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レイラの誤算(前編)

アドラム家は振興(しんこう)の商家である。当主であるバイロン・アドラムは、1代で家を大きくして、帝都の王宮に呼ばれるほどの人物となった。それでも所詮(しょせん)、彼は一介(いっかい)の商人に過ぎない。彼の家には娘しかおらず、跡継ぎの問題も深刻だった。それ故に、彼は帝国貴族との繋がりを強くするために、娘を後宮に入れることにしたのだ。幸いにも彼の娘は妻に似て美しく、帝都1の美貌を誇るクラム男爵家の令嬢と並んでも見劣りしないほどだった。


「いいかい、レイラ。お妃様方と仲良くなれたら、いつでも帰ってきていいんだよ。白い結婚なら離婚できるし、お前の美貌なら次の相手はすぐに見つけられるんだからね。……もしも陛下のお渡りがあれば、すぐに私に言いなさい。その時は私が、必ず何とかしてあげるから」


アドラムは娘にそう言い聞かせた。娘も彼の意図を正しく受け取って、その目を見つめて頷いた。こうして彼女は、帝国の後宮に入ったのだが。


(相変わらず、陛下はお越しにならないわね。ディアナ様からは敵視されているから、動きにくいし。こんな調子じゃあ、お父様がお望みになったような縁を結ぶことも出来ないわ)


数人の侍女を部屋に入れた状態で、彼女は1人、ため息をつく。生まれつきの美しさだけでは、皇帝の心は手に入らなかった。それどころか、クラム男爵家から警戒される理由となってしまったことで、後宮でのレイラの立場は微妙なものとなっている。そのことを思って、もう1度。彼女が息を吐いた時に。


「……あ、あの、レイラ様。最近後宮に、新しい方が入ってこられましたよ。なんでもオルグレンから来たそうで……」


壁際にいた侍女の1人が、遠慮がちに口を開いた。レイラは彼女に、冷たい眼差しを向ける。


「オルグレンから? そんな子に(こび)を売って、何になるの。どうせ人質のようなものでしょ」


「そ、それが……その。皇帝陛下が、正妃様も第1側妃様も放って、その方の元に通われているそうで。どうしてなのか、その理由までは分かりませんが……」


レイラに(にら)まれた侍女は、怯えた様子でそう言った。レイラはその言葉を聞いて、口元を笑みの形に歪める。


「……そう。あの陛下が、田舎娘をお好みになるなんてね。道理で私ではダメなはずだわ」


彼女は父に連れられて、大陸中を回った。当然、オルグレンに行ったこともある。長閑(のどか)で穏やかな、何ということもない田舎の国。それが彼女にとってのオルグレンの印象だ。


「あの国は昔から、お人好しが多いもの。案外、貴族令嬢よりも取り入りやすいかもね。……楽しみだわ。その子に会うのが」


そう呟いて。レイラはニッコリと、微笑んだ。

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