来客(前編)
ソフィアが少し元気を無くしていた、その翌日。昼頃に、彼女の部屋に客が来た。
「こ、こんにちは……! 突然訪ねてきてしまってすみません、ソフィア様」
少し慌てながら、そう言って頭を下げた少女の後ろで。顔見知りの騎士が、ヒラヒラと手を振っている。ソフィアは部屋に通された2人を見て、慌てて立ち上がった。
「いえ、そんな! カトカ様なら、いつでも歓迎いたしますよ。もちろんマノンさんも!」
恐縮するカトカを椅子に座らせて、彼女はマノンに向かって手招きする。マノンは苦笑を浮かべて、カトカの隣の席についた。ナディアが慣れた手付きでお茶を淹れて、2人の前に置く。カトカは出されたお茶を一口飲んで、ゆっくりと話しだした。
「……私、本当に死んだかと思ったんです。あの時。目が覚めてからも、しばらくは死後の世界だと思っていたくらいで。でも、少しずつ、周りの状況が分かってきて。……どうして私なんかにと思った時に、ソフィア様のことを聞きました」
カトカと向かい合う形で座ったソフィアが、その言葉を聞いて暗い表情になる。彼女は沈んだ声で言った。
「……さぞ驚かれたでしょうね。申し訳ありません、カトカ様。私のせいで、あなたを危険な目に遭わせてしまって……」
「いいえ、ソフィア様。あなたのせいではありません。悪いのは私を殺そうとした人たちです。そこにどのような思惑があろうとも、それをあなたが気になさる必要はないのです」
カトカはソフィアの言葉を遮って、彼女の目を見つめながら告げた。ソフィアが驚いたような顔をして、息を飲む。彼女の目の前にいる少女は、真剣な表情で続けた。
「そもそも、ソルベ国が帝国を裏切らないための証として嫁いできた私に、母国とは関係のない私怨で暗殺者を差し向けること。それ自体が、帝国とソルベ国との軋轢の原因となりかねません。そんなことも分からずに……いえ、もしかしたら大した問題とも思わずに行動したのかもしれませんが、どちらにしても大馬鹿者です。ソフィア様のお気遣いが無ければ、私は母国に報告を上げておりましたわ。あなたはむしろ、最善の手を尽くされたのですよ、ソフィア様」
そう言われて。ソフィアは今度こそ、返す言葉を失った。自分がやったことは全て勝手なことで、ジルヴェストに迷惑をかけただけだと思っていたのに。
(それが帝国のためになっていた、なんて。そんなこと……)
考えもしなかったし、カトカからそう言われてもまだ、何かの間違いなのではないかとすら思う。そんな彼女の様子を見て、マノンは苦笑を浮かべていた。