ソフィアの過去(前編)
早朝。まだ日が登りきっていない頃に、彼女の1日は始まる。
「それじゃあ、行ってきます!」
元気よく挨拶をして、小さなお城を飛び出して、軽装で畑に出る。そして彼女は作業の途中だった友人たちに混ざって、畑仕事を手伝った。
「いつもすまないねえ、ソフィアちゃん。お茶飲むかい?」
「あっ母ちゃん! ソフィアばっかズルいぞ!!」
「ハイハイ。心配しなくても、ちゃんとアンタの分もあるよ」
友人の母が声をかけてきて、それに彼が怒って返す。そんなやり取りも日常だ。冷たいお茶を飲みながら畑仕事を済ませたら、明るい日差しの下で集まる。
「ねえ、今日は何して遊ぶ?」
「はーい! 僕、鬼ごっこがいい!」
「ええー、鬼ごっこは昨日もやっただろ。狩りに行こうぜ! せっかくソフィアもいるんだし!」
「やあよ。ソフィアちゃんはアンタたちと競えるくらい腕がいいけど、アタシたちは全然だもん」
「じゃあさ、魚とりは? 苦手な子も、投網を使っていいことにすればそれなりに捕れるし」
「いいねそれ! 採用! さっすがソフィアちゃん、いいこと言う〜」
輪になって座って、今日やることを決める。そうしたら皆で立ち上がって、目的地に向かって競争する。そんな彼女たちを、大人たちは優しい笑顔で見送った。
「ソフィアちゃんは、相変わらず元気がいいね。あの子がお嫁に行ったら、ここも寂しくなるだろうなあ」
「あら。あの子にも、嫁入りの話が来てるのかい?」
「話が来てるっていうか、こっちから持ち込むらしいよ。昨日、王様が王妃様と相談してたから。そろそろウチからも帝国に人質を送って、正式に守ってもらえる立場になるべきじゃないかってさ」
「そういうことか。確かにそれなら、ソフィアちゃんを送るのが1番だろうな。でも、大丈夫かね。あの子が帝国の後宮で、大人しくできるとは思えないけど」
「そこはほら、本人にも確認するんじゃないか? あの王様たちのことだ。ソフィアちゃんが嫌がるなら、無理強いはしないだろ」
「確かにね。……でもソフィアちゃんは、自分が行くって言うだろうなあ。あの子はそういう子供だもの」
そんな会話を交わした後に、大人たちは憂い顔でため息をつく。末の王女は皆から好かれているが、特に子供たちからの人気が高い。
「そうだよねえ。……はあ。ウチの息子は、落ち込むだろうな」
「ウチの娘たちだって! ソフィアちゃんが居なくなったら残念がって、しばらく仕事も出来なくなるさ。でも仕方ないよ、これもオルグレンを守るためだ」
「うんうん。それにエリアスの皇帝陛下なら、そんなに悪い噂は聞かないもの。きっと大丈夫、ソフィアちゃんは今まで通り、自由気ままに過ごせるよ」
それはそうだと頷き合って、大人たちは自分の仕事に戻っていく。太陽はまだ、空の高い場所で輝いていた。