外出(後編)
人と馬車が行き交う大通り。その片隅で、ソフィアは感嘆の声を上げた。
「初めて来た時も思いましたけど、ここはとても賑やかですね。この人たちは、みんな旅人なんですか?」
「いえ、半数以上が商人です。大陸の各地から商品や素材を仕入れてきて、店に運び入れているのでしょう」
「……ああ、なるほど。慥かにここには、色んなお店がありますからね」
ソフィアは周囲を見渡した。宿屋や薬屋、雑貨屋に服屋。様々な店が目に入る。
「少し見ていっても良いですか?」
「勿論です。何処へなりとも、お供しますよ」
ベラが胸に手を当てて一礼する。ソフィアは彼女を連れて、大通りを横切った。そして目についた宝石店の扉を開けて、中に入った。
「いらっしゃい、お嬢さん。今日は何をお求めかな?」
店主がソフィアに声をかける。ソフィアは困り顔になった。
「ええと、その……あまり高い物は買えないのですが、品物を見せていただくことはできますか?」
「ああ、構わないよ。確か、この辺りに……」
店主がカウンターの下に手を入れて、小さなブローチが乗ったトレーを取り出す。
「2級品だが、細工はなかなか凝ってるだろう? ウチには腕の良い職人がいるんでね。どうだい、どれか1つ買ってかないか」
「……そうですね」
ソフィアはトレーの上のブローチを見つめた。それは動物の形をしていて、目の部分に宝石が嵌められている。
「じゃあ、この銀色のフクロウをください」
「はいよ。金貨300枚ね」
ソフィアが懐から金貨の詰まった袋を取り出す。彼女は袋を店主に渡した。店主は袋から金貨を取り出して、数を数えた。
「よし。ちょうど300枚だ。持っていきな」
中身のなくなった革袋に品物を入れて、店主は袋を彼女に返した。ソフィアは笑顔で袋を受け取って、大事そうに抱えた。
「ありがとうございます」
「おう。気に入ったんなら、また買いに来てくれよ」
そんな会話を交わして店を出る。扉が閉まったところで、ベラがソフィアに話しかけた。
「ソフィア様。お金なら、私も少しは持っています。足りなくなれば頼ってください」
ソフィアは目を見開いて飛び上がった。
「そんな! そこまでお世話になるわけにはいきません。それに、私はこれでも王女です。自分が使うお金くらいは、自分で用意できますよ」
「そうですか。分かりました。ですが、困った時は頼ってください」
ベラが真顔で告げる。ソフィアは苦笑を浮かべて頷いた。
「……はい。どうしても必要なものが見つかった時は、そうさせていただきます。ありがとうございます、ベラさん」