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皇帝の昔話

ジルヴェストは幼い頃から優秀だった。文武両道の次期皇帝。そんな彼の(もと)には、昔から人が集まってきていた。


『ジルは人気者なのね』


アドレイドにそう言われたことは、1度や2度ではない。ジルヴェストの婚約者であり、正妃となることが約束されていた女性。彼女は他の女性から敵視されることが多かった。


『……嫌味か?』


『まさか。良いことだと思うわ。貴方は次の皇帝だもの』


親しく話す2人の間に割り込めるのは、シェリルだけだった。自然と彼らは、3人で過ごすことが多くなる。


『結局はコンドレンとミルワードだけが得をするのだ。今も昔も変わらずに』


とある貴族が(こぼ)した言葉。それを耳にしたジルヴェストは、内心で首を傾げたものだ。貴族として生まれ、贅沢に暮らせているだけで。少なくとも、平民よりは恵まれているというのに。


(……そんな考え方だから、お前たちは勝てないんだ)


ミルワード伯爵は穏やかな物腰の裏で、冷静な思考を崩さないでいる。コンドレン公爵は厳格で誠実な、心身共に強い人間だ。どちらも、高い地位にある者としての責任を忘れていない。帝国に必要不可欠な人材だと、彼は初めから知っていた。


「……俺はアディを正妃に選んで、シェリィを第一側妃とした。彼女たちのどちらかに跡継ぎが生まれれば、それでいいと思っていた。アディが男の子を産んだ時、俺の役目は終わったと思ったんだ」


「……それで後宮に通わなくなったの? 役目が終わったら、顔を合わせることもしなくなるなんて。お2人はそのことに納得したの?」


ジルヴェストの話は、ソフィアには理解できないことばかりだった。そのせいで、多少口調がキツくなる。彼は苦笑を浮かべて告げた。


「血は繋がっていないが、2人とは家族のような関係だ。互いに、相手のことは誰よりもよく理解している。改めて話すようなことはない」


ソフィアは何と言っていいか分からなくて、黙って彼の目を見つめた。彼は彼女の目を見返して、話を続けた。


「シェリィとも、もう会っているのだろう。彼女が1度でも、俺に会いたいと口にしたか?」


「……そう言えば、そんな話は聞かなかったわ。娘さんの方は、ジルに会いたがっていたけれど」


「それは妹の方だろう。お前が帰った後で、シェリィに叱られているはずだ。『お客様がいる前で、あまり甘えたことを言ってはいけません。お父様にお会いできる日は、いつか必ず訪れます。その日までに、完璧な淑女としての振る舞いを身につけておきなさい』とでも言われてな。目に見えるようだとも」


ジルヴェストは平然とした顔で、シェリルの口調を真似ている。その様子がなんだかおかしくて、ソフィアは少し笑ってしまった。

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