しい方だし……。後はここで大人しくしていれば、特に問題は起きないでしょ)
彼女はそんなことを考えながら、ベッドに横になった状態でダラダラと過ごした。やることがないので暇ではあるが、それは仕方のないことだ。
(世話係の方が来てくださるみたいだから、その方と一緒であれば……庭に出ることくらいは、許していただけるかしら)
そんなことを考えながらボンヤリと過ごしていると、いつの間にか夜になっていた。ソフィアはナイトウェアに着替えて、再びベッドに横になる。その時。扉が外から叩かれる。彼女は起き上がって、扉を開けた
「はい。どちら様で……」
その言葉が途中で止まる。扉の向こうには、ジルヴェストがいた。彼は背後に老女を従えて、そこに立っている。
「今晩は。お休みのところ、すみません。……もしかして、起こしてしまいましたか?」
「あ、いえ……大丈夫です。もしかして、そちらの方が……?」
ソフィアは彼の背後に控えている老女を見つめた。彼女は控えめな笑みを浮かべて、頭を下げた。
「ナディアと申します。よろしくお願いいたします」
「はい! 私の方こそ、これからよろしくお願いします」
ソフィアもペコリとお辞儀を返す。その光景を、ジルヴェストは笑顔で見守っていた。
「ええと……それじゃあ、陛下。私はこれで……」
「……ソフィア。どうやら貴女には、私の妻であるという自覚が足りないようですね」
彼が自然に、ソフィアの腰に手を回す。彼女は動揺で固まった。
「へ、陛下……? 何を……」
「夫と共に眠るのも、妻の役目の1つですよ。……ああ、ご安心を。私が貴女に手を出すようなことは、絶対にありません。ただ、貴女と一緒に寝たいだけです」
「えっ……!」
ソフィアが絶句する。ナディアは全く動揺せず、彼女に向かって言葉をかけた。
「それではソフィア様。私は隣の部屋で、待機しております。いつでもお呼びくださいませ」
「や、そ、そうじゃなくて……これ、どうしたら……」
慌てる彼女の前で、ナディアは困ったような顔をして扉を閉めた。ジルヴェストが彼女の耳元で囁く。
「大丈夫。全て私に任せてください」
ゆっくりと、しかし確実に。彼はソフィアをベッドに連れ込んだ。